06
「お前と肩を並べたいんだ。背中を守りたいんだ、この先ずっと」
ああ、アルバ、そんなことを言っちゃいけない。
だって俺はこの世界の異分子なのだ。
本来ならここにいてはいけない人間なのに。
予想だにしていなかったアルバの決心。
俺は喉が締めつけられるような罪悪感を覚える。
「お前が、大事なんだ」
だってこんなのはまるで愛の告白ではないか。
或いは主従の誓い。
そんな貴重なものを受け取れるような人間ではないのに。
だいじ。
俺のことが、だいじ。
そのたった一言が俺を何故だか酷く動揺させた。自分でも原因がわからず狼狽える。
今まで、こうもストレートに好意を表現されたことがあっただろうか?
たとえば、たとえばそう――俺の本当の両親に。
「…………、アルバ、言っただろ……俺は、いずれ“エトワール”じゃなくなるんだよ、っ……」
自分自身にも言い聞かせるように口にした説得文句はひどく掠れて頼りないものだった。
頼むからこれで諦めてくれと、俺に期待なんかさせないでくれと祈るような思いで発した言葉だったのに、
「それがなんだっていうんだ」
――即答。
アルバはそれをいとも簡単に切って捨ててみせた。鮮やかな紺碧の瞳がこちらを真っ直ぐに見つめていた。
「関係ない。お前が“ただのノエ”になったって俺はついていく。実家なんて、要らない」
この優しい友人にそこまでの決意を抱かせてしまったのか。俺はいずれ元の世界に帰らねばならないのに。
ポーカーフェイスの苦手な俺の顔に浮かんだのは驚愕だったか、絶望だったか。
――?……“帰らねばならない”?
そこで、はたと気付く。
“帰りたい”ではないのか。
俺の元の世界への思いは、願望ではなく義務なのか?
どうして?
今まで自分でも気づいていなかった引っかかり。その足がかりを俺は、記憶の隅から見つけ出そうとしていた。
「…………少し、考えさせてくれ。気持ちの整理がしたいんだ」
気付けば呻くようにそう答えていた。
アルバは見たこともない、愛しいものを慈しむような表情で「勿論」と言った。
アルバが医務室から出ていくなり、俺は汗で少し粘ついた髪を掻き毟る。
……俺は何を忘れている。
この不安定な感情(モノ)の正体は、なんだ。
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