そして我らは同志となる
「なるほど。…それで一人でこんな所を散歩してたのか」
「そうよ。…君こそ、一人になりたくてここに来てたのね。ごめんね、邪魔しちゃって」
「……いや、それは、別に」

 警戒心を露わにする青年を落ち着かせ、自己紹介にまでこぎつけたのは、84人の弟妹を抱えた姉力の賜物だろう。私の名前を聞いた青年は驚きつつも、自分の所属——やはり百獣海賊団に属する海賊だった——と名前を教えてくれた。
 彼の名は、ページワン。百獣海賊団の若き幹部の一人。亡くなった父親の縁で、姉と共にカイドウに引き取られたのだとか。姉がカイドウから盗んできたという、“悪魔の実”の力があるにしても、あの弱肉強食かつ実力主義の百獣海賊団の中で成り上がってきたなんて、ちょっと信じられない。どんな能力かは知らないけど、傍目には気弱な大人しそうな青年に見えるのに。

 そんな彼は、姉と共にこの島にやって来たという。が、ページワン——弟を溺愛する姉は彼を、“ぺーたん”と呼んでいるらしい、私も勝手に心の中でそう呼ぼう——は本当はワノ国でお留守番していたかったらしい。姉の激し過ぎる愛情表現に疲れ果てたぺーたんは、ほんの一時でも姉から離れたくて、姉がバカンスに出かけると聞いて自分は留守番をするつもりだったそうだ。だが、片時もぺーたんと離れたくなった姉が強制的にぺーたんを連れ出したせいで、ここに来ることになったという。そして只今、その姉はウチの弟妹と睨み合っているからと、隙をついて仲間から離れてこの場所に逃げてきたそうだ。完全に、どこかで聞いたことのある話である。

 そんなぺーたんに、私も自分の置かれた状況を話した。私と一緒にバカンスに行きたいが為に全力で戦った弟妹、一緒に来た弟妹が入れ代わり立ち代わり引っ付いてくるのは当然で、帰国すれば留守番組の弟妹の相手をすることになる、と。


「おれは、たった一人の姉貴ですら持て余してるのに、あんたにはそれが85人も……!!」
「君のお姉さんとはまた違った大変さではあるけど…この苦労、君ならわかってくれる?」 
「当たり前だ!寧ろおれ以外に理解できるヤツがいるか?」
「……同志!」

 どちらからともなく手を差し出す。固い握手が交わされ、今ここに兄弟姉妹に振り回される苦労人同盟が結成された。


 そこから私達は、並んで岩場に座り、各々の兄弟について語り合った。と言っても専ら話していたのはぺーたんの方で、私は時折自らの経験を付け加えていただけに過ぎない。私の方が遥かに長く生きているし、兄弟の数も多いので、話題には事欠かないが、ぺーたんの話はそれはそれで強烈だった。彼の姉、うるティちゃんも大概ぶっ飛んでんなぁ。ウチにはいないタイプ。もしもいたら、振り回され過ぎて私死んでる。


「それで、最近の姉貴のブームは、“ごわす”を語尾につけて話すことなんだよ。恥ずかしいからやめろって言ってんのに、全然聞きやしねェ」
「それは…なかなかインパクトあるね」
「だろう?おれはやめてほしいのに、カイドウ様も面白がるし、あれは絶対次のブームが来るまでやめねェ気だ…」

 姉ないし弟の苦労を理解してくれないのは、どの兄弟にも共通する悩みらしい。全く不思議な話である。


「人の話を聞かないのは、あるあるかもしれないわね。ウチもそうだし」
「まさか、85人全員が…?」
「それはさすがに…3人くらいは、ちゃんと話聞いてくれる子もいるよ」
「3人だけ!?」

 ホント衝撃だよな。ママも話聞かないから、多分シャーロット家の遺伝なんだと思うよ。

「…四六時中おれにべったりで、たまにでいいから一人にしてほしい」
「それはめちゃくちゃわかる。私子供の時から50年近くずっと思ってる」
「……それも85人全員なのか?」
「……まぁ、ほぼそうね」

