サヤカたちのいる森から王都に向かうにはいくつかの村を通らなければならない。栄えた都市をいくつか超えていく道、小さな村に立ち寄る道。街道をたどればその程度の選択肢しか出てこないが、森を超えるという選択肢がそこに追加されれば道は無限大である。ただ、そろそろ物資が欲しいというマコトの要望で、地図とにらめっこしたのちにまずは近場の村に向かうことにしたのだった。
「もうすぐで着くかな?」
「多分。街道に出たら直ぐのはずだから、夜には着けると思う。これで野宿しなくて済むね」
「そうだね!」
日は既に傾いていて、あと一時間もすればあたりは暗闇に包まれるだろう。既に空の端が赤く染まり、青空と混ざり合っていた。
運よく、ここ数日は吹雪に見舞われていない。中途半端に溶けては凍り付いた地面は滑りやすくなっていて、実際サヤカは何度も転んでは、左手を庇って思い切り顔を打つ──なんていうことを繰り返していた。
街道に近づくにつれ、木が少なくなっていく。日に当たって完全に雪が解け切ったところも多く、足場はだんだんと安定してきていた。街道はもう目前だ。
「ねえ、マコトはアルトンの次はどこに行きたい?」
「僕は……キアドかな。王都の次に大きな町らしいし、気になってたんだ」
「じゃあ、そこにしよう。私も気になってたし、一回行ってみたかったの」
頷いたマコトが地図を閉じて鞄にしまった。旅に想定外はつきもの、予定通りに行くことのほうが少ないが、この先のことについて話すのは楽しい。草と氷の入り混じった地面を歩く。ざくりざくりと足音は大きく立つし、足跡も分かりやすくついた。それは、まだ誰も通っていないそこをふたりで進んでいく途中のことだった。
「そこのおふたりさん、ちょっといいかい?」
声が、頭上から降ってきた。
反射的にか、サヤカを庇うようにマコトが前に出る。声のほうを向けば目の前にある大木を見上げると、逆光の中に人影が見えた。長い髪が靡いていて、腰には短剣も控えているようだ。女性らしいシルエットでありながら女性にしては低い声の持ち主のその人は、警戒心をあらわにしているサヤカたちにも動じず続ける。
「驚かせてしまったかい、すまないね」
「……何かご用ですか」
マコトが返事をする裏で、サヤカが小さく呪文を詠唱する。狼の時と同じ戦法だ。前から堂々と姿を現すならともかく、木の上から──しかもこちらからは表情をうかがえない──話しかけてくるなど怪しさの塊である。
警戒されていることを気にしていないのか、彼女はひょいと飛び降りてきた。木が彼女の勢いに合わせて揺れる。一歩下がったサヤカと、剣の柄に手をかけたマコトに、綺麗に着地したその人は両手をあげてみせる。
「あたしはナフェリア・ツヅキ。旅の便利屋だよ。ちょいと人探しをしていてね、見ていないか尋ねたかっただけなんだ」
驚かせたようですまなかったと、ナフェリアと名乗った彼女は笑って見せた。高い位置でひとまとめにされたつややかな黒髪をもつ彼女は、前髪を長く伸ばして耳にかけているらしく、おちてきたそれを慣れた手つきで耳にかけた。白い額が寒空にさらされていた。