「冨岡さん聞きましたか?新しい柱の方が今日は来るんですって」
「…………」
「そんなに無愛想にしてたら嫌われちゃいますよ?」
「……俺は嫌われてない」
「どこから来るんですか、その自信…」
冨岡と胡蝶がいつものように会話をしていると次々と庭に柱と呼ばれる人物達が集まってきた。来たものは思うまま、空を見上げていたりいつの間にか木の上に登っていたり、そのまま会話を始める。
「新しいのが入ってくるんだってな」
「お会いした方はいますか?」
「さぁ」
「どんな素敵な方なんですかね!」
「新人の癖に俺達より先にいないとはな。どうせ録な奴ではない」
どうやらそれぞれ、新人の事については連絡が言っていた様だが、誰も姿をみた者はいない。ただ1人を除いて。
「…お館様がいらっしゃる」
その一言で、自由にしていた者達は地に膝をつき大広間へと頭を垂れる。ゆっくりとした動きのお館様の近くに違った足音が聞こえる。
「よく集まってくれたね。今日は皆に紹介したい子がいるんだ。挨拶出来るかい?」
「はい!此度、柱に加わることになりました冨岡なまえと申します。以後お見知り置きを」
瞬間、失礼な事とは自分でわかっていながら皆は顔をあげ声の人物を見つめてしまった。今、この女人はなんて言った?
「皆、聞きたい事が色々あるみたいだね。会議が終わってからそれぞれ聞くといい」
お館様がにっこりと笑い、その日の会議は始まった。
会議が終わった後、まず噂の彼女に話を聞こうと近寄ったのは同じ女性である胡蝶と甘露寺だ。
人当たりが良さそうに笑う彼女は近寄ってきた2人にも頭を下げて改めて挨拶を交わす。
「これから皆様と共に鬼を滅殺することに、、己の力を発揮出来るように、精進していこうと思いますので、よろしくお願いいたします」
「わぁっ!一緒に頑張ろうね!」
「ええ、よろしくお願いたします……ところで、冨岡という名字はどういう事なんですか?」
ピクリと、その場にいた何人かは体を固めて耳を傾けてしまう。自分達も気になっていた事、しかしなんだなんだと詰め寄るのは違う気がしたのだ。
「あ、えっと…その……」
「妹さんですかね?」
「まあっ!ご兄妹!私も兄妹が多くてね…」
「いいえ!義勇さんは私の兄ではありません!私に兄妹はいないので」
「「………」」
なまえから出た言葉に胡蝶は眉を潜めて、ゆっくりと冨岡の方を見た。
「…冨岡さん。貴方、兄妹と思ってもらえない程、嫌われてるなんて…」
「それは断じて違う」
冨岡にしては早い言葉の返しであったが、胡蝶は信じられないと更に眉に皺を作り冨岡に顔を向ける。横にいる甘露寺もいつもの笑顔が消え、無表情で冨岡を見ている。
近くにいた宇髄は腹を抱えて笑っていたが、なまえの方へと近づくとポンっと肩に手をおいた。
「あんた、大人しそうな顔して派手な事言うじゃねぇか!」
「あ、いえ…そう言う事じゃなくて!」
「なまえ」
目の前にいたなまえの姿は遠退き、肩に置かれていた宇随の手は今は宙に浮く。そして、宇随の手があった場所には冨岡の手が置かれ、その横にあるなまえの顔は赤く色づいていた。
それを見た一同は目を見開いて口をあけるばかり。
最初に口を開いたのは普段は黙りを決めている冨岡だった。
「なまえは、俺の嫁だ」
その言葉になまえは更に顔を赤くして、周りの人々は更に口を開けていた。皆、ゆっくりとなまえの顔を見るとその言葉が真実だと言うように俯いて恥ずかしさを我慢する様に唇を噛んでいた。
そんな事もお構い無しに冨岡はなまえの肩を抱いたまま衝撃の言葉を残して去っていったのだ。
「なんか、ムカつきますね」
そして、半年に一度の柱合会議は、胡蝶のこの呟きで幕をおろした。
「俺のような…」
「…義勇さん?」
黙って私の手を引いて歩いていた義勇さん。突然止まったかと思うと突然話を始める。これもいつもの事なので彼のしたいようにさせてあげようと思った。
けれど、何だかいつもより下を向いて落ち込んでいるような気がしたので、つい名前を呼んでしまう。
「…俺のような男の、嫁は……恥ずかしくて名乗れないのか?」
「………な、なんで!そんなに否定的なんですか!?」
繋いでいた手を思い切り引っ張り義勇さんと目を合わせる様に顔を近づける。何を言い出すかと思えば…。
「私の性格をご存知でしょう?嫌なものは嫌!嫌なら夫婦になんてならないですよ!」
「だが…俺との関係を、、口に出すのを躊躇っていた」
「っう…それは、その……」
「やっぱり…」
「は、恥ずかしかったんです!その、夫婦という関係にまだ慣れなくて…こんな素敵な男性のお嫁さんって名乗っていいのかなって…」
これ、言うのも結構恥ずかしいんですが…義勇さんはこのくらい言わないと伝わらないんですよ。
でも、恥ずかしいものは恥ずかしいので彼と目を合わせられない。
「………」
「………」
顔を反らしてお互いに黙ったまま。我慢できずにちらりと彼の顔を伺うと彼は固まってこちらを見ていた。口元は笑っていないけれど、目を細めて頬が僅かに赤らんでいる。そして、明らかに背景にお花が見える。あ、これは………
「ぎ、義勇さん、わかりましたか?」
「ああ、十分だ」
「わかって頂けたなら良かったです…ところで近くないですか?」
「…そんな事はない」
そう、こうなった義勇さん、ウキウキ義勇さんはとにかく距離が近くなる。歩き難くなるくらい肩を寄せて歩くし、座る時も隣か自分の膝の上に私を座らせるのだ。
甘えられているのだろうけど…こんなに顔の良い男性がこんなに近くにいて耐えられますか?こっちの身にもなって下さいって!
「なまえ、今日は鮭大根だ」
「ええ、美味しいの作りますね」
「俺も手伝おう」
ああ、きっと台所でも私の後ろにくっついてまわるんだろうな。
頑張れ、私。