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今日、ガンダムが哨戒するのはコロニー内だ。哨戒パートナーである寒冷地仕様ジムとともに、平和な草原を歩く。
「あーあ、ヒマっスねえ」
「良いことじゃないの。平和で結構」
密閉型コロニー特有の人工太陽灯の暖かな光を浴び、大きく伸びをする。プロジェクターで投影された青空も、なかなか風情がある。
「今日は雨の予定もないし、さんぽ……いや違う、哨戒日和じゃないか」
「ぶっちゃけ、哨戒の意味あるんですかねェー。哨戒ってそもそも、敵の侵入や襲撃に備えて警戒することを指すんスよね。敵って、どこの誰スか」
もともと哨戒というのは、敵がこのコロニーへの侵入もしくは襲撃を警戒し、周辺の区域を見張るものなのだが、ありがたいことに平和ゆえ、今のところ、このコロニー────もしくは我々軍隊と敵対するナニカは存在していない。その疑問が浮かぶのも頷ける。
「敵がいてもいなくても、哨戒は常時行うものなワケ。常時行うことで、コロニー内外の小さな異変にも気付ける。それに、なにかあってからじゃ遅いんだぞ」
「あ、こっからちょうど入国管理局が見えるんスね。わーい」
「オレの話、聞いてたか?」
ジムが手を振った先には、コロニー唯一の出入り口である宇宙港と入国管理局がある。軍と管理局の関係は良好で、隊員たちが管理局に遊びに行ったり、逆に向こうの局員たちがこちらの軍用基地に遊びに来たりする。
「友達が管理局にいるんスけど、そいつがよくおれの部屋に遊びに来てくれるんスよ。ゲームがマジで上手くて、今度おれと対戦してくれるんス」
「へえ、それは楽しみだな」
突然背後から破裂音が炸裂した。声にならない悲鳴が喉の奥から漏れ出るのと同時に、人工太陽灯を受けてピカピカと光を反射させるテープが散らかる。
「おめでとう!」
「おめでとー!」
「おめれとー」
背後から祝福され、振り返ると、∀とSDたちが使用済みのクラッカーを片手に集まっていた。ささやかな火薬の香りが広がる。
「な、え、なにが?」
ガンタンク、ザク、シナンジュ、クシャトリヤ、騎士ガンダムとサタンガンダム、烈火武者頑駄無に武者デスサイズ、武者∀、武者頑駄無真悪参、殺駆頭、若神丸……このコロニーにいるSDのほぼ全員が、∀を中心に集まっていた。
「晴れて良かった記念だよ! 晴れて良かったと思う子はみんなクラッカーを鳴らそー!」
パンパン、とみんなのクラッカーが弾ける。なにが起こっているのかは、正直わからなかった。
「なんでSDたちが、∀を中心に一堂に会しているんだ。子守りか?」
「コロニー内にいるSDを把握してリスト化するために、SDをみんな集めて長官室に連れてきてくれーって、大将に頼まれたの。一緒にシャアザクもいたんだけど、いなくなっちゃったんだ。何か知らない?」
「オレは見てないな。ジムはなにか知ってるか?」
ガンダムが横を見てもジムの姿がない。不思議に思いつつ視線を地面へ落とすと、彼は直立不動の姿勢で地面へ伏していた。
「うわ! 大丈夫かジム!」
「こいつ、クラッカーのおとでキゼツしたぞ!」
「フハハハ! このサタンガンダムさまをまえにたおれるとは、なんとなさけない!」
「コラ、乗るな乗るな」
倒れたジムの身体に乗ってこようとしてくるサタンやシナンジュたちを退けつつ、彼の肩を持ち大きく揺らすが、起きる気配はない。
「あれ、起きないね。ジムくん大丈夫?」
「しんでる!」
「しんれうー」
「勝手に殺すな、お前もクラッカーの音くらいでなにビビってんだよ」
「ぼく、おこしゅー!」
「は? ちょっと、タンク!?」
たとえ小さなSDだとしても、ガンタンクの大砲の威力は強烈だ。この前もガンダムがお気に入りだった草原が焼け野原になった。このままではジムが消し炭になる。
「ストップ! タンク待って!」
「はい、そこまで」
狙いを定めたガンタンクのガンバレルがひょいと上を向く。持ち上げたのはデスサイズヘルカスタムだった。
「うってないもん」
「パパの言うことが聞けないのか? 悪い子にはぎゅーってしちゃうぞー」
「やーだー」
「えっ! ショックだな。パパのこと嫌いか」
撃つのをやめたガンタンクのバレルをくにゃくにゃと弄ぶ。ヘルがここまでデレデレした、幸せそうな顔をするのは初めて見た。
「パパって……このガンタンクを作ったのはお前か」
基本的にコロニー内にいるSDたちはみんな、隊員が合金製のモデルキットを購入し、組み立て、人格となる付属AIを入れて作り出した機体だ。
