文月と華乃森
「美沙姉〜、理沙姉〜、見て見て〜」
振り返った2人の目に映ったのは、
小学生くらいの男の子を抱えた妹の姿だった。
「知沙、どこで拾ってきたの!?」
さすがに誘拐するほどバカではないとは思うが、それでもどこから連れてきたのかわからない少年を抱えた知沙に対し理沙は声を荒らげる。
「え?さっき3階で」
3階、という事はどうやらFHC生らしい。
かわいいでしょーと笑う知沙、その手元で少年は何故かドヤ顔をしていた。
「知沙、元の場所へ帰しておいで」
美沙は無邪気に笑う妹をそう諭す。
あまり慌てた様子はなくどうやら慣れているらしい。
慌てないのは彼女の性格故かもしれないが。
「はーい…帰ろっか」
「わかった!」
知沙の帰ろっかの一言に少年は元気に返事する。
「そういえば君名前は?」
理沙がそう聞くと、知沙の手から下ろされた少年は振り返る。
「はなのもりゆきはる!」
元気にそう答えた少年はまたも誇らしげな顔をする。
「ゆきはるくん、1人で何してたの?」
「1人じゃなかったよ!兄ちゃんたちと一緒!」
「え?」
幸晴の言葉を聞き美沙も理沙も知沙の方を見る。
「知沙、あんた堂々と誘拐してきたの?」
半ば呆れながら理沙がそう問うと、知沙は首を横に振る。
「全然!この子が連れてってもいいよって言うから!」
「うん!いいよ!」
幸晴はそう言うと知沙の後ろに視線を移す。
「兄ちゃん!」
「ここにいたんだねー幸晴」
幸晴に釣られ3人が視線を移すと、そこには幸晴と同じ髪色をした青年が2人立っていた。
1人は大人のようだが、もう1人は高校生くらいに見える。
「ほら知沙、お兄ちゃんたちに返してあげなさい」
「はーい、ばいばい幸晴くん!」
「うん、ばいばーい!」
理沙が返すように促すと幸晴は兄たちの元へ元気よく走っていく。
「どうもー、弟がお世話になりましたー」
「いや、こちらこそ妹が迷惑をかけて申し訳ない」
丁寧に挨拶する長男と思しき男性に、美沙も妹の非礼を詫びる。
「あ、俺は華乃森幸臣といいます、養成所生っぽいからまた会うかもしれないし、よろしくねー」
「華乃森幸朋ですー」
「文月美沙だ、よろしく」
「…文月理沙」
「あ、知沙だよぉ〜!」
お互い自己紹介をし改めて考える。
見たことがない相手、という事は別の期なのだろうか。
「俺たち3期生なんだけど、君たちは〜?」
「4期生だよ!」
「先輩だったのか」
「僕の方が先輩!」
幸晴が誇らしげに鼻を鳴らす。
「先輩だ〜!幸晴先輩!」
「えへへ!」
知沙も幸晴を煽てるように言った。
ドヤ顔で仁王立ちする幸晴を見て幸臣が言う。
「俺の弟、かわいいでしょー」
あ、幸晴もだしもちろん朋もね、と幸臣は付け足す。
どうやら兄弟愛が深いらしい、ということを美沙と理沙は察する。
「ああ、元気でかわいい子だね」
かわいい、という言葉に満足したのか笑顔で頷く幸臣。
と幸朋。
どうやらどちらも相当なブラコンのようだ。
そのやり取りを見ていた幸晴が口を開く。
「僕の兄ちゃんたち、かっこいいでしょ〜」
三人とも兄弟愛が深いらしい。
知沙がかっこいいね〜と幸晴の頭を撫でる。
ふふん、と幸晴は得意げな顔をした。
「さて、そろそろレッスンが始まるな」
「あ、ほんとだ!早く行くよ理沙姉!」
「いやあんた待ちだよ」
廊下の壁に掛かる時計を見て美沙が二人に声をかけると、知沙が理沙を急かす。
理沙はあきれた様子でそれに返している。
文月家ではよく見る光景だ。
「あ、俺たちもレッスンだね」
「そうだねー」
「行こ〜!」
華乃森兄弟もそう言ってレッスンルームへ向かおうとする。
「またね〜!」
知沙がそう言って三人に手を振る。
「また遊ぼうね〜!」
幸晴も大きく手を振り返す。
その後ろで兄二人も軽く会釈。
別々のフロアでレッスンらしい。
三人の姿がエレベーターに消えると、知沙たちもレッスンルームへ歩き出した。
これがこの二組の三兄弟の最初の出会いである。
〜Fin〜
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