「あの部屋にキングサイズのベッドは入ると思うか?」
「オレはクイーンサイズでもいい。狭ければ、くっついて眠る口実になるからな」
「必然的に私たちの距離も縮まることになるが、正気か?」
「それなら、レイはベッドの片隅で寝てくれ」

 家具屋でベッドを見ながら顔を突き合わせて会話をする長身の男性二人。その背中を少し離れた場所で見つめる。
 今日はレイとマヒルの三人で、ベッドを新調しに来ていた。

 レイもマヒルも、多忙で一緒に過ごせる時間は限られている。レイがうちに来る日はマヒルが天行に、マヒルがうちに来る日はレイが夜勤や出張に。そんなふうに、タイミングが良いのか悪いのか――二人にとっては、わたしを取り合わずに済むからタイミングがいいのかもしれない――三人で揃うことは、滅多になかった。それが、ここ最近、時間を意識的に作ってくれているのか、二人のわたしの家に泊まりに来るタイミングが重なるようになっていた。
 三人で眠るには、わたしのベッドでは小さすぎる。それも当然だ。あの部屋は、わたしがひとりで暮らすために借りたものだし、ベッドもわたしの健やかな睡眠しか保証していない。そのベッドに、背が高く、体つきもしっかりした男性が二人とも入ろうとすれば、狭いに決まっている。
 最初こそ、どちらかがわたしと一緒にベッドで、もうひとりはソファで眠るようにしていたのだが、ただでさえ、身体的負担の多い仕事をしている彼らを、ソファで休ませる続けるなんてわたしの良心が痛む。だからと、間をとってわたしがソファで眠り、マヒルとレイで主不在のベッドで仲良く眠る――なんて提案は、口にする前に笑顔と視線で黙殺された。

「それなら、どうするの?」
「いっそ、ベッドを新しくしたらどうだ?」
「そうだな。この先も直面する問題ならば、早めに解決した方がいい」

 レイとマヒルの一見が一致し、善は急げとばかりに、こうして家具屋に来ているわけである。
 二人とも、自分も眠る寝具だからか、真剣に吟味している様子だった。マットレスがどうの、低反発やらコイルがどうとか、白熱している気配すらある。
 はじめこそ、レイもマヒルも、わたしの意見も確認してくれていたが、今ではすっかり二人の世界だ。この言い方をしたら顔を顰められそう。
 早々にベッド選びに飽きてしまったわたしは、マヒルに買ってもらったクレープを片手に、彼らを眺めることにしていた。クレープを見たレイはわかりやすく羨ましげだったけど、甘味よりも当初の目的を優先している。ひと口くらいあげてもよかったんだけどね。マヒルが笑顔で「ん?」と首を傾げてくるから、独り占めすることにしたのだ。
 生クリームの甘い舌触りといちごの甘酸っぱさが口内にふわりと広がる。生地は端はぱりっとしていたが、全体的にもちもちとしている。美味しい。あとで、レイにも食べたほうがいいと勧めてあげよう。わたしが言うまでもなく、彼ら既に買う算段を立てているかもしれないけれど。
 くすりと笑う声が聞こえ、顔を上げる。そうすれば、レイとマヒルがわたしの正面に並んで立っていた。

「ベッドは決まったの?」
「ああ。私たちが決めてしまってよかったのか?」
「兄ちゃんのことを信頼してくれてるのは嬉しいが、オレたちよりも、お前が一番よく使うんだ。もっと我儘を言ってよかったんだぞ」
「お医者様と執艦官様が、快適に過ごせる場所であってほしいじゃない。それに、二人が選んだベッドなら、間違いないでしょ?」

 わたしの言葉に二人は目を丸めてから、お互いに顔を見合わせた。そうして、停戦協定だと言わんばかりに肩の力を抜き、マヒルの腕がわたしの体を軽々と抱き上げる。

「え、なに? 自分で歩けるよ」
「わかってる。退屈させちまったお詫びだ」
「クレープひとつではまだ足りないだろう。近くに、美味しいカフェがあるんだ。そこへ行こう」

 レイはわたしの頬を折った関節でくすぐるように撫でる。

 ――子ども扱いみたいで恥ずかしいんだけどな……。

 そうは思っても、わたしを見る二人の甘ったるい視線に、わたしは口を閉ざすしかできなかった。これが、二人にとっての甘やかしで、愛情表現である以上、わたしに拒むことなどできるはずがないのだ。


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