赤いシャツ


単車にのってきて土砂降りに。頭だけ無事(笑)上着を達央に貸してもらうー(笑)達央side、あれ、なんかエロいな…ニヤリ(笑)



それは突然の出来事。突如として予想外。突発的に。神様のイタズラとでも言えばいいのでしょうか。

「おは…ちょっと、なにそれ」

ブースに足を踏み入れる。先客に挨拶をするより先にお声が掛けられた。おはよー、と返事をすると挨拶どころじゃないと言わんばかりにヒールをかつかつ鳴らした彼女が近づいてくる。あぁ、今日もお美しくいらっしゃるなぁ、とその綺麗な顔を見つめ返せば両肩を掴まれて体をぐらりと揺らされた。力強いっすね、なんて笑えば長いまつ毛がふるりと揺れた。そんな顔してたら可愛いお顔が台無しですぜ、なんて言える空気じゃないから黙っていよう。

「何その格好」

ぱっちりとした可愛い双眼がすっと細くなる。美人の真顔は怖いってこういう事かな、と内心呟いた。空調の効いた室内の冷たい空気が肌を撫でる。

「いやね?愛車でここまで来たら途中でひと雨降られちゃって?」

それはもうベッタベタだったよーと笑えば盛大なため息を頂いた。

「…天気予報見ようよ」

「うん、正論」

でも頭は無事だし、と言えばため息二つ目。麻里奈嬢や、幸せ逃げまっせ。

でもね、仕方ないと思うの。言い訳をさせて、と言えばもう一つため息。はーい、ため息を三つ頂戴しましたー。

「それで?タオルは?」

「そんな女子力の高いもの持ち歩いてるわけないだろー…いや、そんなに睨まないでよ麻里奈ちゃん…」

点検に出してた愛車。点検が終わったので取りに来てください、と連絡を受けて今日仕事が11時からだったから午前中、取りに行くついでに仕事に向かおうと予定を決めたのが昨日の夜。敗因はその時点で天気予報を考慮しなかったこと。
いや、家を出た時は晴れてたんだよ。それはもう晴天なレベルで。愛車を受け取り、一つ目の仕事先に向かって仕事を終えさぁ二つ目だ!と外に出た瞬間、思考が停止したよね。外、土砂降りだし。
遅刻するわけに行かないと愛車に跨り違反にならない範囲で飛ばしましたとも。けど、やっぱり濡れたね。むりだった。

「でも、ベッタベタのまま来るのは気が引けたから来てた上着1枚脱いできたんだよ。だから、これでもまだましな方なの」

「…風邪ひきたいの?」

「ごめんなさい」


ガチトーンの麻里奈ちゃんの声に頭が上がらない。完全に自分が悪いよね、うん。はい、ごめんなさい。

「私が厚着してたら何かしら貸せたんだけど…今日アウター着てきてないし…」

きょろり、と視線をさまよわせた麻里奈ちゃんの言わんとしていることが分かり思い切り首を振る。

「いや!いいって、気にしないで。今日野仕事これで終わりだからさー」

もし人から借りようものならその借り物をベタベタにしてしまうだろう。それくらいに今の自分が濡れていることも分かってるし、そんな迷惑を掛けてまでどうにかしようと思ってないし。
それに今日の私のスケジュールはこの仕事で終わり。これが終わり次第家に直帰してお風呂入って着替えれば問題ないでしょ。

「…いや、でもさ…」

私の言葉に眉を寄せた麻里奈嬢の背後ににゅっと、影がひとつ。そしてその後を追う声が私と麻里奈嬢の間に差し込まれた。

「なーにやってんのお前」

「…鈴木君こそ、なに」

自然と低くなる声をものともせず、現れた鈴木達央は隣の麻里奈ちゃんから話を聞いてる、ってちょっとちょっと。麻里奈嬢ちゃんやい、私のこと話すのはいいけど天気見てないバカとかずぶ濡れのネズミとか容赦なさすぎじゃない?そんなに怒ってらっしゃったんですか。

「はは、それでお前そんなずぶ濡れな訳か」

「じゃなかったらこんな格好でいないでしょ」

夏はまだ先なのに、と言えばからからと笑いやがる鈴木の野郎。夏が待ちきれなくて水浴びたのかと思ったわ、って私のことなんだと思ってるわけ。確かに海は好きだけど。だからって五月末のこんな時期にずぶ濡れで仕事にこないわ。

私の返答に声を上げて笑う鈴木君から目を背け、腕の時計を確認する。うん、時間までまだ少しあるよね。
ちょっとホットコーヒーでも買って少しでも温まろう。濡れた身からしたらここは少しだけ寒い。

「麻里奈ちゃん、ちょっと外にいるからもし早く始まるんだったら申し訳ないけど一声、っわ、」

何か頭上に影が出来たと思ったら急に目の前が暗くなった。ばさ、と頭に軽い衝撃。

「それ、返すの今度でいいから。濡れた服さっさと脱いでそれ着てこいよ」

頭の上のそれをどけるのと、目の前にいた鈴木君が私の頭に手を伸ばすのは同時だった。さっきまで来ていたチェックのシャツはなく、中に着ていた黒のTシャツ姿の彼は唯一濡れてないそこを無遠慮に撫で回すと、それだけ言い残してブースから出ていった。

言い逃げされた上に服だけ置いていくとかなんてヤツだ。手元に残った赤いシャツに握って息を吐く。扉の先に伸びる廊下に目を向ければ、黒い背中は角を曲がって消えた。

「ほら、風邪ひく前に着替えておいでよ」

「…うん、ありがたく着替えてくる」

「いってらっしゃい」

優しく響く彼女の声に背中を押されて歩き出す。
手にしたシャツの温もりに、顔が歪んだ。




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