つぼ




「牛乳がない…」
「あ、わりぃ」


冷蔵庫を開けると牛乳どころかほぼ空っぽ。入っていたのはビールに酎ハイに枝豆くらい。
なまえの育った孤児院の院長の誕生日のために3日間、家を開けると言った次の日に牛乳は飲み干してしまった。



「先生、ちゃんとご飯食べてましたか?」


まあ、今の冷蔵庫を見たら、そらそう思うよな。


「作ってくれる奴がいなかったからな」
「まさか3日間、お酒だけだったとか……」
「大丈夫大丈夫」


ジト目で俺を見てくるなまえに頭をかきながらソファーから立ち上がって後ろから覆う様に抱きつく。
説教が始まる気配を感じたので先回りをしておこうと思ったんだよ。こうなったなまえは中々話が長くなるから。心配してくれてるのはわかるが、説教聞いてる暇があんならいなかった3日分イチャつきたい。ちょっーとからかって照れてもらおうか。



「ちゃんと食ってたっつの。そんなに俺に飯くってほしかったわけ?」

「はい。私の大好きで大切な人なので長生きして欲しいんです」


………くそ。カウンターくらった。
少し振り返って俺の頬に手を添えて首もとに頭を擦り寄せてくるなまえ。あーーー無理。かわいい。無理にでも付き合って同棲始めて良かったわ。

さっきなまえが言った通り、俺は先生だ。学校の先生。で、なまえはその学校の生徒。禁断の恋っていうやつ。
わかってんだけどな、好きになったらとまんねぇんだよ。

まあ、なまえが中々落ちなかったんだよな。



「今度、飯食いに行こうぜ」
「遠慮しておきます。先生と生徒でそういう関係だって思われたら大変じゃないですか」

「なまえ、課題終わってねぇだろ?放課後、俺が見てやろうか?」
「放課後は無理です。昼にやっておきます」

「なまえ、家庭科の授業でお菓子作ったんだろ?くれよ」
「構いませんが、煉獄先生がお呼びでしたよ?職員室に戻った方がいいんじゃないですか?」


そう、こういう事。真面目なんだよ。これじゃ、どっちが先公かわかんねぇよな。

付き合ってからは凄かったけどな。もう、デレデレ。学校では素っ気ねぇけど家だとくっつくくっつく。横通っただけで磁石みたいにくっついてくるんだよ。かわいいだろ?



「先生、スーパー行ってきます」
「今からか?もう夜だぞ?」
「これじゃご飯作れないじゃないですか」
「…はあ、しょうがねぇな。俺が行ってくるからメモ寄越せよ」


こんな暗くなってから女子高生を外歩かせられっかよ。かと言って、一緒に行くっつったら援交みたいだろ…。



「お風呂沸かして待ってますから、気を付けて」
「おー」


お、これ何か、凄い夫婦っぽいな。さっさと買って帰ってくるか。




「あれ、宇髄先生だ!こんばんは!」
「おお、炭治郎。買い出しか?」
「はい!」

なまえのとなりクラスの炭治郎。こいつ結構なまえと仲がいいんだよな。昼飯一緒に食ってたりしたし。
……いや、こいつは誰とでも仲いいな。


「あ、そうだ」
「どうした?」
「なまえに教科書貸してくれてありがとうって伝えてもらえますか?明日、返すつもりなので!」
「……なんで俺に言うんだよ」
「本当は今日言いたかったんですけど、なまえが先に帰ってしまったので…」


で、なんで俺に言うんだ?なんでこの後、俺がなまえに会うみたいな感じで話しかけてくるんだ?会うけど、お前は知らないはずだろ?
無言で炭治郎を見ていると頭にはてなを浮かべ平然と聞いてくる。


「宇髄先生の家にいるんですよね?」
「…炭治郎くん、ナニイッテンノ?」

なんで、こんなに確信して……まさか…


「あれ?宇髄先生からなまえの匂いがしたので、シャンプーとかも一緒みたいですし……」


やっぱりか。こいつ、鼻が派手にすげぇんだったわ。



「はいはーい…言っといてやるから同棲の事は黙っとけよ」
「?わかりました?」


わかってんのか?
いや、軽くだが口止め出来たのは良かったかもしれない。学校で口に出されたらフォローなんて出来ねぇからな。

自分で言うのもあれだが、俺はモテる。だから、噂なんてのもばーっと広がっちまうわけ。

で、なまえ。なまえもモテるんだよ。密かに想いを寄せている男女が複数いるんだよ。言い間違えじゃねぇぞ。男女。男と女。面倒見がいいから女にもモテるんだよ。で、そいつらの情報網に引っ掛かってみろよ。俺はなまえも職も失うだろうな。

炭治郎と分かれて、まっすぐ家に帰る。



「おまっ……」
「あぁ、お帰りなさい。お買い物ありがとうございます」


そこで待ってたのは、髪が湿っていて、肩にはタオルをかけているなまえ。明らかにサイズの合っていない大きめのTシャツを着て、白い足を見せつける様に晒け出している。



「派手にツボついてくんじゃねぇか……!!」
「よく、わからないですがお風呂先に頂きました」


温め直してあるのでゆっくり入ってきて下さい。って笑うなまえがマジで可愛い。なんだこの生き物。人間か?
手で口を覆ってなまえを見るとトコトコと近づいてくるなまえ。


「宇髄さん」
「ん?」
「今日は3日ぶりですから、ゆっくり甘えさせてくださいね」

「…ぶち……」


思わず汚い言葉が出そうになったのを必死に耐えて、耐えた。だが、決めた。

今日は絶対ぇ抱く。


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