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君を愛縄で拘束

 長い。実質的には大して時計の秒針が回っておらずとも、倦まず繰り返される口づけはおそろしく執拗で、綾音の現在時刻の経過を有耶無耶にさせた。
 1番ファーストも、2番セカンドも。誰にも譲らないと誇示するような傲慢さで凛月は荒々しく綾音に口づける。歯が当たっても気にしなかった。綾音がぶつかった痛みで顔を顰めても歯止めなんて利かなかった。ただ夢中で啄んで、吸って。それだけでは満たされなくて、舌で綾音の唇をこじ開けて口内にまで潜り込んだ。
 抵抗のつもりか、綾音は苦しそうにしながらも顔を傾ける。凛月は彼女とは真逆のほうに顔を傾けて、より深く唇が交差するよう綾音の頭部を両手で挟みこんで己に引き寄せた。固定することによって奥に引っ込められていた綾音の小さな舌を捕まえることが叶う。新鮮な酸素を得ようと身動いだだけなのにその動作がかえって裏目に出てしまい、キャパを越えて今にも泣き出しそうな綾音のくぐもった声が、蓋をしている凛月の口の中にあえなく飲み込まれていった。
 夜行性である吸血鬼は境域下であると、五感が冴えるだけでなく目も利くのだろうか。いっさい明かりのなくなった保健室で逃げ惑う舌を的確に搦め取り、唇の裏側に溜まった唾液さえ残らず啜る凛月は、綾音に関する事象以外『興味ない』といった様子だ。
 喉奥から絞り出すような声を聞いても舌を解放する素振りは見せなかったが、キスだけでいっぱいいっぱいになっている綾音の様相を喜悦の滲ませた表情で眺める。そして夢心地に浸るように瞳を閉じて、強張りの解けない舌を宥めるように擦り合わせた。
 唇の表面が痺れるくらい濃厚なフレンチキスを一方的に興じ、いくらか心足れりとした凛月がようやっと綾音から顔を離した後。眼下にはすっかり思考も顔もとろけ切った綾音の風貌が晒されていて、彼は至極満足そうに頬を緩めた。彼女の口端にはどちらのものとも判断つかない唾液が垂れている。
 唾液を指で掬い取って半開きになっている綾音の唇に塗りつけてやれば、激しいキスの余韻から抜け出せていないぼんやりとした瞳が凛月を見上げた。目尻のほとりから溢れそうな涙を吸い取り、胸奥からこみ上げる優越に堪え切れず彼はつい「ふふふ」と笑ってしまう。

「俺のキスで綾音がとろとろになっちゃうの、想像してた以上に最高……♪」 瞼の裏が猛る火焔を前にした時のように熱い。全身を刷毛でくすぐられているようなむず痒さが狂おしい。お腹の奥がひりひりと焦げていくように疼いて、縋るものが欲しくなる。奔流のような激しさで綾音を飲み込んでいく身体の変調は相応の怖気を来たすもので、半ば恐慌状態に陥った綾音は情けを乞うように自身に跨ったままの凛月の首に掻きついた。

「ぅ……まって、りつせんぱ、こわ……」
「よしよし、こわくないよ〜」

 彼女をパニックに陥れた張本人は悪びれる風もなく平然と綾音を宥めすかし、小刻みに震える短躯をよっこらせと持ち上げて胡坐をかいた自身の膝上に落ち着かせた。自らを『おじいちゃん』などと号す凛月でも、学院で1番身長が低い彼女を抱えるくらい造作もないこと。案の定、綾音の身体はすっぽりと凛月の腕の中に収まってしまった。
 泣きじゃくる子供をあやすようにしばらく綾音の背中を摩っていた凛月だったが、ふいに閃いた悪戯に口角を吊り上げる。綾音の肩からいささか顔を突き出すように覗き込んで、丸まった背中を人差し指でつつつ、となぞり上げると、意識がほかに向いていた綾音は過剰なほどに身体を跳ねさせた。

「やぁ、り……っ、それ、だめ……!」
「なんで? 気持ちよくない?」
「ちが、も、わかんな……!!」

 稲妻に撃たれたような快楽は、処女である綾音には刺激が強すぎた。 刹那、最も敏感な花芽を吸われ、綾音は喉を逸らして背を撓らせた。

「は、もう固くなってる……気持ちい?」
「う、ぅう、も、そこばっか……や……」
「えー? だって、飲んでも飲んでもひっきりなしに溢れてくるよ……綾音の蜜」

「飲まなきゃ勿体ないじゃん」悪びれなく宣いつつ、喋ってる間にも貝の口からたらりと蜜がこぼれると、凛月は1滴も無駄にしないと言わんばかりの貪欲さで綾音の秘部にむしゃぶりついた。凄まじい刺激が尾てい骨から脳天まで迸り、綾音は子犬が尾を踏まれた時のような声を出して身をのたくる。
 気持ちいいなんて余韻に浸かる暇もない、暴力的なまでの快楽。ズズズッと品性に欠ける音を立てて蜜を吸った後、顔を上げた凛月は幾度目かの絶頂に達して四肢をひくつかせる綾音の姿に己の唇を舐めた。
 一糸まとわぬ短躯に散らばる赤いキスマーク。それはぜんぶ、ぜんぶ凛月がつけたものだ。成長途中の膨らみにも、括れが綺麗なわき腹にも、秘部の匂いが鼻腔を掠める内股にも、夥しい数の所有印を刻んだ。
 おもむろに一種のアートのようにも映る痕を人差し指でなぞると、意識を半分飛ばしている綾音は朦朧としたまま身体を戦慄かせた。

「……兄者に奪られる前に、俺が唾つけて牽制しておかないと……」

 昏い瞳で胸を上下させる綾音を見下ろし、ふと上体を屈めた凛月は綾音の喉元に噛み付いた。牙が皮膚を裂くことはなかったけれど、唇から感じられる彼女の脈動に箍が外れそうになる。みなぎる高揚感を鎮めながらも、徐々に唇の位置を下ろしながら凛月が考えるのは、自身が所属する部活・紅茶部の部室で『皇帝』こと天祥院英智と交わした会話の内容だった。

「凛月くんは、ひな鳥と呼ばれるあの子がほかになんて言われてるか、知っているかい?」
「……はあ? 知らないよ、そんなの。人の呼び名なんて興味ないし」
「小さき猛獣使い。あの三奇人の心を射止めたんだ、そう評されるのも当然だよね」
「エッちゃんはなにが言いたいの」

「────僕たちの歌とダンスに引き寄せられてきた幼いニンフは、いったい誰の手中に堕ちてその加護を齎すのだろうね?」「う、う〜〜〜」
「あ、ちょっと、泣かないでよ……これくらいで泣いてたらこの先もたないよ?」

 意中の相手が取り乱して泣きじゃくっても、凛月は微塵もぶれなかった。「ほら、」とスカート越し綾音の秘部に自身の下半身を押し付け、意地の悪い笑みを浮かべる。立て続けに腰を揺らすと綾音は滂沱の涙に溺れた瞳で居た堪れないような、けれどどこかもの欲しそうな表情を垣間見せるから、凛月は大人げない仕打ちをついつい繰り返してしまうのだ。

「綾音のここ、俺のぜんぶ挿入るかなぁ。綾音ちっちゃいから、収まりきらないかもね?」
「う……んんっ!」

 暗影がさす言葉に怯えの色を見せた綾音に口づけし、凛月は己の局部を押し付けていた秘部を今度は指でなぞりだした。