つなぐ



「てってててて、てんちゃん!!」
「どうした?派手に慌ててんな」

なまえにしては音を立てた襖の開け方であった。それはもうスパーンっといったような開け方。しかし、走る音はさすが元くノ一と言ったところ、音もたてずに走ってきた様子。髪が少しだけ乱れていたので、近づき撫でて直してやると、へらぁと笑ってお礼を言う。


「で、どうしたんだ?」
「あっ!そうだ!ごめんね、台所で吐いた!」

「……は?」

「あと、最近なんだか体が重いし、眠いし…」

基本的に俺たちの身体は丈夫に出来ている。そりゃあ、あの親父にしごかれて育ったんだから風邪や毒のそっとやちょっとで吐いたり倒れたりなんてのはない。

よっぽど悪い病気なら……


「お、おい…大丈夫なのか?」
「何日か前からだったから、放っておけば治るかなぁって思ったんだけど…」
「なんで早く言わねーんだよ!?」
「えっ、ご、めんね、、、天ちゃん、稽古で忙しそうだっ、たし……」

段々と声を小さくしていくなまえに、つい、大声を出してしまった事に罪悪感が生まれる。目も何処と無く潤んで……そこまで認識をしたら、勝手になまえを抱きしめていた。


「悪い。怒ってんだが、心配なんだよ」
「ごめんね、でも、味覚が変わってきたからちょっとおかしいなって思って…」

「味覚が変わった?」

「うん。トマト嫌いなんだけどさっき食べたらちょっと全然食べれるなって…」


体調不良に吐き気、それに、味覚が変わった……これは


「なまえ、最後に月経きたのはいつだ?」
「え、ああ、そういえばいつだっけ?……え…」
「おい…まさか……」


その日、雄叫びをあげ嫁の名を叫ぶ宇髄の姿が目撃された。あんなに感情が表に出ている音柱を見たのは初めてだと、稽古中の隊士たちの間では暫く噂される事になる。



「天元様?!」
「どうされましたか?!」
「また、なまえが何かやらかしましたか?!」

どこから途もなく現れた宇髄の嫁。嫁たちは現状が理解できなかった。涙を流しながら肩を抱かれているなまえにひたすらなまえの頭を撫で続ける宇髄。
とにかく、駆けつけたが頭は追い付けなかった。


「て、天元様…?」
「ああ、ああ!派手にやらかしてくれた!!」
「その割には嬉しそうですね」
「なまえちゃんは泣いてるけど…」

嗚咽をこらえようと手で口を押さえてるなまえはまだ、喋れそうにない。しかし、なまえから説明されずとも、宇髄の次の言葉で嫁たちは理解した。

宇髄は満面の笑みでなまえの肩を抱き直して嫁たちに告げる。


「雛鶴!今日は赤飯だ!」
「えっ!それって!」
「隊士の分も作ってやれ!俺の第一子だ!派手に祝うぜ!!」


その後はみんなからお祝いの言葉を貰ったり、体を労る言葉をもらったり、みんな優しいな。天ちゃんもだいぶはしゃいでいた。「炭治郎たちにも教えてやんねーとな!」って鎹烏を飛ばしていたから、相当だと思う。

さすがにずっと騒ぎっぱなしっていうのも疲れてしまったので、1人縁側に座ってお茶を飲む。今日は綺麗な満月だ。



「体、冷えるぞ」
「ありがとう、天ちゃん」


気が付けば天ちゃんが身につけていた羽織が肩にあった。あー、月明かりに照らされてる天ちゃんかっこいいなぁ。
隣に腰かけて私の肩を抱く天ちゃん。


「もう、お前だけの体じゃないんだから大事にしろ」
「ふふふ、幸せだなぁ。こんなにかっこよくて強くて優しい旦那さんがいて」
「ああ、俺もだ。可愛い嫁さんがいて、お前との子供が出来きて」

「天ちゃん天ちゃん」

なんだ?と顔をこちらに向けた天ちゃんに口づけをかます。ふふふ、驚いてる驚いてる。私から口づけすることなんて滅多にないから。


「ありがとう、天ちゃん。これから私たちの事、大事にしてね。産まれてからも。お父さんなんだから」
「!」
「この子と大好きな貴方と一緒にいたいんです。ずっと…」
「ああ、守っていってやる」


天ちゃんがいて、鶴ちゃん達がいて、親に捨てられた私がこんな幸せな暮らしが出来てる。この子も、絶対に幸せにしてあげよう。みんなで。



- 1 -