煌めきに奪われた




私が想いを寄せた人は二重人格者なのかもしれない。2度目の再会で、戸惑いを隠せない私に彼はにこにこと笑いかけてくる。


はじめて会ったのは鬼殺隊最終選別の時。

お師匠様から教えて頂いたのですが、私は鬼たちにとって、大変美味しい匂いのする稀血というものらしく昔から鬼には狙われやすかった。瞳の色も片方だけが赤く輝いていて、両親は私を産んでから鬼に襲われやすくなったわ、奇妙な目をしているわで忌み子だと私を捨てた。
おくるみにくるまれた私を置いて去っていく両親の後ろ姿はすぐに消えた。鬼に食われたから。そこでお師匠様が助けて下さって私は今、生きて鬼殺隊へ入るべく最終選別へきたわけだが。


「なんと、稀血とはここまで厄介だったのね」


藤の山に入ったけれど、それは凄かった。鬼の大名行列かとでも言うようにぞろぞろと頭の悪い鬼が私を追いかけてきたのだ。稀血で、この歳まで生きててしかも鬼殺隊を目指しているなんて……


「ヤバイと思わないのかな?」

後ろを向いて、構えをとる。呼吸を整え、足に力をいれ鬼の群れへと飛び込む。手前から順番に1、2、3、、、トントントンと首を切り取っていく。


「ご馳走を食べるには苦労がいるんですよ」

最初はこんな感じで、余裕もあった。でも、7日目には流石に体力もなくなってきた。手が震えて刀を握るのがやっとという感じで……それでも、鬼は他の奴らを出し抜いてやるという意志が伝わってくる。様々な手を使って私を狙い、追いかけて切られていく。


「稀血の子、頑張るねぇ」
「そういう言葉は要りません。さっさと切られてください」
「ずっと見てたんだけど、もう手元に力入らないんじゃない?楽にしてあげようか?」
「……その嫌な視線、あなたでしたか。姿も見せず、男らしくない奴は嫌いです。さっさと死んで楽にしてください」

なまえは数日前から視線を感じていた。雑魚鬼を切り伏せていく中、どこからか感じる視線に苛立ちを隠しながら数日を過ごしていたのだ。やっと、その視線からやっと解放されると構えをとる。けれど、その構えから攻撃が撃たれる事はなかった。
耳に響く、雷の様な音。目の前で、時が遅くなったかの様にゆっくり落ちていく鬼の首。月明かりに照らされてキラキラと輝く金色の髪がなびいて刀を鞘に納める男の後ろ姿。


「あ…の……」
「………」

静かに佇むその人は先ほどの大きな音をたて鬼の首を切った人とは思えない。とりあえず、感謝を伝え様と声をかけたがその人はまた、音をたててその場から姿を消した。



「か……かっこいい…」


人生、産まれて初めて恋に落ちました。

その後は無事に最終選別も生き残ったが、隊士説明会には出なかった。そこで金色の髪の彼に会えるかと思ったんだけど…お師匠様が帰って来いって、選別通過した途端に鎹烏が頭に刺さってきたから…説明は、お師匠様がしてくれていたので大丈夫だ。彼の事は気になったが、あれだけの腕を持っていたのだから大丈夫だろう。いつか任務で会えたらと、私はその場を離れた。


さて、次に彼に会ったのは随分と後になるのだが…


 
「はじめまして!俺、我妻善逸って言うんだ!女の子と一緒なんて嬉しいな!良かったら君の名前、聞いてもいい?」

「………なまえです。みょうじなまえです」


どういうことでしょう。あの日見た彼は幻?いや、私は見たものは絶対に忘れない。そういう体質なので、彼の特徴は全て覚えている。


「失礼ですが、我妻さん」
「善逸でいいよ!」
「善逸さん」
「何何?付き合ってくれるの?」
「……いいえ。あと、藤襲山で会っているのではじめましてではありませんよ」

えっ、同期なの?と手を握ってくる彼にどう対応していいかわからない。
どういうことでしょうか。覚えてないのか…あの時と今と全く人が違う。口数も少なく、無駄のない動きで鬼を倒していた彼とはだいぶ印象が違う。もしかして、鬼を倒す時だけ性格が変わるとか?



