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 マコトがサヤカを部屋に送り届けると、サヤカはもういつも通りに笑って「おやすみ」とマコトに告げた。きいと小さな体を滑らせて、真っ暗な部屋へと帰っていく。それを見届けた後に、マコトは自分の部屋へと戻った。
「おっ、おかえり兄貴」
「あれ、まだ起きてたの?」
「まーな。話が途中だったろ」
 ミコトはそう言って、手持ち無沙汰にいじっていたらしい襟巻を荷物のほうへと放り投げた。マコトは「そうだったね」と言って寝台に腰かける。ミコトの魔法で灯された燭台が、二人の間を照らしていた。
「どこまで話したっけ?」
「サヤカと会ったってとこまで。怪我した彼女と旅しようって話になったんだっけ?」
「うん、まあ。僕が庇われて、サヤカが手首怪我したんだ。今もだけど」
「そこまでは聞いた」
 ミコトのほうの近況報告は終えていた。シュリと旅を始めた理由については根掘り葉掘り聞かれたが、それ以外は取り立てて話すこともない。マコト側からも、シュリの館での恩人が自分であること、今は騎士を罷免になったこと──それだけを話せばよかったものの、マコトはサヤカのことに興味津々だった。
 出会った経緯と行動を共にするようになった経緯についてざっくりと説明する。
「なんでそんな期限付きの旅をしようと思ったか、だろ?」
「……なんでだろうね。別に僕が特別に負い目を感じるほど、ひどい怪我をさせたわけでもなかったのに」
「いや、知らねーけど……自棄だったんじゃねーの? 別にそこにいたのがサヤカじゃなくったって、守りたいとか言ったんだろ。誰かの騎士になりたかったんだよ、誰かの」
「でも今は、僕の意思でサヤカと一緒にいるよ。交渉とか約束とかじゃなくて」
「サヤカの怪我が治ったらどーすんの?」
「……まだ、一緒に居たいけどなあ」
 深いため息をついたマコトに、ミコトが苦笑った。
「じゃあそう言えばいーじゃん。何も悩まなくてよくねーか」
「そうなんだろうけど」
「俺はそれより、……騎士になれなかったってほうが心配だよ。兄貴の夢だったじゃん、ずっと。明るくて優しい、俺の知ってる兄貴じゃなくなりそうで」
「──……心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ、安心して」
 僕の代わりに泣いてくれる子のおかげで、いろんなことに気が付けたから。マコトはそう続けようか一瞬迷ってやめた。