04
「俺が提示する契約内容は、細かい所を詰める必要はあるが一言で言うとこうなる。『ご主人が三日に一度俺に一口の血液を提供する。その対価として俺は持てる知識技術能力全てをもって応える』ってな具合にな」
猫又は白い長髪をたなびかせてそう言った。
――正直、願ってもない話だ。
勿論本人が言うように細かい所を詰める必要はあるのだろうが。
つまり、この魔物はこう言っているのだ。
“俺はお前の生き字引にも、師匠にも、用心棒にもなってやれる。求められれば全力で応える。……お前が血を渡す限り”。
そう、願ってもない話なのである。
話が美味すぎるくらいだ。
俺は努めて冷静にこう訊ねることにした。
「その提案をする、そちらのメリットはなんだ?」
この問いは猫又をやや驚かせたようだ。
猫又は数度瞬きをして満足げに笑って頷いた。
「……慎重だな、ご主人。普通の人間なら飛びついてくると思ったんだが」
「話が美味すぎるからな。……それに、まだ“ご主人”じゃない。」
「“まだ”ってことは、今後ご主人になってくれる気があるのか?」
「……。」
……言葉尻を取られた。
永く存在しているからか、交渉もお手の物らしい。俺も腹芸の練習はしなきゃならないな。
少し苦々しい表情になったのが分かったのか、猫又はくつくつ笑った。
「悪い悪い、こちらのメリットだったな?」
「ああ、頼む」
猫又は急がないペースで語り始めた。
ご主人達人間は、果物や野菜や肉、そんなものを食ってそれを動くためのエネルギーや魔力に変換しているだろ。
俺達魔物は違う。
存在の核となるもの――俺の場合は猫だな――が魔力を纏うことで存在している。
俺達魔物は動くのにも戦うのにも、何をするにも魔力を消費するんだ。だが俺達は自分の体内で魔力を作れない。使うだけ。
何もしなければ魔力は段々消費されて減っていって……最後に待つのは消滅だけ。
だから喰う。
人でもなんでもいい。
魔力を体内に持ってる動物から奪い取るわけ。
でもな、俺ほどの高位の魔物になると、その維持費がもうとんでもない量なんだよ。
正直、火の車!自転車操業もいいとこ!
長くて100年程度ご主人に張り付いて言うこと聞くだけで、三日に一度お釣りが来るくらいの魔力供給を受けられるなら万々歳よ。
ぺらぺらと語った猫又は、最後にこんな言葉で説明を締めくくった。
「ご主人は必要としている知識技術その他諸々を得られる。俺は“喰うために喰う”みてえな野蛮な生活からオサラバできる。これこそwin-winってやつだろう?」
俺は楽しげにしている猫又に答える。
「……話は分かったよ。それなりに魅力を感じる話だけど、流石に即決しかねるな。色々聞きたいこともあるが、タランチュラの魔力結界の外で人を待たせているんだ。今日の夜出直してきてくれないか?」
そう、色々ありすぎてすっかり忘れかけていたが、フレディを待たせているのだ。あまり不安にさせてもいけない。
この答えを受けて猫又は勿論と頷いた。
「構わない、話のわかる主人で嬉しいぜ。じゃ、今日の深夜また来るわ」
軽く手を振ると、猫又は空気に溶けるようにして消えた。
タランチュラの魔力結界の残滓が消えたのはそれから間もなくのことだった。
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