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小さい頃からずっと、祖母のような人になりたいと思っていた。
もちろん、両親のことは愛しているし、尊敬している。けれど、私がこうなりたいと憧れたのは祖母だった。
いつでも誰にでも優しくて、木漏れ日のように温かくて、誰からも愛されて、おまけに美人。物心がつく頃には、絵本に出てくるどんな魔女やお姫様よりも、祖母が一番の憧れだった。
でも、そう言うと祖母は決まって困ったような顔をする。嬉しそうな、でもどこか哀しそうな、そんな顔。
『華耶ちゃんは…華耶ちゃんのままでいいのよ』
私の顔や髪を撫でる手は、皺が刻まれても尚繊細で美しくて、自分の、まだ幼く肉付きのよい手と比べては、早く大人になりたいと願ったものだ。
『華耶ちゃんは私に似ているから…ホグワーツではハッフルパフになるかしらね?』
祖母は、私がイギリスの母校に通うことを強く望んだ。ハッフルパフは、祖母が7年間属していた寮。だから、祖母の持ち物はハッフルパフのシンボルカラーがほとんどだった。
初めての結婚記念日に、祖父から贈られたブローチも、寮のシンボルである穴熊を象ったもの。祖母が何よりもそれを大事にし、常に身につけていることは、私たちの一族全員が知っていることだ。
だが私は…私だけは、他の家族が誰も知らない秘密を知っている。祖母が穴熊のブローチと同じくらい大切にしている、一枚のハンカチ。緑地で、銀色の蛇の刺繍が施された、祖母の持ち物には相応しくないモノだ。
初めてそれを見つけた時、蛇の赤い眼差しが何だか不気味で、思わず取り落としてしまったことを覚えている。
『このハンカチのこと…私と華耶ちゃんだけの秘密にしてくれる?』
大好きな祖母の願いを叶えるため、私は小指を絡めて約束した。決して誰にも言わない、決して明かさないと。
『これは借り物なのだけど…自分自身を忘れないために、…まだ借りたままなの…とても、大事なものなのよ』
借り物ならば、いつか持ち主に返す必要があるのではないかと尋ねると、祖母はよりいっそう寂しそうに笑った。その笑みが印象的で、その時私は言葉を失ったことを覚えている。
『華耶ちゃん…あなたが私と同じようにホグワーツに通って、ハッフルパフに組分けられても、『私に似てるね』と言われても、……』
どうか、私のようにはならないで。
祖母は私を抱き締めて、声にならない声で囁いた。そんな祖母を見たことがなくて動揺していた私は、安心させるために偽りでも頷くことしかできなかった。
だけど、私が頷けば祖母はまたいつものように優しく微笑んでくれるから、次第にその真意を知ろうとは思わなくなっていた。
*
祖母が眠るように息を引き取ったあと。家族と共に遺品を整理しているとき、私はあのハンカチと二度目の邂逅を果たした。
結局、この持ち主が誰なのか、なぜ祖母はそれを借りたまま返さなかったのか、あの言葉の意味は何だったのか、私は何一つ知らないし、聞いていない。どうしても、尋ねられなかった。
大叔母に尋ねれば何か知っているかもしれないが、祖母との約束を破るのは憚られた。私はこっそり、そのハンカチを自室へ持ち出した。蛇の赤い眼差しは相変わらず不気味だったが、しまい込んでしまえばどうということはない。
そのうちにハンカチのことも、『私のようにならないで』という言葉のことも、あまり考えなくなった。
祖母が何と言おうと、私の憧れは変わらないのだから。今までも、これからも。
私は、祖母のような人になりたい。
いつでも誰にでも優しくて、木漏れ日のように温かい人に。誰からも愛されるような人に。