独り語り

 森の中程に、僅かばかり拓けた場所が、無数の植物に呑まれそうになりながらも、息をしていた。

 耳を澄まし、目を凝らせば、何時かの人々が残した息吹を感じることも出来たかもしれない。
空に向かって聳えるは、朽ちかけた一本の柱。

「龍よ」
柱に腰を下ろし、風神はただ独り付き従う龍を呼び寄せる。
薄紅の龍は、空を泳ぎ、風神の傍らに舞い降りた。

 その頭に手を乗せて、風神は気付く。
「……そうか、氏子が、また一人……」

 風神の力は、とうに衰えた。
信仰を失い、社も廃れた今、風神に残された物は、このまま唯一聳える柱と共に、朽ち果てる日を待つ道のみ。
村を救い、人を救い、そうして在り続けた己の末路を、風神は受け入れていた。

「……我の数百年は、その程度のものであったか」
自嘲の声は、誰にも届かず、森に溶けて消えていく。

 神格は、間も無く消えるだろう。
だが、その先は?

 風神が朽ち果て、消えるその日が訪れたなら。
風神が片目を失ってまで守り抜いた氏子を、一体誰が守ってくれると言うのだろう。
もう二度と祀られはしない身だ。
そう切り捨てられたなら、どれ程楽だっただろう。

 風神は、それを赦しはしない。
人々の祈りによって生まれた風神は、人々を見捨てられはしなかった。

「……浅ましい執念と呼ぶ他にあるまい。未だ、人を守りたい等と思っておるのだから」
風神は隻眼を伏せて、ただ時の流れに身を任せるのみ。
森から何処へと吹き抜ける風は、風神の胸中に蟠る靄を吹き流しはしなかった。