何故、あの人が頑なにも嫌われていないと言い張っていたのか、やっとわかった。
「なまえ、無茶はするなと言った筈だ」
「大丈夫ですよー義勇さん」
任務で一緒になったなまえさんは柱で少しおっとりしている人だ。しかし、さすがは柱、任務になると人が変わったように鋭い動きをして鬼を倒していく、そんな人だった。
「よーーし、おわっーっいた」
「なまえさん!?」
鬼の首を切り終えた瞬間、気が抜けたのか笑ってこちらを向いたなまえさんは足がもつれ嫌な音をさせて体を傾けた。
俺は急いで足を動かして地面になまえさんの体が打ち付けられる前に抱き止める。
「大丈夫ですか?」
「だいじょーーーっ………ばない…」
「みたいですね」
倒れる時に足を挫いてしまったらしい。
話しているときや行動を共にしている時に感じたが、なまえさんはおっとりと言うのもあるけれど少しそそっかしい所がある。鬼がいるのといないのとじゃこんなに違いが出てくるんだなと。
おぶって蝶屋敷まで運びますよと言ったがそこは隊士。自分で歩けるとその辺りにあった木の枝を折りスタスタと歩いて行ってしまう。
なまえさんの足を気にしつつ隣に並んで歩いていると、思い出したように俺の顔を見てきた。
「そういえばさ、炭治郎くんって義勇さんの弟弟子くんなんでしょ?」
「そうなんです!やっぱりなまえさんも義勇さんの知り合いでしたか!」
「やっぱり?」
「なまえさんから義勇さんの匂いがしたので」
君の嗅覚は凄いんだねと笑いかけてくれるなまえさん。笑い方が綺麗だなぁ。なまえさんは凄く優しくて透き通った匂いがする。
ただ、次の言葉を口から出した時には困ったような匂いがした。
「見つからないといいな」
「?」
それから次の日に俺は義勇さんに文を出した。義勇さんの知り合い、なまえさんと任務に来た事。なまえさんが怪我をしてしまった事。帰りになまえさんと寄ったうどん屋さんが美味しかった事。
色々、書いた。義勇さんと共通で話を出来る事はそんなになかったので主になまえさんとの事を書いたんだけど。
「何故…」
「義勇さん任務あったじゃないですか」
「………必要ないか」
「私のせいで仕事が忙しい義勇さんに無茶して欲しくないですし、義勇さんが必要がないわけないですよ。義勇さんがお見舞いに来てくれたのが嬉しいのは確かですし…」
「……そうか」
義勇さん凄く嬉しそうだ!!
文を飛ばして数時間後、俺の所に鎹烏が戻ってきて間もなく義勇さんもやって来た。もう、驚きで口が塞がらなかった。
そして、なまえさんが言ってた「見つからないといいな」とは義勇さんに怪我をした事がって意味だったんだろうな。今も少し困ったような恥ずかしいような匂いがする。
それと、義勇さんのあの短い言葉で何で会話が成立しているんだろう?
「義勇さんもお体に変わりはないですか?」
「あぁ、お前の足は…」
「大丈夫ですよ!明日にはきっと治ります」
「だからと言って怪我はするな」
あの義勇さんがこんなにも気にしてるなまえさんって一体、いや、2人関係ってどんなものなんだ?匂いがお互い似ているようで少し違うような……
気になって2人を見ていると、なまえさんがこちらに来るようにと手を招いていた。素直に近寄ると義勇さんも落ち着いたのかなまえさんがいるベッドの脇に立ってちらりと俺を見た。
「驚かせてごめんね」
「いえ!もしかして、お2人は恋仲同士なんですか?」
「…こっこい……?」
気になっていたことを聞いてみる。
途端に、目と口を開いて変な声を出していた。あれ?違うのかな?2人ともそういう匂いをしていたから、てっきり…。
「違うよー、義勇さんとは同期で入隊後は一緒に修行した仲なんだよ」
「…………………」
「そうだったんですね!すみません、俺が勝手に……義勇さん?」
「ん、義勇さん?」
「………………………………」
なんだか、なまえさん以上に驚いた匂いをさせている義勇さん。表情がもう、見たことがないくらいに驚いている。その匂いの中に混じっている悲しい匂い。
なまえさんもさすがにわからないのか首を傾げて義勇さんを見ていた。
開いていた口をゆっくりと動かす義勇さん。
「…………違うのか?」
「へ…………………え?義勇さん?待って…え?」
「え、何がですか?え、え?」
どういう事だ?
