襲撃。01


お互いに動揺していたのだろう。
今までの1時間、危険という危険に遭っていなかったのも油断の原因のひとつだったかもしれない。

俺達は迫る不穏な魔力の移動に気付くことができなかった。俺達6人の周囲に魔力の気配を感じ取った時には既に遅かったのである。

「……!まずい、なんか来るぞ!」

俺が声を上げるとフレディとその取り巻きはびくりと反応して周囲を警戒するが……遅かった。

勝ち誇ったようなテノールが俺達の耳に届く。

「はは、もう遅いよ!『捕えよ!要は其処に有り』!!」

聞き覚えのない略式呪文だ。
何者かの呪文がその場に響くと、俺達の周囲に黒い金属のようなもので出来た檻が出現し、俺達は見事に全員捕らえられてしまったのである。
直前に、ちらりと目の端に光るものがあった気がした。

フレディの取り巻き連中は半ばパニック状態といったところか。フレディはそれよりは落ち着いているようだ。

俺達を捕まえた鬼は鼻歌交じりに俺達に近付いてくる。

俺はこの魔法の仕組みを捉えるべく頭を働かせた。
略式呪文は『捕えよ、要(かなめ)は其処に有り』。『捕えよ』は文字通り、檻を作ることを意味しているのだろう。問題はその次……要とは何を意味するのだろう?

観察してみたところこの檻、随分と堅牢に作られているのがわかる。
それこそ、もし俺が自力で魔法で作り出そうと思ったらその後1時間くらいは魔力消耗で動けなくなるくらいにしっかりした作りだ。

……しかしそれに反して、この呪文の主はぴんぴんしておりほとんど消耗していないように見える。

この人の魔力保有量が規格外に多い、という可能性もゼロではない。が、それよりは。

ここで俺の脳裏を過ぎったのは、魔法発動時に視界の端でキラリと光った何か。

……なるほど。

俺はこの魔法の仕組みを理解して頷いた。突破口はあるが……少々時間を稼ぐ必要がある。俺はこちらにやってくる人物に目を移した。

その男は罠にかかった俺達を一瞥すると、パンと手を打ち合わせて満足げに笑って言った。

「おお……やあやあ、これはこれは。ネズミ捕りの罠に思いもよらぬ大物がかかったものだねえ!黒猫が混ざっているじゃあないか!」

……随分と芝居がかった喋り方をする人だ。黒猫って俺のことだろうか。

男は180cmはゆうに超える長身で、ふわふわの金髪。ところどころ深緑色のメッシュを入れている。
アイドルも真っ青なレベルのイケメンで、赤縁の眼鏡がよく似合っている。それに加え、今は鬼を示す赤のタスキをかけている。

「……誰?」
俺がフレディにこっそり聞いてみると、

「……知らないのか?術科副会長、高等部2年のディーロイ=ブレアさんだよ」

あっさり教えてくれた。フレディは意外と面倒見も良い。

しかし、なるほど。
「術科か……どーりで」

俺が訳知ったように頷いて独り言を言うと、フレディは怪訝そうな表情でこちらを見た。

とりあえず隙を探そう。
まだ体が捕まっただけ。ブレスレットは無事なのだ。


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