天狗のアマキツネ
陰陽師という、力を持つ人間である以上、それは珍しいことではない。
身の程を知らぬ小物ほど、力に目がくらむのは、人も妖も同じことだ。
陰陽師の護衛を任された大天狗は、忌々しいと言わんばかりの表情を隠すこともせず、周囲に視線を走らせる。
誰そ彼の八衢には、誰の姿も無い。
「陰陽師、我から離れるな。我から離れたその時は、貴様など容易く喰われるぞ」
「……分かりました」
陰陽師が大天狗の陰に隠れるまでを見届けると、大天狗はくるりと手中で団扇を構える。
「其方が口を利かぬというならば、此方から出るより他にあるまい」
斜陽が赤々と燃える逢魔が刻に、凡そ似つかわしくない暴風が、八衢を駆け巡る。
風は大天狗の力の下、縦横無尽に駆け回り、風の刃となる。
軌道の見えぬ刃に襲われれば、妖とてひとたまりもない。
八衢の物陰から、微かな物音が響いた。
「……そこか」
短く吐き捨てると、大天狗は強く地を蹴り、空へと飛び立つ。
「暴風を支配する我が力を見よ!」
忽ち、鴉の黒羽を纏った小夜嵐が渦を巻き、急襲者へと襲いかかる。
黒羽根の間を縫うように、凄まじい速度で空を流れる白い装束は、まさに天狗。
流星は、陰陽師の隣に降り立つ。
途端に風は凪ぎ、後には夜の迫る誰そ彼だけが残された。
古く、中国では、凶事を知らせる流星を犬に見立て、天狗と呼んだそうです。そんなお話。