なまえさんはわかってるみたいだ。え、俺だけがわかってない。なまえさんは両手で顔を隠しているけれど、耳まで赤くなって汗をかいていた。そして、その状態のまま喋り始める。
「…………いつからですか?」
「……お前は、鮭大根を作っていた」
「あ、あれ?!あの時の?!」
「すみません、話がよくわからないのですが…」
義勇さんが黙って、違うのかと言って、鮭大根って……どういう事ですか?なまえさんと義勇さんの中では全部、話が繋がってるんですよね?
はっとこちらを見たなまえさんの顔はまだ赤く染まっていて
「あの、私も今、知ったんですが…恋仲同士だったみたいです」
え?
「私と義勇さん、だいぶ前から恋仲だったみたいです」
「……えええええ?!」
「…………」
話は遡ること数年前、義勇さんが柱になった時の事らしい。
お祝いにとなまえさんが鮭大根を作っていると、何時もは黙って待っているのにその日は台所へやって来て一緒に作っていたそうで……
「俺は、お前と鮭大根を作りたい」
「いいですよ!」
この会話が、義勇さんの告白だったらしい。
その後「そうか、これからもよろしく頼む」と言っていたらしいので「よろしくお願いしますね」と普通に返したなまえさん。
義勇さんはそこからもうなまえさんとは恋仲だと思っていたらしい。
「えっ…と………」
「違うのか…」
「あの、義勇さん」
「お前には嫌われていないと」
物凄く悲しい匂いを漂わせている義勇さんと手をあたふたさせているなまえさん。自分の勘違いだったと落ち込む義勇さんに何か言葉をかけようとするなまえさんは勇気を振り絞るかの様に拳を握った。
「義勇さん!」
「…すまない」
「え」
義勇さんは名前を呼ばれたときには後ろ姿を向けて一言ぽつりと呟いて歩きだそうとしていた。
その姿に逃がすまいと手を伸ばすなまえさん。自分の足が動かない事も忘れて身を乗り出すなまえさんは直ぐに寝床の上から落ちそうになる。それを俺が支える事なく、別の手がなまえさんを抱き止めていた。
「無茶はするなと」
「します!!」
一緒に倒れたなまえさんは義勇さんの腕の中で力強く義勇さんを見ていた。
「このくらいしないと義勇さんは話聞いてくれませんよね?」
確かに。
「……」
「私、義勇さんとはお互い恋仲同士だと思ってなかったんです」
「…俺が一方的に」
「でも、私もお慕い申しております」
「…………ま」
「いいえ、待ちません」
やっぱり、なまえさんも義勇さんが好きだったんだ。
なまえさんに思いを告げられた義勇さんは口を開け固まっていた。今日は義勇さんの色んな表情がみれるな。
恐る恐る、腕をあげてなまえさんの肩にポンと置かれる義勇さんの手。
「なまえ、それはほ」
「本当ですよ」
「いや、」
「義勇さん、貴方は嫌われてないです」
今まで言葉を待っていたなまえさんは先に先にと声を出す。それに義勇さんもどんどんと言葉を少なくしていく。
「義勇さん、好きです」
「…そうか」
義勇さんは短い言葉で返事をしたけれどなまえさんにはちゃんと伝わっていたみたいでまた、綺麗に笑って義勇さんの頬に手を添えていた。
「良かったですね!義勇さん!なまえさん!これで本当の恋仲ですね!!」
「「………」」
「どうしましたか?」
やっと、結ばれた2人に祝福の言葉をかけるがあまり嬉しそうな表情はしていない。どうしたのだろう?
「ごめん、本当にごめんね。巻き込んで」
「……」
「いいえ!お二人の思いが通じて良かったです!俺、お赤飯炊きます!」
「うん、ありがとう」
そうと決まれば早速、お赤飯を炊きに行こう!
2人にお辞儀をして早々と部屋から出ていく。良かった。あんなにお互いを想っている匂いをさせている2人が結ばれて……。
「炭治郎くんいたのに最後、忘れて熱くなって…申し訳ないです」
「そうだな……今度」
「ええ、今度、ご飯でも誘いましょうか」
「ああ」