 私の知らないところでシフト組んでんの?って聞きたいくらい、入れ代わり立ち代わりひっきりなしに私のところに来るんだよな。遠征で出かけてる子も、わざわざ電伝虫で連絡してくるくらいだからな…


「だけど、何だかんだ言っても可愛いのよね…」
「あの10億の幹部も…?」
「私からすれば、いくつになっても3歳の頃と変わらないからね」

 シフォンにも言った通り、46歳のカタクリ達も6歳のアナナも、私からすれば同じ。そこに差はない。年長の兄弟とはギクシャクしてるところがあるのは否定しないが、あれからもう30年経った。あの時ですら家族を憎めなかった私が、今更憎しみを抱くなんて無理だ。それに、どんな時でも真っ直ぐ好意をぶつけ続け、時には愛を懇願する姿を前にして、いつまでも拒絶できる人間がいるだろうか。好意に敵意を返すことは難しいものである。相手が家族で、子供の時から一緒に育ち、慈しんできた相手ならば猶更だ。それに、どう足掻いてもここで家族に愛を注いで生きていくしかない以上、家族と向き合っていくしかない。

 ぺーたんは私の言葉に、じっと耳を傾けていた。膝を抱えて座り込む姿はどこか頼りなくて、あの百獣海賊団の幹部の一人には到底見えない。だからこそ、うるティちゃんは弟を構うのかもしれない。だいぶ激しいけど。

「きっとうるティちゃんにとっても、君は小さい頃のままで、いくつになっても可愛いんだよ。…お姉ちゃんって、そういうモンだし」

 そう、私に限ったことではない。例えばペロスペローだって、すぐ下のコンポートにはめちゃくちゃ甘い。あれはきっと、初めて生まれた自分より下の子で、かつ女の子だからだろう。他の兄弟もみんなそう。兄や姉の中で、弟妹というのはいくつになっても手がかかる3歳児みたいなものなのだ。…特にウチは母親があんなだから、兄弟姉妹の絆を…って思いが全員にあってこそのことだと思うが、その意味ではぺーたんとうるティちゃんも同じような境遇ではなかろうか。信じられるのは血を分けた兄弟だけ、というか。

「…、…それは、おれもわかってる、けど…」
「ふふっ。まぁ、一人になりたい君の気持ちは私も同じだし、それは別に間違ってないと思う。…あとは、うるティちゃんがそれを理解してくれるか、だね」
「それができれば苦労しねェよ……」
「…まぁそれに関しては、約50年生きてる私にも解決できてない問題だから、何のアドバイスもできない…」

 寧ろ私がアドバイスしてほしい。“一人になりたい”=“家族と一緒にいるのが嫌”じゃないんだよ……確かに一人がずっと私に引っ付いてる訳じゃなく、85人が交代でやって来てるから、彼ら個人としては私の24時間を奪ってるつもりは一切ないのだろうけど。一人に使ってる時間は30分もないしね。でも、85人全員で私の24時間を分配すると、私に一人の時間がなくなるのは目に見えてるじゃん。どうやったら伝わるの……

「悪気がないから、余計に質が悪いんだよな…」
「そうだね……」

 私の弟妹も、うるティちゃんも悪意は微塵もない。彼らとしては、ただ大好きなお姉ちゃん、もしくは弟と一緒にいたいだけなのだ。その気持ちは嬉しい。多分ぺーたんもだと思う。ただ、それとこれは、って話なんだよなぁ。


 そこで何となく話が途切れて、私達は無言になった。私は目の前に広がる遠くの海を眺め、ぺーたんは抱えた膝の上に顎を乗せ、ゆらゆらと体を前後に揺らしている。…その仕草子供っぽくて可愛いな??そりゃうるティちゃんも溺愛するわ。…ま、ウチの弟妹にはちょっと負けてるけどな。


