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 ミコトとシュリのふたりは、サヤカたちよりも先に街を出るつもりのようだった。道を引き返してキアドに向かうというふたりに、マコトたちは見送りに出ようと門までついて行っていた。
「ふたりは、ええと……シュリちゃんの弟さんを探してるんだっけ」
「うん。いろいろあって生き別れちゃったの。館に来る前の話になるんだけど」
「……そっか。私たちに出来ることがあったら言ってね」
 快活な口調で生き別れたなどと言われサヤカは一瞬押し黙った。そのあと微笑んでそう伝える。門の手前で話す彼らの横を、たくさんの旅人たちが通り過ぎて行った。
「この街はもういいの?」
「俺が聞き込みしてたんだ。それといった情報はなかったし、さっきシュリと一緒に何人か会ったけどぜんぶはずれだったからな。次は大都市だよ。急ぎ足で探さなきゃいけないからね」
「あ、さっき抜けてたのはそういうことだったんだ」
 昼餉の時の話である。少し抜けるぜ、と言ってサヤカとマコトを置き去りに、ミコトとシュリが数十分席を外していたのだ。そのときにシュリの弟と似た人と会っていたのだろう。
 サヤカとマコトは今晩もこの町にとどまって、それから王都に向かって出発するつもりである。からりとした晴れの日にふさわしく賑わう街の片隅で、シュリがそろそろと時計台を見上げた。
「キアドのあとは、ユーンタとペオを回って王都に向かうよ。兄貴たちとはもしかしたらそこで会うかもな」
「そうかもね。次会うときは夏頃かな?」
「……あっ、なら、私たちにも弟さんの情報教えてほしいな! 旅の途中で見かけたら、マコトの家を経由して伝えられるでしょう? シュリちゃんさえ良ければ」
「えっ、協力してくれるの?」
「もちろん!」
 そういってから、サヤカは同意を求めるようにマコトに視線を送る。もちろん、とマコトも続けて頷いた。シュリが嬉しそうに微笑む。それから、サヤカにミコトの説明をした時と同じように指折り数えながら、弟の特徴をあげはじめた。
「私とは全然似てないの。薄い茶の髪で、濃い青色の目をしてて、私が覚えてる限りだとすごく皮肉屋だったかな。魔法は、私と同じで風魔法と他全般がつかえて──」
 言いながら、シュリは自分の鞄にちらりと目を落とした。みんなでお揃い、と言って買った腕飾りの中に一色あったその青色は、弟の分である。いつか出会ったときに、旅人の方とお揃いなのだと言えたならどれだけいいだろう。果てしなく広いこのリチアドから、ひとりの人を探し出すのが容易でないことは知っている。
「最後に、歌いながら魔法を使ってる人がいたら、その人かもしれない」
 ミコトも、シュリと一緒に弟の特徴を指折り数えていた。シュリが話をやめると、何か言いたげに口を開きかけるが、なにやら怪訝な顔をしているサヤカたちを見てか言葉を変えたようだった。ふたりと同じようにミコトも顔を顰め、問いかける。
「……マコトにサヤカに、ふたり揃ってどうしたんだよ。そんなしかめっつらして」
「あの、歌って使う魔法って──幻惑魔法ですか?」
「え、はい、そうですけど……。わたし、マコトさんにお伝えしましたっけ、それ」
「相手を眠らせる魔法があるとまでは聞いていましたが……幻惑魔法については最近、聞いたんです」
 マコトがでもまさか、と首を傾げる。サヤカも同じように悩んでいる様子だった。言われてみれば名前が似てるだとか、でもそんな偶然あっていいのかだとか、二人の間でささやき声が交わされる。シュリも、そしてミコトもそんな空気感に思わず何も言えずに黙った。待ちゆく人の足音も、今日もどこかで鳴り響く楽団の音楽も、空を横断していく鶏の群れの鳴き声もどうだってよかった。ええと、と切り出されるサヤカの声とマコトの行動に、否が応でも鼓動が早まる。
 まさか、まさか──知っている? わたしの弟に、心当たりがある?
「……シュリちゃん。弟さんの名前って、シュカさん?」
 サヤカがその桜色の唇でゆっくりと紡いだ、懐疑に満ちた声色そのものが、まるで祝いのファンファーレに等しくシュリの耳に触れる。サヤカに何を返事するその前に、シュリは思わずミコトの手をぎゅうと握っていた。それに応えるように、ミコトが人目も憚らずにシュリを抱き寄せた。