「おう、こいつは俺の子だ」
「はなしてー」
「がんたんくをはなせー! てやー!」
ゴンッ、と鈍い音と共に、ヘルの動きが止まる。落とさないようにゆっくりとガンバレルを下ろすと、衝撃を感じた方向に目を向ける。
「今、俺のアクティブクロークに体当たりしたのは誰だ……?」
下がってしまったバイザーを押し上げ、元気よく手を挙げたのは騎士ガンダムだった。
「わたしだ。せーぎは、われにあり!」
彼の背後に烈火武者頑駄無と武者頑駄無真悪参が集まって、「せいぎはわれらにあり!」とわめきはじめる。
「なかまのがんたんくをもてあそんだ、そのつみはおもいぞ!」
ビシッとヘルを指差してセリフを決めると、周りのSDたちが「いいぞー」「かっこいー」と口々にもてはやし、ヘルに対して壁を作るように、ガンタンクをSDのみんなが取り囲む。
「ほぉう……なるほど、死神に楯突くつもりか。そこまで言うなら、この俺様が直々に遊んでやろう」
そう言い放ったヘルがおもむろに懐から取り出したのは、ビームサイズだ。悪役に徹するつもりだ。巨大な刃が現れ、大きく振り回してから構え直す。
「軍用基地まで競争だ! 散開!」
「きゃー!」
その声と同時に、SDたちがわーっと基地に向かって一斉に走り出す。
「∀、まだ何機か集まってないだろう。面倒そうな奴はみんな基地に走って行ったから、俺が何とかしておく。他の子を探しに行ってこい」
「わあ、ありがとう! 助かる」
「よォし、リナライト行くぞ」
「おー」
そして、ヘルはSDガンタンクをつれてビームサイズ片手に走って行ってしまった。嵐みたいなやつだな、という言葉を飲み込む。
「宝石の名前か。洒落てるな」
「好きな名前つけてあげられるの、楽しそうだよね。ぼくもSD作りたくなっちゃうな」
いまだに寝転がっているジムの肩を掴み、「おーい、いい加減起きてくれ」と揺り起こすと、カメラアイがぼんやり点る。
「みんないなくなりました? 関わったら面倒そうなんで気絶したフリしてたんスけど」
「だと思ったよ。お前がおもちゃのクラッカーごときで気絶するわけないもんな」
身体を起こしながら、ジムは疲れたように地面にあぐらをかく。
「大将も、なんで急にSDのリスト化なんて思いついたんスかね。仕事休みの隊員を使ってまで」
∀の話によると、今後新たにSDのモデルキットを発注するにあたり、キットの被りが発生しないようにするためらしい。
「このコロニーのSDも増えたからね、管理体制も少し変えていくみたいだよ」
「大将も大変みたいだな」
後ろから「おい、他の奴らはどうした」と、少し慌てたような声が聞こえて振り返る。シャアザクがSDのクィンマンサをつれて、肩で息をして突っ立っていた。彼の背後にはSDのエルメスが浮遊している。
「他の子はヘルが基地まで連れて行ってくれたよ。シャアザクの方こそ、どこに行ってたの?」
「クィンを探しに行っていたんだ。ようやく捕まえられたから戻ってきたんだが」
「ようやくって、ずっとその子を探してたの?」
「ああ。追いかけっこには自信があったんだが、思ったよりすばしっこくてな。うちのエルメスに説得を頼んで、ようやく連れてきたんだ」
「そりゃ、追いかけたら逃げるよ。クィンちゃんは特にすばやいんだから。そういうときは、ゼータくんかメタスちゃんのところに行こうって言えばよかったのに」
その名前を出したとたん、「行っていいのか?」とソワソワし始める。
「うん。ちゃーんと許可はもらってるから、ぼくと一緒に基地に戻ろう」
それを聞いたクィンマンサは、ウキウキとした足取りで基地に向かって歩き出す。∀が「ほらね」とシャアザクに微笑むと「ふむ、なるほどな」と納得したようにうなずいた。
「∀がこの仕事に抜擢された理由がわかった」
「とりあえず、これで全員そろったかな。ぼくたちも基地に戻ろうか」
「そうだな。アストレア、行こうか」
エルメスはシャアザクの言葉に同意するように、ゆらりと寄り添う。
「じゃ、おれらも哨戒に戻りますかー」
今の今までずっと座っていたジムが、ようやく重い腰を上げる。
「サボってるところなんか見られたら、哨戒リーダーにどやされますからね。夕方まで、この辺散歩してましょ」
「オッケー。じゃあ、行こうか……あ、ちょっと待って」
ガンダムが∀の背中に「∀、今日の夜、仕事だっけ」と話しかけると、彼は笑顔で振り返ってくれた。
「うん、夜間哨戒。入れ違いだね」
「分かった、気を付けて」
軽く手を振って、お互いに別の方向へ歩き出す。