「そう言えば、君も能力者なんだよね?」

 ぺーたんの角をぼんやりと見ていて、ふと疑問が沸き上がってきた。尋ねると、ぺーたんは会話の脈絡のなさに驚きながらも頷いた。

「言える範囲でいいんだけど、何の能力者なの?」

 聞いてはみたものの、まともに答えてくれるとは思っていない。苦労人同盟を結んだとは言え、私達は敵同士。敵に手の内をあかすようなことは、そうそうしないだろう。これはただの私の興味だ。だが意外にも、ぺーたんはすんなりと「“動物系”」と答えてくれた。私が戦闘員でないと知ってるからだろうか。

「“動物系”か……」

 “悪魔の実”にはあまり興味のない私だが、その中でも面白そうだなと思っているのが“動物系”だったりする。ウチにいる能力者は大半が“超人系”で、“動物系”もいるにはいる――タマゴ男爵とかペコムズとか――けど、あまり身近ではない。だから実はすごく興味がある。ぺーたんは一体何の動物だろう。やはり、あの角がヒントになるのだろうか。…そう言えばカイドウにも角があったから、もしかしたら角をつけるのが百獣海賊団の決まりで、ぺーたんの角も自前じゃないのかもしれない。……でも、クイーンって角あったっけ……?

「スピノサウルス」
「?」

 急にぺーたんがそう言った。意図を理解できずにいる私の反応の悪さに気づき、ぺーたんがもう一度「スピノサウルス」と言った。スピノサウルス——……あっ。

「恐竜っ!?」

 その反応に気をよくしたのか、心なしかぺーたんがドヤ顔しているように見える。可愛い。いや、ていうかマジか。恐竜になれるのか。スピノサウルスがどんな恐竜かはわからないけど、名前的に強そうな感じがする。

「カイドウは“青龍”だし、クイーンもなんか恐竜だったよね…百獣海賊団って、そういう系で揃えてるの?」
「さぁ…まぁ、クイーンもおれも姉貴も恐竜だし…」
「うるティちゃんも?」
「あぁ。パキケファロサウルス」
「パ…?」

 よくわからないけれど、姉弟揃って恐竜になれるのは凄いな。全然ピンとこないけど。万国に帰ったら、モンドールに恐竜図鑑でも見せてもらおうかな。
 そんなことを考えていると、突然ぺーたんが吹き出した。一体どうしたんだと見れば、マスクで全貌は見えないものの、微かに笑っているようだった。

「今私、何かおかしなこと言った?」
「いや、…ただ、意外で…」
「?」
「聞いたイメージと全然違う」

 ぺーたんは私にどんなイメージを持っていたのだろうか。どうせ“傾国のカヌレ”とかいうダサい異名のせいだろう。それか、コーヒー豆欲しさに町を一個吹き飛ばした事件とか。やったの私じゃないけど、世間的には“私が弟妹に命令させてやった”ことになっているからさ…

「どんなイメージを持ってたのかは知らないけど、そんなもの何の役にも立たないでしょ」
「それもそうだな」
「全く、失礼なガキだこと」
「誰がガキだ!!」


 そう言い争ううちに、気づけば私達は声を立てて笑っていた。自分でも何がこんなに楽しいのかはわからない。多分家族以外の誰かと対等な立場で話すことが久々だったからかもしれない。立場も違えば、親子ほど年齢の離れた私達だが、だからこそ共通するところもある。兄弟姉妹の悩みなんて、私達でなければ共有できまい。ぺーたんに会えてよかった。兄弟のことは好きだが、それでも“一人の時間が欲しい”という悩みを抱えているのが私だけでないと安心できたのだから。

 家族と過ごすのとはまた違った時間に、こんな時間もたまにはいいかもしれないと思う。万国では家族以外の話し相手なんて、シュトロイゼンか侍女くらいしかいないし、彼らに兄弟姉妹の愚痴なんて聞かせられない。同じ悩みを持った同志の存在はやはりいいものだ。今日限りと言わず、定期的にこうして話ができたらと思う。電伝虫でちょっと話すくらいなら、ママも許してくれると思うけど…

 提案すると、意外にもぺーたんはあっさりと了承してくれた。気軽に悩みを打ち明けられる人がいるだけで少しは楽になると、この短い間に気づかされたらしい。結果として一人の時間を邪魔してしまったわけだから、そう思ってくれたならよかった。私もリフレッシュできたし、万々歳だ。
 自分の番号を伝え、ぺーたんが教えてくれた番号を手帳に書き留めながら、「クイーンには教えないでね」と念のために釘を刺しておく。ぺーたんは苦笑しながら頷いてくれた。

