05


(side アルバ)

ハッと目を覚ました。
気絶したノエを看病していたらいつの間にか寝込んでしまったようだ。……体感では随分寝たように思うのだが時計を見ればいくらも経っていなかった。

肩に毛布がかけられていたことに気付いてベッドを見上げると、

「起きたか、アルバ」

ノエがベッドから体を起こしてゆったりと座り、こちらを見て微笑んだ。

黒い髪が月明かりに照らされてゆらりと揺れた。黒曜の瞳は夜の海のように静かで、俺を映してただそこに在った。

綺麗だ、と思った。
目を奪われて一瞬思考が止まる。

「……アルバ?」
「…あ、ああ、悪い。寝惚けてた。――気が付いたんだな、安心した。本当に心配したんだぞ」

はっと我に返って言葉を返せば、ノエの眉が申し訳なさそうに下がった。

「……本当に悪かったよ、友達に心配かけちゃいけないよな」
「……なあ、ノエ、聞いてくれるか」
「なんだ?」

俺は、かねてから考えていたことをノエに話す決心をした。

「ノエ、俺はお前を守りたいんだ」
「……アルバ?」

ノエの困惑が伝わるが、話を止める訳にはいかない。俺はノエの手を取って続けた。

「お前が強いのは分かってる。まだ実力は全然及ばない。でも、俺は強くなる。強くなって、お前と肩を並べたいんだ。背中を守りたいんだ、この先ずっと」
「……っ、アルバ、だめだ」

ノエの瞳が驚愕と絶望のような色に染まった。喉がひゅっと鳴り、声が震えている。
ノエが俺の言葉を制止してなにかを言おうとするのを遮って言葉を紡ぐ。

「お前が、俺や皆には言えない何か重たいものを抱えてるのは知ってる。でもそんなことどうでもいいんだ。教えてもらえなくてもいい。お前が、大事なんだ」

“だいじ”。ノエの唇が小さく動いた。
何故かひどく衝撃を受けたらしいノエは声を出せずに固まっている。

「ああ、大事だ。世界で一番。なあ、ノエ。俺強くなるから、お前の傍で護らせてくれよ」

「…………、アルバ、言っただろ……俺は、いずれ“エトワール”じゃなくなるんだよ、っ……」

ノエが震えた声で、小さな子を宥めるように言った。そう言われることは分かっていた。俺は即答する。

「それがなんだっていうんだ」
「!?」
「関係ない。お前が“ただのノエ”になったって俺はついていく。実家なんて、要らない」

ノエが息を呑んだ。
地面に片膝をつき、固まるノエの手の甲に触れるだけのキスを落とす。騎士としての誓いのキスを。

そっとノエの表情を伺うと、

――黒曜の瞳を大きく見開いてどこか遠くの一点を見つめ、何かを考えている様子だった。

「…………少し、考えさせてくれ。気持ちの整理がしたいんだ」

呻くような声。
俺の言葉の何かがノエを揺らしたことが分かった。

大事な人に、愛しい人に、敬愛する主に向けて俺は微笑んで答える。

「勿論。おやすみ、ノエ」

気持ちの乗った声はいつもより数段甘く響いた。

(side アルバ 終)


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