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 マコトが、シュカの家までの最短経路を導き出すのには数分もかからなかった。森の状況的に、暗くさえなれば何とかなるだろうと判断する。ナフェリアはシュカの家に向かうことをはっきり明言していたので、彼と何か話をしたのかもしれない。
 ナフェリアの話では、一番大きな岩と岩の間に、なにやら地下に潜る洞窟があるようだった。地形を見ただけでわかるのかと感嘆したサヤカらはいま、一番大きな岩のほかにもごろごろとしている大岩の影に座り込んで息を潜めている。森の夜は静かだ、星が瞬く音が聞こえるくらい。だから、それにいち早く気が付いたのはマコトだった。
 とっくに地図を仕舞いこみ、いつでも剣が抜けるようにと待機はしていた。ざくりざくりと足音が響いて、マコトはぴしりと体を硬直させる。その緊張感に続いて一拍遅れて、サヤカも息を止めたようだった。頼む、只の旅人であってほしい。ここにマコトたちがいることに気が付かず、洞窟の存在にも気が付かず、ただただ去っていってほしい。ナフェリアに強く言われたせいもあり、二人とも緊張感が絶頂に達していた。お互いの息遣いが気に障るほどに、音を殺した。
 サヤカの鞄についていた方位磁石が風に揺れ、運悪くにマコトの腰の剣にコツリ、と触れた。普通ならば聞き逃してしまうようなそんな小さな音にも、近付いて来ていた旅人は反応した。
「……誰かいるのか?」
 怒気を孕んだようなその声に、サヤカが身を竦める。
 気配は、明らかに敵意を注いできていた。どうするべきか、とマコトが思案しているうちに足音は進路を変えたようだった。悪党の一味か、それとも旅の賊か。わからないが、どちらにしたって良いものではないのは確かだ。
(──サヤカを守るって言ったのは、僕じゃないか)
 視界の隅、近くにいる彼女は、かすかに月明かりに照らされている。気丈な顔をしているが、自身の襟巻の裾を握りしめている手が震えていた。正義感にあふれて、お人好しが具現化したような姿をしている彼女は、戦いに慣れているわけではないのだろう。直接的な身の危険は、きっと知らない。そしてきっと、ひとりじゃないからこそ下手に動けないのだ。正義感のまま走り始めてしまう癖はあるようだけれど、サヤカはそのままでいい。僕がいる限り、僕が守ろう。……森でした約束は、そういうことじゃないのか。
 たとえ、見習いでしかなかろうと。そして永久に、見習いのままであろうと。騎士の道に足を踏み入れたものとして彼女を守らないなど論外だ。
「……動かないで、ここにいて」
 囁かれたその声に、サヤカは目を見開いた。