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 泣き腫らした目のまま、マコトの家へと戻った。
 扉を開けると、さっきまでそこにいたはずの大人たちとシュカ、シュリの姿が見えなかった。ベルが何やら料理をしているらしい音と、静まり返ったミコトとナツ。口を開いたのはマコトだった。
「みんなは?」
「城に一足先に向かったよ。あとでサヤカを迎えに来るってさ」
「……そっか」
 泣き腫らした目をしていたサヤカが、ゆっくりと椅子に座った。ナツに背を向ける形になってしまったが、ナツは諦めたように笑うばかりだ。ただ、サヤカは混乱しているだけだった。すべてを知っていたナツにどんな顔をしていいのか分からないだけだったのだ。
「……ナツ」
「なんだい」
「……いつから気が付いてたの?」
 ナツはその言葉に、背を向けたままはっきりと答えた。
「守り人だからって、メイクラシア様の宝石を何度も目にする機会があるわけじゃないからね。最初は気が付かなかったさ」
「うん」
「あんたたちと別れた後あたりで、サヤカがつけてた首飾り──着替えの時に見えちまったやつ、がなんであんなに既視感を感じたかようやく思い出してね。キアドに行くって聞いてたから、あたしに何ができるわけでもないってわかってたのについ追いかけたんだ。ついでにシュリを探そうと思ってさ」
「……シュカが守り人だってことは?」
「会ったこともないし、全く気が付かなかったよ。フィーザって聞いたときはじめて、あのフィーザどののことを思い出したんだ。子供の名前を話すほど親しい仲ではなかったからね、そのあとにシュカの話を聞いて確信を得た」
 ミコトは所在なさげに窓の外を見ている。椅子の上で身を縮めたサヤカは続けた。
「ごめんね、ナツ。混乱してて……まだ、信じられなくて」
「謝るのはあたしのほうだろう。サヤカはこのまま、何も知らないで暮らしていくのがいいと思って──この長い冬が『鍵』のせいだってわかるぎりぎりまで黙ってたんだ。そのせいで不必要に混乱させた」
「……いずれは知ることになってたと思う。だから、気にしないで」
 だれかと言葉を交わせば交わすほどに、ことの信憑性は高まっていくばかりだった。ベルが何やらお皿を出して、そこに鍋の中の料理を持っていく。具が沢山入ったスープのようだった。
 食卓に三つ分、ことことと皿を置く。そのあと、ソファにいるミコトとナツにも、匙の入った椀を渡したようだった。
「みなさん、そろそろお腹が空いたでしょう」
 言いながら、ベル自身がサヤカの前に座る。ベルに促されてマコトもサヤカのとなりの席に着き、四つ椅子があるうちのひとつが空のまま、昼食となった。ありがとうございます、とお辞儀するサヤカに、ベルがにこにこと笑いながらスープをすすめた。
 祈りの言葉を呟いてから、スープを口に運ぶ。質素でありながらあたたかく美味しいそのスープは、御伽噺のような感覚からサヤカを引っ張り出していく。