呼ばれたい論理
なんとなく荒れている、今日の北のプレーを見てさつきはそう感じた。別に目立ったミスはしていないのだが、ただ少しほんの少しだけ動きが自然ではないのだ。多少なりともズレがあることにチームのみんなも、もう気付いているのだろう。違和感を胸に抱えながらさつきはスクイズを持ち出した。「休憩です」
その一声でわらわらとメンバーは潤いとを求め向かってくる。
「さつきちゃん、もらってもええ?」
「ん!侑くんどーぞ!」
肩をポンと叩かれそちらを向けばヘラヘラっとした笑みを浮かべている侑が立っていた。マネージャーであるさつきは当たり前のように、そう笑顔で侑にスクイズを渡す。ありがとうな!といつものように接する侑とは裏腹な北がさつきの方へ寄った。
「あ!北さん、今日どうかしたんで……」
そう言いながら駆け寄った時には視界は北でいっぱいになっていた。周りがざわついてる事で、やっとさつきは北に抱きしめられていることに気が付いた。そして、周りの人は二人が付き合っている事を知らないために、ざわめきがどんどん広がっていく。
「え、えと北さん…」
「なぁ、二人の時みたいに信介って言い」
なんてさつきにだけ聞こえるよう耳元で囁きかけた。かなり突発的な行動で驚いてしまいさつきの体は強ばる。
「…ッ、し、信介さん、私、何かしました?」
そう言うと北はハッとしたような顔つきになり、ごめん、変な事言うたわ、なんてさっと腕から開放する。そうして少し神妙な空気が流れたとき、北が口を開いた。
「……もう俺ダメかもしれん」
「えっ?」
「なんや、侑とお前が仲良う話しとうの見るの嫌やし、急に名前で呼ばれたくなったり」
病気か……なんて真面目に考える北を横に、さつきはその言葉の意味を理解した。もしかして、と希望を持ちその気持ちの呼び方を言う。
「もしかして、嫉妬、ですか?」
「……!」
これが嫉妬というやつか、と気付いた北は、感情任せなんて情けないと思う反面新しい感情に口を綻ばせた。お二人は付き合ってるんですかー!なんて野次が飛んだことでさつきは、人が周りにいることに気づく。ただ北は気にしてなかったようで
「そうや。俺とさつきは付き合っとう。やから、手は絶対だすなよ」
とサラリと言って除けた。北さん恥ずかしい、とさつきがいうと、これからずっと信介って呼び?と堂々と返すものだから、周りの熱気も、さつきの温度も上がるばかりであった。
「なぁ、サム、俺ら何見せられとうの?」
「……バカップル」
まあ、まさかあの北さんが嫉妬や独占欲みたいな感情を抱くことがあるだなんて知る日が来るとは思わなかったと、宮兄弟は思うのだった。
「信介さん」
「なんや?」
「信介さんの嫉妬、嬉しかったです」
そう笑顔で言えば、北は少しだけ顔を染め
「お前にだけや」
と微笑んだ。
作成日:2017/11/27
更新日:2017/12/17