05

「えっ」
 しっかと目を捕らえられながら叫ばれて、少しの恐怖に体を強張らせた少女に、机の上で作業をしていたシュヴァルツと違い床で作業をしていたトウトがゆらゆらとおぼつかない足取りで立ち上がる。
「落ち着け、コハクが怯えてるだろ!」
「なんで湖なんだよ、なんでコハクもお前も」
「落ち着け!」
 がっと肩を掴まれて椅子に座らされたシュヴァルツ。展開についていけなかった少女はぱちくりと目を瞬いて、朝靄に包まれた静かな小屋を一瞬で満たした雰囲気にのまれていた。トウトに肩を押さえつけられたシュヴァルツは、口をきつく噛んで押し黙る。
「なぜ、とは」
「……わりい、お前が、水難事故に遭ったのが湖だったからさ。俺もシュヴァルツも…………。なんで湖に行きたいと思ったんだ?」
「昨日目が覚めたときの風景がとても綺麗だったから。お二人が私をそこに連れていくのが嫌ならかまいません。そういった理由ならなおさら」
「ただ、綺麗だったからなんだな?」
「ええ」
「……夜中とか、なんか変な感じとかしないか。記憶があいまいだとか……それはそうだろうけど、記憶喪失だもんな」
「しませんが」
 慄きつつも淡々と答えていく少女に、トウトが息をついた。
「じゃあいいさ、行こう」
「トウト」
「いいじゃねーか、他でもないコハクが望んでるんだぞ」
「お前はそうやっていっつも甘い、何かあったらどうするんだよ」
「俺が助ける。信じられねえか?」
「……もういい」
 シュヴァルツは、机に置いていた道具を雑に掴むと、昨晩と同じように部屋へと引き上げていく様子だった。昨晩と違うのは表情と掴んでいるものだけだ。
 怒りっぽい人なのだろうか。感情的になると冷静さを欠く癖がありそうな人だな、と少女は場違いな冷静さで分析した。
「怒らせてしまいましたね。すみません」
「いや、感情の制御が追い付いてねーだけだと思う。悪いな、コハクも大変なのにこっちもごたごたしてて」
「いえ、原因は私のようですから。先ほどは軽率な発言でした」
「いんだよ、気にすんな。それが湖だとしても、お前からどっか行きたいとか言われんの嬉しいから」
湖、行こうな。そう言って少し辛そうに笑って見せたトウトに、少女は甘えることにした。