あまり深く考えずに
「へー、小説書いてるんだ」
加済暁生は彼、九嵜星牙の手元を覗き込みそう言った。
あまり深く考えずに
「そうなんだ、趣味でちょっとね」
隠すこともせず星牙はさらりと返す。
彼は趣味で投稿サイトに小説を載せており、それで金銭を得ている。
かなり売れているのか、養成所の経費もそこで稼いだお金で来ているようだ。
「すごいね、どんなのを書いてるの?」
「んー、ミステリーやホラーがほとんどかな」
「へー、頭がいいんだね」
そこでしばらく沈黙。
そういえば暁生とはあまりしゃべったことがないな、と星牙は考えていた。
彼のこともあまり知らないし、こちらから話題を振るにはどうするべきか。
「何か読んでみてくれるかい?」
思いついた言葉は自身の小説を勧めるものだった。
ブックマークしていた投稿サイトを手早く開き、自身のページへと飛ぶ。
そこで目次を表示し、スクロールして見せる。
「何か好みのものがあればだけど」
「いいの?じゃあ読ませてもらおうかな」
暁生は星牙のスマホを手に取り、たまたま目に止まったタイトルをタップし、その文字を口にする。
「"あまり深く考えずに"」
「ああ、それは短編で書いたやつだなぁ
さらっと読むにはちょうどいいかも」
「そっか、じゃあこれを読ませてもらおうかな」
暁生の視線がスマホの文字を追う。
時折画面をスライドさせる指先、そしてまた文字を追う目線。
目の前で誰かに自身の作品を読んでもらうのは気恥しいものがあるなー、と星牙は考えていた。
暁生の指が止まる。
「読み終わった?」
暁生は星牙の方に視線を戻し、スマホを返す。
「すごく面白かったよ、タイトルの通りあまり深く考えずに読むことが出来た」
「そっか、ありがとう!」
「良ければそのページ、教えてくれるかな?
他のも読んでみたいな」
「もちろんだよ」
星牙はサイト名と自身の作家名を伝える。
暁生は自身のスマホでそれを検索し、出てきたページを確認してブックマークボタンを押した。
「ありがとう、家でゆっくり読ませてもらうね」
「良ければ、また感想を聞かせて貰えると嬉しいな」
「是非」
また少しの沈黙が流れる。
「あまり深く考えずに…」
星牙は先程のタイトルを呟く。
「あまり深く考えずに読んでも成立するんだけど」
「うん」
星牙の言葉に暁生は耳を傾ける。
「あの小説は深く考えると別の一面が見えてくるんだ」
「そうなの?」
そうなんだ、と星牙は暁生の顔を見て笑う。
「深く考えずに生きてたって、その人生は勝手に深みを増していく。
そんな意味を込めて、俺は深く考えた上で"あまり深く考えずに"ってタイトルをつけた」
なるほど?と暁生も相槌を打つ。
あまり理解出来た様子ではない暁生を見て星牙は笑う。
「あはは、良ければそれを踏まえた上でもう一度読み直してみてくれないかな?
いつでもいいんだけど
深く考えた感想も聞かせて欲しい」
「わかった」
これがこの2人の最初の会話。
あまり深く考えなくても、2人の人生は進んでいく。
END
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