少し街を見て回りたいと、次の朝にシュリが言った。夜遅くまで話しこんでいたらしいマコトとミコト、それから夜中の散歩に繰り出したサヤカはいまだ眠そうだ。太陽の暖かな光のなかで朝食を摂りながら、シュリの話を聞いていた。
「露店が有名だから。ちょっと見ていきたいの」
「俺は全然かまわないぜ。兄貴たちは? これからどうすんの?」
「とりあえず王都に向かうことになるけど……別に急いでるわけでもないし。僕はどっちでもいいよ」
「んー、……私も露店見て回りたいかなあ」
そう言って欠伸したサヤカは、サンドウィッチを一口齧った。薄切りにされた肉と、葉野菜が丁度良い配分で食べやすい。ルテージ兄弟よりは眠っているはずなのにうとうとと、欠伸をしては食べを繰り返すサヤカに、マコトが問いかける。
「もしかして、朝弱い?」
「寝不足にはなりやすいかなあ。寝るのは好きだよ」
「弱いんだね」
くすくすと笑う彼らの間に、昨日流れていた気まずさは感じられない。夜半にサヤカが訪ねてきたことを知っているのはミコトだけで、その間もぐっすりと寝ていたシュリに事の次第は全く予想できないのだった。とうもろこしのスープを危なげな手つきで飲むサヤカを心配そうに見るマコトの目に、もう翳りはなかった。
「どうする? 少し寝てから行く? シュリさんたちには先に行ってもらって」
「寝たほうがいいだろ。せっかく街を楽しむんなら万全の状態のほうがいいしな」
「うん、そうしようかなあ」
そう言って欠伸したサヤカに合わせるかのように、時計台の鐘がなった。これが二回鳴ったら、昨日と同じ広場に集合。そう決めて、とっとと朝餉を食べ終わっていたミコトと小食らしいシュリは立ち上がった。よほどメルバルが楽しみらしい。
「マコトも行ってきていいよ?」
「いや、僕もまだ食べてるし。サヤカが食べ終わるまではいるよ」
至極当たり前のようにそう言って、マコトは自分のぶんのサンドウィッチを口に放り込んだ。マコトのぶんの朝食はそれで最後だった。
結局サヤカが昼寝の末に目覚めたのは、三回目の鐘が鳴った時だった。のそのそと起き上がり、それなりにすっきりとした目覚めだったなあと思って支度して、広場に集まった段でようやく気が付く。時計の針は三周していた。
「ごめんなさい、遅れました……」
しょんぼりと頭を垂れたサヤカに、シュリとミコトが笑って手を振って見せる。ふたりが快活に笑う中、マコトだけがあいまいな表情で「気にしなくていいよ」というものだから、遅刻したのがそんなに気に障ったのかとサヤカは不安になった。サヤカが動物であったなら、垂れている耳がさらにしょんぼりと縮こまったのが見えただろう。再び流れ始めかけた二人の間の微妙な空気の説明を請け負ったのはミコトだった。
「兄貴、サヤカが来ないってなったときすっげえ焦ってたんだよ。何かあったかーって」
「マコトさん、いつでも冷静な印象があったから、すごく面白かった!」
「ねえ、言わないでよ……」
片手で顔を抑えながら、マコトがもう片方の手をミコトの肩にかけた。体重をかけるようにしてぎりぎりと食い込むマコトの手に、「痛い痛い、ごめんって」とあっさり報復。両手を挙げて降参の体制をとったミコトに、サヤカが思わず笑う。
「心配かけてごめんね、マコト」
「いや、……うん、もうしないでね」
マコトがそう言って、ミコトの後ろへと隠れるように逃げる。その様子をからかうかのように、シュリとミコトが笑っていた。