「えっと、じゃあ、ここですね。鬼が出る村」
「夜な夜な若い女の子がいなくなってるんだよね。しかも、次の日に見つかる死体は足だけが無くなった状態って…俺、死んだよね。もう、足取られるって、逃げられないし、死んだよね。あっ、心配しないでね!なまえちゃんの事は守るからね!」
「……んーー…」

鬼のいる村にくるまでに彼の口が閉じる事はなかった。話せば話す程、私が想いを寄せた彼とは遠ざかっていく。しかも、夜に村の警護にあたってる最中はずっと、後ろ向きな事を呟いていて彼の表情は騒がしかった。



「善逸さん、藤襲山ではありがとうございました。貴方は覚えてないでしょうが、私は貴方に助けられたので」
「そ、そっか!…おれ、気絶してたと思うんだけど…」

ごもごもと話している彼が何か言っていたみたいだが、聞き取れなかった。
もう、いっそのこと、どういうことなのか聞いてしまおうと口を開いたが、善逸さんの手が私の目の前に出てたので口から言葉が出ることはなかった。


「待って、なまえちゃん……鬼がいる」

私を庇う様に前に立って片腕を広げる善逸さん。よく見ると足も手も体も震えていて、しかし、その姿はあの日に見た後ろ姿と同じで、私の胸がざわつく。

鬼は月明かりの影から姿を現し、こちらを見ていた。


「なんで包丁何か持ってるんだよ。お前らだったら自分の手足使った方がはやいだろっこんな可愛い子と任務一緒とか天国だと思ったのに何だよ空気よめよ」


……震えなが挑発してる。息継ぎなしで話して、いや、愚痴?を言ってる。
まあ、その愚痴は全て鬼にも聞こえてるみたいで、くつくつと肩を揺らして笑っていた。鬼の手には善逸さんが言った通り、薄い包丁を持ってくるくると回している。



「食材は料理した方が旨いだろぅ?そこで一匹いいのを調達したんだ。さっさと料理してぇんだわ」

ほら、と言って鬼は懐からスラリとした白くふくよかな足を取り出して自慢げに笑っていた。
次にこちらを見た鬼は見定める様に私の足を見て口を開こうとしている。うん。この後に私の足の感想がくるのはわかってる。こんな鬼なんかに評価なんてされたくないし、先に首を切ってやる。

足に力を入れバネの様に善逸さんの横を通り過ぎる。横目で善逸さんをちらりと見たんだけど、あれ、彼、気絶してない?白目向いてたな。まあ、私が首を切れば問題ないか。
刀を横に、鬼目掛け一文字に振るう。


「どこでなまくら刀振ってんだよ!全然届いてねぇじゃねぇうぇ…か?」

「…可哀想に。切られた事もわからないなんて」

鬼が口を動かしている間にもどんどんとズレていく上顎と下顎。
私は鬼からまだ遠いところに立ちながら、鬼の頭半分が落ちてゆくのを見ていた。私、馬鹿力なんです。唐突でしたが、この馬鹿力のお陰で、刀を振るうと鎌鼬の様な風が放てるんです。



「もう少し、下であれば良かったんですが」
「はっ小細工しやがって!」

拾った頭をくっつけて、また話し始める鬼。その首はもう、地面に落ちようとしていた。

状況の進展が一瞬過ぎて伝えるのを忘れてしまいましたが、鬼が話し始めてすぐに落雷の様な音がしたんです。あの時と一緒。私の横を通りすぎたのは煌めく金色の髪。鬼のすぐ後ろにあの人は立っていた。





「……っは?!あし?!いや、鬼は?!」
「もう、死んでますよ」
「えっ?!俺、死んだの?!」

「…ふっあははっ」




コロコロと転がってきた鬼の首を何気なく持って、どんどん塵になっていくのをじっと見ていた。お疲れ様と、何となく思ってしまったのだ。何故かわからないけど。鬼も何も言わずに静かに目を閉じていたが、眉間の皺はきれいになくなっていた。

その時、善逸さんも意識が戻ったのか、口を世話しなく動かして、私を見ていた。


「えっ、何で鬼の首持ちながら笑ってるの…?ちょっ、ちょっと、俺、そういう趣味はないんだけど……まあ、なまえちゃんが無事ならいいけど」


ああ、間違いない。私の心が奪われたのはこの人だ。


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