08月



目線やや上から標準をゆっくり真っ直ぐに下ろし、相手の顎を捉えた瞬間に引き金を引いた。
放たれた弾丸はやや下向きに、それでも狙った角に命中する。かこん、と乾いた音と共に手のひらの2倍はある大きな将棋の駒が棚から落ちた。
落ちた将棋の駒には、ニンテンドースイッチと手書きででかでかと書かれてた紙が貼られている。

「射的上手すぎでは……もしかして仁部さん、そっち方面の人ですか」
サングラスかけてる奴は大抵殺し屋って言いますし、金魚柄の青い浴衣を着た春原さんが尻すぼみ気味に喋りながら、握った右手を顎へ、本気で疑いの眼差しを俺に向けてきた。
射的屋台のお兄さんも腕を組んで感心している。
長年続けている趣味の一つであるサバゲーが、こんなところで役に立つとは思っていなかった。確かまだサバゲーマーということは春原さんには話していない。別に隠している、という訳ではないが自ら告白する必要もないと考えていた。
でも確かにちょっとガタイのいい、いい歳の大人が射的の扱いが無駄に上手だったら凄味があるような。
「サバゲーやってるんですよ……」


戦利品のニンテンドースイッチが入った紙袋を抱えた春原さんは、からからと日和下駄を器用に履き慣らして俺の横を歩いている。
空いているベンチを探すが、やはりどこも溢れるような人混みである。諦めて河川敷の芝生に座ることにした。
「なんでも出来るんですね」
人混みの外れに出て少し騒音が和らいだからか、春原さんが敷いた手拭いに座ってぽつり口を開いた。
「趣味がたくさんあって、好きなことがたくさんある人って羨ましいです」
まるで自分を卑下しているような物言いに、思わず噤んでしまった。黙ってしまった俺に気を使ったのか、慌てたように両手を振った春原さんは、そうじゃなくてと笑う。
「私、からっぽなんです。趣味がなくて何もない土日はベランダで空を眺めながら、生ハム食べて煙草吸ってるんですよ。たまにあるとしたら、雨の日は本を買って喫茶店で小1時間読むぐらい。だから、こうやって休日に外へ出してくれる仁部さんがありがたいです」
「いやいや俺こそ何でもない外出に付き合って貰って、いつも本当に嬉しいです。休日に引きこもってゲームってより出掛けないと気が気でないし、というかサバゲーとか戦車見に行くぐらいしか外に出ないですけど」
戦車、と聞いて春原さんの瞳孔が開く。ああやってしまった、自分の趣味ばかり押し付けてかっこ悪いなあ俺。
「あ、隠してた訳じゃ」
「初めて趣味知りました、仁部さん全然自分のこと喋らないので……アクティブで良い趣味じゃないですか」
春原さんは笑った。
「私も生き生きとした趣味作ろうかな。帰り仁部さんのおすすめのゲーム、買いに行ってもいいですか?」
そして持っていたニンテンドースイッチの紙袋を少しだけ持ち上げて目を細めた。花火の光で影が七色に彩られている。


次の休日、俺もベランダで生ハム食べてみようか。



  

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