「…そうだ。さっきからずっと心の中で勝手に呼んでるんだけど、私も“ぺーたん”って呼んでもいい?」
「オイふざけんな!」

 えぇー…可愛いと思うけどな、ぺーたん。なかなかいい渾名だと思うのに。本人が嫌なら呼ばないけど、それなら何て呼ぼうか。

「普通に呼べばいいだろ!」
「気に入ってたのに、“ぺーたん”…」
「クイーンに番号言うぞ!」
「それは嫌!」


 ——…そんな風にぎゃあぎゃあと、普通の兄弟喧嘩のような気やすさで言い合っていた、その時。


「ぺーたんが、あちき以外の女と、楽しそうに笑っている……!!」
「カヌレ姉が、家族以外の人間と、楽しそうに笑っている……!!」

 「「ひっ!」」と、私達は同時に息を吸い込む。錆び付いたロボットのようにぎこちなく声の聞こえた方へ顔を向ければ、ぺーたんと同じように側頭部に角を生やした青髪の美女と、10つ子を筆頭にウチの弟妹達が立っている。…あっ、あの子がうるティちゃんなんだ可愛い〜美脚〜…なんて、現実逃避をした次の瞬間。

「ぺーたん!!」
「「「カヌレ姉!!!」」」

 それぞれの兄弟にとんでもない速さで飛びつかれ、私とぺーたんは勢いよく岩場を転がり、青く澄んだ海へダイブした。



「あ゛あ゛あ゛…もう、最悪…」
「自業自得だろう」
「おっさんみてェな声出すな」
「右に同じだ」

 可愛げのない三つ子もいたモンだ。特にダイフク。…て言うか。

「あんたらの方こそおっさんじゃない」
「「「まだ46だ」」」
「世間的には“おっさん”の部類に入るんだよ」
「うるせェ」
「知るか」
「髪乾かしてやらねェぞ」
「乾かしてくれなきゃ、今日のメリエンダはなしよ。連帯責任であとの二人もね」
「「「!!」」」
「因みに今日はドーナツだからね」
「!!」

 泣く子も黙る四皇の幹部からのクレームにも、私は決して屈さない。「今日のメリエンダはなしよ」は、彼らが物心ついた頃から言い続けた言葉だ。実際にむかついた時は作ってやらなかったし。おかげで私がそう言った瞬間、カタクリとダイフクは揃ってオーブンに、「さっさと乾かせ!」と怒鳴ったくらいだから、未だに効果覿面である。怒られたオーブンが能力で髪を乾かしてくれるのに任せ、私はスムージーが絞ってくれたジュースを飲む。


 弟妹の襲撃によって海に落ちた私は、能力者であるにも関わらず飛びついてきた結果一緒に落ちたニューシとプリンに巻き込まれて上昇できずもがいていたところを、プリム・プラリネ姉妹に救われた。双方能力者であるぺーたんとうるティちゃんも、百獣海賊団の下っ端が引き上げていた。もうどこから突っ込んでいいのやら。
 おかげで海に入る予定のなかったのにびしょ濡れだし、ぺーたんの電伝虫の番号をメモした手帳も使い物にならなくなった。どうしよう。


 ビーチでの騒動は、ガレットがママに連絡してくれたおかげで何とか衝突は避けられた。現在はビーチを半分こしている状態である。付け加えれば、私がいる場所は百獣海賊団から一番遠く離れており、かつ三つ子が目隠しとして傍にいるので、相手方、特にクイーンからは見えないようになっている。そこは大いに感謝したい。

「だいたい、妹達と一緒にいろと言っただろう」
「私がいたらクイーンが騒いで、そのせいでお前が覇王色まで出してブチ切れるから、アイツの視界に入らないように移動したのよ」
「それで百獣海賊団のガキに会ってたら意味ねェだろ」
「別に特に害のないガキだったけど?」
「当たり前だろうが。害があったらおれが焼き殺してる」
「……あっそう」

 しかし、果たして恐竜は焼死するのだろうか。頑丈そうだから、火傷で済んでしまいそうな。でも、恐竜が絶滅したのは、火山噴火のせいだったような…?

