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 それがどうやら最後の一曲だったらしく、サヤカたちが通りを折り返すころに、その楽団は楽器を仕舞っていた。あちらこちらから銅貨が投げられ、真ん中に置かれている帽子へと吸い込まれていた。団長と思わしき人が礼をしながらそれを集め、最後にもう一度ぺこりとお辞儀する。只見を決め込んだものも銅貨を投げたものも、やがて街へと散っていく。
 サヤカたちはいきなりがらんどう……とまではいかなくとも視界の通るようになった道をゆっくりと見渡していた。
「いましたか?」
「いえ」
 どこ行っちゃったのかなあ、とシュリが小さく呟いた。不安げな少女のように見える彼女だが、そういえばサヤカより年上らしい。もうすぐで十六、つまり成人するサヤカと成人してしばらくのシュリだから、ほとんど変わらないといえば変わらないのだが。
 メルバルの南西には大きな時計塔があり、一時間ごとに鐘が鳴るようだった。響く金の音につられて見上げた時計は、マコトと別れてから針がちょうど半周したくらいだった。からんからんと景気良く鳴り響く鐘から道に目を落とす。シュリも同じように時計塔を見上げていたようだった。何やら大きな石──おそらく夜光石だろう──が嵌めこまれている時計は、昼間は何の変哲もない大きな時計である。
 サヤカがきょろきょろと見渡した先に、細い路地から出てくる人影があった。暗がりから出てきたその人はマコトのフードと同じ色のそれをかぶっており、一瞬マコトかと思って目を逸らした。せっかく気を使ってくれたのに会ってしまってはなんとなく気まずい……そう思ったが、サヤカは感じた違和感にもう一度そっちを見つめた。
 マコトのローブは膝のあたりまである長いものだが、視界に留まった彼のそれは胸の下あたりで切れている意匠のものだった。見間違えたか、と思うと同時、表情がちらりと日のもとに晒された。黒髪に、どこか見知った顔、それから赤い目。ローブを留めているのはベルトではなく、黒い襟巻だった。視界の端を掠めただけだとマコトと見間違えるその彼こそ、シュリの探している人ではないだろうか。
 サヤカが相手を見定めようと目を細めているうちに、シュリもその視線に気が付いたようだった。サヤカの影からひょこりと顔を出し、道の向こうにいる青年を見つめる。サヤカが「あの人、」と言ったとき、シュリは小さくため息をついていた。
「彼です、わたしの相棒」
 肩を竦めたシュリが、タッと地面をけって走り始めた。布製のブーツは赤い靴紐が通されていて、走るたびに蝶々結びのそれが揺れる。サヤカも皮の靴で足音を派手に立てながら慌てて追いすがった。
 青年は確かにマコトに似ていた。