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眠れる騎士が託つ痛惜

「わたしね、凛月のことすきだよ」
あの子の想いは知っていた。だから想いを告げられた時も、最低かもしれないけど、特にこれといった所感は湧いてこなかった。

だって、俺はあの子を本当の妹のように可愛がってたんだ。綾音の気を引こうとして綾音をいじめていたガキ大将に天誅を加えたのも俺だし、ま〜くんと喧嘩して嗚咽をこぼしながら泣きじゃくる綾音を夜通し慰めたのも俺。
何ならほぼ無意識にトラブルに巻き込まれるお人好しなま〜くんとは違って、そこにいるだけで釣瓶打ちにトラブルが畳み掛けてくる綾音の手を引いて、あらゆる火種が奇麗な肌を焼かないように守ってたのだって、俺だ。
普段は面倒だって疎んじるような事柄も、綾音が関わるなら自ら進んで処理してた。過保護が過ぎるくらい干渉して、傍にいて。それはぜんぶ、目に入れても痛くないくらい、綾音のことを大切に愛でていたからなんだよ。
でもね、綾音は俺を男として見てて、『そういう意味』で『すき』って言ってきて。「お兄ちゃんとしてすき」って言ってくれたなら「俺も綾音はすきだよ」って返すことができたのに。
向かい合った綾音の目の奥には、妹としてじゃなく女の子として希うような光が宿ってたから。面する俺は、家族やペットに対するような愛護を包有する目で綾音を見ていたから。
ああ、その『おねがい』は叶えてあげられそうにないなぁ。もう元の関係には戻れないんだろうなぁって脳味噌の裏っ側で感知しながらも、俺は一縷の望みを懸けてこう告げたんだ。

「このままでいいでしょ?」

このままがよかった。これ以上、距離が近付くのも遠退くのも怖かった。ただ何も考えず、煩わしい世間の目なんていっさい抜きでま〜くんと綾音と俺でいつまでも一緒に居られたら、ほかに望むことなんて無かったのに。
情状酌量の余地もなく、血も涙もなく。自分本位の甘ったれたことを述べ、あの子に自分の心を磨り潰すことを半ば強要した俺に天が下した罰は、よりにもよって誰も想像すらしていなかった生涯最悪のバッドエンド。
────あの時見た綾音の顔は今でもたびたび夢に出てきては、嘲弄するように俺の心を無数の棘で滅多刺しにしていく。