 そんなことをを考えていると、それが顔に出ていたのか、「人の話聞いてんのか」とカタクリに怒られた。お前も大概話聞かないだろ。

 それにしても、こんなにも弟達に怒られるのはなぜなのだろうか。何度振り返ってみても私に非はないはず。寧ろ海賊団のことを思って行動したのに、怒られるって何事…何が弟を怒らせたのか、さっぱりである。妹達から離れたのが悪かったのだろうか。一応、百獣海賊団が襲ってくることはないと判断してのことなのだが。プリンやフランぺのように、小さい妹がいたからだろうか。確かにあの二人は、守ってあげたくなる可愛さがあるもんな…さすがベスト妹ーティスト賞1位と2位である。文句なしに可愛いもんな。

「この顔は、また関係ねェこと考えてやがる…」

 オーブンの呟きに、あとの二人が呆れたように息を吐く。失礼な弟達である。……と、ビーチの向こうの方を歩く人影が視界に映り込んできた。…あのシルエットは!

「あっ、ちょっと待ってて」
「オイ!どこへ行く!」
「カヌレ姉!」
「まだ髪乾いてねェぞ!」

 間違いない、あの角はぺーたんだ!私は立ち上がり徐に走り出す。見たところぺーたんは一人。話しかけるならば今しかない。すぐに弟達が追いかけてくるのがわかったが、ここは砂浜。体重が重い分砂浜に足を取られやすい。
 あっという間に弟達を引き離して砂浜を駆け抜けると、どうやら売店に向かっているらしいぺーたんに声をかけた。

「ぺーたん!」
「ぺーたん言うな!」

 私に気づいたぺーたんは、すぐに私の呼び方に噛みついてきた。可愛いし面白い。

「さっきは大丈夫だった?」
「あぁ…何とか…」
「うるティちゃんも怒らせちゃったみたいで…ごめんね」
「いや、姉貴はいつでもあんなだし…」

 可愛い弟を取られるかもしれないという思いから、私に嫉妬心むき出しだったのだろう。微笑ましいが、皺寄せがぺーたんにいくのはやはり申し訳ない。

「何か買うつもりだったんでしょう?お詫びに、私に驕らせて?」
「!…いいのか?」
「もちろん。うるティちゃんの分も出すよ」

 聞けば、拗ねたうるティちゃんの機嫌を取る為に、売店に買い物に来たらしい。「どれでもいいよ〜」と言うと、さすが海賊と言うべきか、彼は遠慮なく自分とうるティちゃんの好物をねだってきた。ナチョスとツイストポテトを手に、「ありがとう」と笑うぺーたんは、ウチの三つ子よりも可愛げがある。…嘘、あの子達もちゃんと可愛いわ。

「どういたしまして…あと、電伝虫の番号を書いた手帳がおじゃんになったんだけど…」
「あぁ、それはおれも…」

 再度番号を教え合い、今度は掌にメモした。これで消えることはないし、船に戻ったら別のメモ帳に書き写せばいい。

「いつでも連絡してね。私も、家族以外の話し相手ができて嬉しい」
「あぁ。時々連絡させてもらう」

 そして別れの挨拶と、これからも続く苦労人同盟の結束を確かめるように握手を交わす。顔を見合わせて、微笑み合った。すると。


「「「カヌレ姉」」」
「げ」
「ぺーたん!!」
「げ」

 背後に立つ三つ子、どこからか飛んできたうるティちゃん、引っくり返りながらも食べ物を死守するぺーたん…デジャヴだなぁと現実から目を背けようとするも、大きな手に肩を掴まれて強制的に振り向かせられる。……三人とも顔こわ。


「おれ達も腹が減ったんだが」
「あのクソガキに驕ってやったんなら、おれ達にも金出せるよな?」
「可愛い弟の頼み、優しい姉ちゃんならきいてくれるよな?」

 脅迫じゃねェか。ホント、何にそんなに怒ってるんだろう。振り切ったから?弟心ってよくわからない。

「まぁ、別にお金くらい出してあげてもいいけ」
「おーい、お前達!カヌレ姉が何でも好きなモン買ってくれるってよ」
「「やったー!!」」

 ダイフクの呼びかけに、わらわらと他の弟妹が集まってくる。おい、待て待て待て!

