これは、夢 01


これは夢、……なのではないか。
いまだにふと、そう思うことがある。
そうやって逃避しても、信じがたい現実は眼前に広がっているのだけれど。
かくも波乱万丈な15年の半生を過ごしてきた人間は、きっと俺以外にいまい。

俺の名は空木 大夢(うつぎ ひろむ)、だった。
今はノエ=エトワールの名を養父に貰い、名乗っている。

年は先ごろ15になった。
12の誕生日に「異世界」としか形容のしようがない世界に迷い込み、死ぬような――死ぬ、とは断じて比喩ではない――思いをしながら歯を食いしばって今日までの3年間を生き延びてきた。




俺が空木大夢と名乗っていた頃、俺は日本の片隅に両親と暮らす普通の小学生だった。
多少地頭が良く、多少両親の仲が悪い、……まあ概ね普通の小学生だったのだ。

12の誕生日を迎えたその日、俺は唐突にこの世界へと落とされた。
原因はよく分からない。
もしかしたらその瞬間に何かがあったのかもしれないが、俺は覚えていないのだ。
何故だか、この世界に来る前後の記憶がおぼろげというか、虫食いのようになってしまっている。最初の頃は何が起きたのか思い出そうと必死にもなったものだが、そのうち諦めてしまった。それより大事なことが数え切れないほどあったからだ。

……まあともあれ、俺はこの何処とも分からぬ世界に一人放り出されたのだ。
最初に見た光景はハウステンボスのような街並みだった。

カラフルな屋根に、コンクリートではなく石畳が敷かれた地面。
行き交う人々の服装も異国情緒が漂う。
まるで映画の世界に入ってしまったような錯覚に陥った俺は石畳にぺたりと座り込んだ。
そんな俺を気にしてか、一人の町人が声をかけてきた。

『〜〜?〜〜〜〜〜〜〜?』

日本語でもなければ英語でもない。12年の人生の中で聞いたこともなく、知識としても全く知らない言語が耳に飛び込んできた。あの時の驚愕は今でもよーく覚えているとも。全く分からない言語というのは、本当にぺらぺらぺーら、と聞こえるんだなあ…なんて場違いなことを考えていた。

パニックを起こしかけた俺と、困惑する町人の異常に気付いた人々が集まってくる。
俺と言葉が通じないことに気付くと群衆にも動揺が広がった。
(後に知ったことだが、この世界では少数民族等のごくわずかな例外を除いてほぼ世界共通言語が使われているらしい。俺と言葉が通じないことがこれほど衝撃を生んだのはそれが理由だった)

俺を含めたその場の中で、比較的に早く平静を取り戻した者が俺を”保護”する権利を得た。
仮の”保護者”となった男に腕を掴まれ、引っ立てられて、連れていかれたそこは。



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