※原作小説未読
夕日が教室を包み込み、帰る時間だと教えてくれている。
が、途中で止まってしまっているキャンバスの前から、私の腰が立ちたくないと椅子から離れる事が出来なかった。
「おーい、下校時間過ぎたぞ」
「あらー先生に見つかってしまった」
夕暮れの教室に入ってきた先生はフードを被っているせいか良く表情が見えなかった。けれど、声色的にはそんなに怒ってなさそうだなぁ。
「見回りですか?」
「いや、見回りは冨岡がやってる」
「あ!私が冨岡先生に怒られないようにみに来てくれたんですか?」
「財布忘れたから取りにきただけだ」
なんだーと会話している間も私の視線はキャンバスに向いたままで、手も筆を握って色を足していく。筆に絵の具を乗せて、ここは赤がいいな。そう、ベッタリと。
「おお、派手にいいじゃねーか」
いつの間にか側に立って、私と同じところをみる宇髄先生。
知ってますよー、先生。こういう絵が好きなんでしょ?私も好きなんですよ。
「ほんとはペンキとか使って教室一面色だらけにしたかったんですけどね、また」
「あーー、そうだな。そしたら、また2人で説教になるな」
「それは勘弁です」
そう、以前にもあったんですよ。こういう場面が。その時の私はもう、1人荒ぶる鷹のようでして、一心不乱に真っ白だった壁にペンキを塗りたくっていた。自身にも何色もの色を撒き散らしながら。
そこに登場、美術の先生、宇髄天元先生。通称輩先生。
なにを思ったのか先生も一緒になってペンキまみれになり、最終的に芸術は爆発だーーーーっと叫びながらダイナマイトに火をつけた時は私から飛んでいった常識が戻ってきた。
固まった私を宇髄先生は俵担ぎをして教室から脱出。その後、私たちの作品は爆発グッバイ。木っ端微塵。
戻ってきたはずの常識も一緒にグッバイしたのか、私の口からは笑いがでていた。先生も私を俵担ぎのまま声高に笑っていた。
そこからはご想像通り、冨岡先生につかまり2人で説教コース。宇髄先生と片付けをして家まで送ってもらった。
「楽しかったんだけどな」
「片付けは大変でしたね」
で、困った事があるんですよ。常識が戻って来ないのか、宇髄先生が気になるんですよ。いや、気になるなんて言い方じゃダメだね。
好きになってしまったんですよ。おーい、常識戻ってきてー。
先生は顔もいいし、背丈もある。つまり、女の人には困らない。隠れファンとかも恐らくいる。
「おし、今日はここでおしまいにします」
「そうだな、だいぶ暗くなったしな。この俺が送っていってやろうか」
「え、でも…「おい、奥隠れろ」
おっふ。
立ち上がって、鞄に手をかけようとしたところ急に腕を捕まれ教室の奥の部屋押し込まれる。先生の私物が散らかっている部屋だ。
出来るだけ息を殺して、外の様子を伺う。
「なんだ、まだいたのか」
「忘れもんしたんだよ」
「……あまり…」
「あ?なんだよ」
「…いや、何でもない」
早く帰れ。そう言って、冨岡先生は教室を出ていった。あー、なんか冨岡先生の声色、微妙な色だったな……。
そろーっと奥の部屋から出ていくと宇髄先生も首に手を当てて教室の出入口を見ていた。
「ありゃ、バレてんな」
「ですよねー」
「まあ、公認って事で。ほら、行くぞ」
「…ありがとうございます」
隣にきた私の頭にポンポンと手を乗っけて帰路につく先生を追いかける。
ああ、また私から常識が遠退いていった。
これ以上好きにさせないでくれ。
先生、気づいてるかな。私がこんな気持ちを持ってるって。でも、知ってたらバッサリ切られそうだな。だから言えないんだけどね。そもそも先生と生徒ってダメでしょ。
「割りと付き合ってる奴もいるけどな」
「……はい?」
「あ?聞いてなかったのか」
「い、え……誰と誰が付き合ってるのかと…」
「先生と生徒が」
私の口が勝手にやらかしたのか?
まるで、私が考えてた事に返事をするように話しかけてきた宇髄先生。まって。え、本当に声に出てた?いや、出てない。私の回りには色のついた声なんてなかったし…。
あ、そう。私、声の色が見えるんです。色によって、その人がどんな事を思ってるのか多少わかったりするんです。
だから、喋れば何色かが見えるはず。
「そうなんですね」
これは戸惑った色。ポーカーフェイスに戻れなまえ。先生の声は透明。景色に溶け込んでいる。よめん。
「まあ、俺は神だからな。気長に待ってやる」
「あ、はい。………うん?」
「卒業まで待ってやるってんだよ」
見えた。凄い淡くて優しい色。
派手な先生にしては珍しい。でも、
「なまえ、早く大人になれ」
「………はい」
はあ、だから、これ以上好きにさせないでってば。