ここは「くずぼしのアトリエ」店主による
MMO SLG SOLD OUT2 内での
お知らせと出来事を掛け合い方式で
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▼ 2015/01/01 : Prologue



アトリエ周辺の緑が一層深まり、 日差しは強く、柔らかく吹き抜ける風が少し熱を孕むようになった。 
魔法使いの世界で修行をしていたくずのはちゃんがアトリエに帰ってきてから、そろそろ2つの季節が通り過ぎると実感する。 
くずのはちゃんは結局、異世界で魔法剣士のジョブはマスターできずじまいだったらしい。 
それでも本人は、ちょうどよく魔素をコントロールできる術を覚えたからいいと言っていたが、内心は大剣を扱えるかっこいい錬金術士になりたかったようだ。モノフォビアの武器屋に行くといまだに必ず大剣を眺める彼女を見て、ちょっとかわいそうに思ったりする。 
 
「今日納品のお薬調合はここまでにしましょうか」 
 
調合に使っているメイスを錬金釜から引き上げ、液体の色味を確認してからフラスコで掬い上げた。 
天窓から漏れる光に照らされた液体の薬は、濁りない薄桜色にたっぷりと輝いている。上々の出来だ。 
残りの薬もフラスコに丁寧に詰め、納品用の籠に群青のクロースを巻きつつ並べていく。最後にくずぼし印のシーリングスタンプを丁寧に押せば、酒場依頼用とレグル雑貨店に降ろす商品が出来上がる。 
小休憩のビスケットを頬張りつつ、いっぱいにポーションが詰まった籠を落とさないように台車に積みロープで固定し、その間に別の部屋で魔導書を読み漁っているであろうくずのはちゃんを呼んだ。 
 
「まーだそんな台車なんて使って、古代人だな」  
 
音も立てずに隣に来たのを見ると、この間から練習していた”瞬間移動のやつ”は習得できたらしい。正直びっくりするから普通に来てほしいところだ。 
 
「以前くずのはちゃんの魔法で全破壊の悲惨な思いしたんですから、古代人らしく確実に届けるんですよ」 
「あれはほら、瞬間移動のやつを物に使ったからだな」 
 
そんなやりとりを朗らかにしながら、この世界の大都市モノフォビアへと続く道をがたごとと台車を押し歩む。 
アトリエを継いだ頃はこの道も獣道同然であったが、最近は星降る森方面に新しい遺跡が再構築され続けることもあって冒険者の行き交いが活発になり、以前より地面が踏み固まって通りやすい道になった。 
 
「南東東の方に変な予感がする」 
 
いきなり立ち止まったくずのはちゃんにぶつからないように台車を脇に逸らし、小石で固定してから背中に差したメイスへと手を伸ばす。 
少しだけ空気がぴりりと張り詰めた。 
 
「モンスターですか?」 
 
そろそろとくずのはちゃんの視線の先を追えば、木々の隙間から白い光がぽつりぽつりと舞っているのが伺える。よく目を凝らせば、森の奥の方に楕円形の発光体が見える。異世界への扉だ。 
ここまでしっかり目視できる扉であれば、繋がっている世界にも魔法に似た不可思議技術があると思われる。 
 
「この間私が行ったとことは違う世界に繋がってるみたいだ。しかし扉の出現多いな」 
「最近再構築が活発ですからね」 
 
師匠が言うには、私たちがいるレーヴデトワールと呼ばれるこの世界は、数多の箱庭世界より上層の図書世界という種類に属し、"神様"が作り終えた箱庭世界をパッチワークのように少しずつ再構築して作られているそうだ。 
そして再構築した時には必ず近くに世界の綻びが生まれ、そこには現存する箱庭世界へ通じる扉が現れる。先日くずのはちゃんが修行した世界もそういった扉を使って行ったそうだ。 
 
そんなくずのはちゃんは、トレードマークである頭飾りの花を凛と揺らし、私の目をじっと見た。金色の瞳の奥に神妙な顔をした私が映り込んでいる。 
 
「行ってみたくないか?」 
 
いつもは三白眼で無愛想な表情である彼女が、ここまで目を輝かせるのは珍しい。 
私も少し好奇心に掻き立てられるが、脇に停めた納品物の存在を思い出し我に返る。 
異世界へ行ったらこっちの時間で、どのくらいアトリエを空けることになるのかわからない。  
アトリエの認知度はそこそこ高くなったとはいえ、まだまだ知名度が低くアトリエ販売だけでは経営が成り立たない。
卸先のお得意様である酒場のマスターや雑貨屋のレグルちゃんなど贔屓にしてくれている人たちを後回しにして、異世界に行くことになってしまうだろう。 
しかし、くずのはちゃんが異世界に修行に行って習得せずとも成長したのは確かだ。私の錬金技術がこの世界の知識では頭打ちの今、学ぶとしたら同じように他の世界から技術を習得するしかない。 
 
台車の中のポーションを見つめて5秒後、再び金色の瞳を捉えた。 
 
「納品してから行ってみましょうか」 
 「カタブツのくずぼしにしては良い返事だ!」
 
そんな小旅行の気分で向かった扉の先のMUTOYS島で、アトリエを開店し2年が経過するとは、この時誰も予想はしていなかった。 



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