腹ぺこメロンパン

「…………腹減った」

いつも通りの朝練のメニューを終えて、治は教室へとダラダラと歩いていた。
今日も治はしっかりと朝ご飯は3杯食べてきていた。その上に、体育館でもおにぎりを2個食べている。それでも空腹を訴える自分のお腹に治は苦笑した。
もし教室に着いてすぐに昼用の弁当に手を出したら、早弁することはできない。つまりお昼まで空腹を耐えることになる。今は今で、空腹度合いが高く我慢できる気もしない。
どっちもどっちやな……なんてお弁当の処遇にひとりでに葛藤していれば、目の前の廊下の曲がり角から誰かが勢いよくとびだして来た。

「うわっ」
「えっ」

体格差があったためか、ぶつかった人は治から弾かれ尻もちをついた。いつもなら避けるか受け止められていたはずやな、と申し訳ない気持ちを抱えながら、治は目の前の彼女に手を貸した。

「すみません、大丈夫ですか」
「大丈夫です。あの、走って突っ込んじゃってごめんなさい」

ありがとうございます、と治の手を取り起き上がった彼女は、同じ学年の立花さんであることに気づいた。彼女も起き上がる時に顔をちゃんと見たようだった。

「あ、宮くん、だよね。朝練の帰り?」
「うん」
「朝から頑張ってるんだね」

そうやね、なんて適当に流そうとすれば、治のお腹がぎゅるぎゅると盛大に廊下に鳴り響いた。
彼女は、少し目を丸くしながらふふふ、と笑った。

「ご飯食べなかったの?」
「いや、食べ足りんかっただけや」

それなら、と彼女は自身のスクールバックから、ガサゴソと何かを探した。すぐに見つけたそれをそのまま、はい、と治が手渡されたのはメロンパンだった。

「これ、立花さんのやないの?」
「ううん、私はどうせ食べきれないから。どうせなら、しっかり食べる人に渡した方がパンも幸せでしょ?」

それと、ぶつかった謝罪料としてもらってくれると嬉しいな!とニコッと笑った。なんやめっちゃいい子やん。



朝のSHRがはじまる前に頂こうと、メロンパンを手にした治だったが、なんとなくメロンパンの袋に違和感を感じた。(あれ、コンビニの袋じゃないってことは、どこかのパン屋で買ってきたもんだったんかな。)そんな大層なものもらってよかったのかと少し悩んだものの、もう貰ってるのだからとありがたく食べることにした。
外はサクサク、中はふんわりという王道的なメロンパンだったが、食べてきたメロンパンの中で1番美味しかった。こんな美味しいもんくれるなんて、なんや、立花さんって神やったんか?と考えていれば、その日の授業はあっという間に終わっていたのだった。



部活に行く用意をしようと、廊下に出れば前には例の立花さんが帰るところのようだった。

「あの」
「ん?あ、宮くん」
「さっきの、メロンパンめっちゃ美味しかった」

そう言えば目の前の彼女はパァっと顔を明るくした。

「よかった!実はそれ私が作ったんだ、親がパン屋さんやってるからその手伝いついでじゃないけど…」

やっぱり人に美味しいって言われるの嬉しいね、だなんて。俺がいつでも言うよ、と言おうとした自分自身に驚く。まさか、たった一食のごはんで胃袋を掴まれただなんて。

「うちのお店のパン、気に入ったらぜひ来てね。ちょっと駅までの道からは外れてるけど」

そう言われれば即座に、行くから場所教えて欲しい、と頭で考えるより先に言っていた。
掴まれたのが胃袋だけではないのかもしれないと思う日までそう遠くはない。






「なんや、お前最近ずっとパンやな」
「まぁ」

教えられたパン屋には美味しそうなパンが並んでいたことは勿論、立花さんが手伝いに入っていたため治は毎日通っていたのだった。

「絶対分けてやらんけど」



作成日:2018/01/08
更新日:2018/01/08
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