「ちょっと!!全員分買うとは言ってない!!!」
「よそのガキ共には金出して、可愛い弟妹には出せねェのか?」
「…そ、んなことは言ってないけど、何人いると思ってるのよ!」
「「「自業自得だろ」」」
「何が!?」

 わからない、三つ子の言う自業自得が何なのか。わからないけれど、そう言ったところで無駄なのだ。50年近い人生で、私は学んだのだ。ウチの弟妹は話を聞かないし、私が何を望んでも無駄だと——

「もう!好きなだけ買ってきなよ!!」

 全然似てないくせに、そういう時だけ意気投合する三つ子の顔面に向かって財布を投げつける。今日一日で破産するなんて、と涙を呑むんでいると、向こうの方でぺーたんがうるティちゃんの圧し掛かられているのが見えた。

 苦労人同盟は、私かぺーたんのどちらかが死ぬまで続きそうだ。


 集まってきた弟妹達に集られながら、そう思った。



「お姉ちゃん…」
「…シフォン……お前も、好きな物買ってきていいのよ」
「…でも…」
「シフォン!カヌレ姉がそう言ってくれてンだ、遠慮なんてするな!」
「オーブンお兄ちゃん…」
「別にいいけど、お前が言うな!!!」 
 




◎シャーロット・カヌレ(49)

 苦労人その一。もう難しいことを考えるのはやめにして、悟りを開いて生きている。その為弟妹にも遠慮がなくなり、お口が悪くなることもある。一応本編での自殺→生還√で、自殺の動機も知られているので、年長の弟妹とは多少ギクシャクしているところがある。…が、結局“弟妹可愛い”の感情に負ける。小さい時から可愛がってきた子達を憎めないのが、長女の優しさであり甘さ。
 苦労人度合いは年々増す一方だが、この度強力な同志を得てご満悦。今後も時々電伝虫でぺーたんの愚痴に付き合ってあげたりする。うるティが自分に嫉妬心を剥きだす理由はわかるのに、弟妹に集られた理由はわからないあんぽんたん。帰国すれば、事情を知ったお留守番組にも集られることになる。


◎弟妹達(48〜6)

 全員揃い踏みの85人兄弟。長女が生きているので、29女(原作では28女)はパンナちゃん。
 上から下まで優しい長女が大好き。どいつもこいつも、最愛の姉を不埒な目で見る奴は絶対殺すマン。長女が身内以外の人間に優しく笑っていたくらいでヤキモチを焼くくらい、揃いも揃って長女のことになると精神年齢3歳児になる。
 ぺーたんに嫉妬心がむき出し。ぺーたん(とうるティ)に驕ってるところを目撃し、対抗心を燃やして長女に驕らせた。その後ちゃんとメリエンダも楽しんだが、三つ子にはいつもより二回り小さいドーナツが出るという地味な嫌がらせを食らった。それもでも長女が好き。


◎ぺーたん(18)

 苦労人その二。長女と意気投合し、兄弟姉妹に振り回される被害者として同盟を結んだ。85人を相手する長女に尊敬の念を抱くようになり、クイーンやうるティに内緒で愚痴を聞いてもらう関係になる。でも、後でバレて大変な目に遭う。
 因みに当初は長女に、異名やヴィーラ族であることから“魔性の悪女”というイメージを持っていた。もっと言えばカイドウから“顔しか取り柄のねェ女”だと聞いていたので、“めちゃくちゃ美人だけど冷酷な女”だと思っていた。実際に話してみると優しいし、表情も豊かで、「パキケファロサウルス」が言えなくてぽかんとした顔が面白くて思わず笑ってしまった。

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