標準装備な彼女と俺


「…なにしてんの」

足を踏み入れて早々、口から出た言葉はまず一つ。

「あ、福山さん。お疲れ様です」

「うん、お疲れ…じゃなくて。その後の、なに?」

「あー、はは?」

へらりと笑った彼女に首を傾げる。それから次の言葉を待てばなんとまぁ、彼女らしいというか。なんというか。

とりあえずため息を一つ返して、それを見た。

子泣き爺よろしくな状態で小柄な女性声優、花澤香菜の背中にべたりと抱き着いた…いや、覆い被さっているそれ。
人の形をした、それ。困ったように笑う彼女の振動を受けて、そのだらりと垂れ下がる髪が揺れた。

完全に意識を飛ばしているのだろうその体が落ちないようにしている彼女が控えめな声でぽつり、ぽつりと話し出した。

「私が来た時は、前野さんにくっ付いてたんです。なんか、寒い、って言ってて。そのあと今井さんにくっつきにいったんですけど重い、と反撃を受けてここに…」

起こさないようにだろう、極力ボリュームを落とした声を拾い上げて…あぁ、なるほど。

彼女の上で弛緩しきった体を見つめる。


「重いでしょ。それ、もらうよ」


子泣き爺にしては大きいそれを顎で指し、彼女の背中から引き離す。
ぐらりとこちら側に倒れ込んできた身体を受け止めて、抱える。ずしりと伝わる重さ。あー、寝てるやつは重いってホントだよな。

「なんかすみません…」

「んー?いいって。あれじゃ香菜ちゃんが迷惑でしょ」

それに邪魔だったろ?と言えば苦笑が返ってくる。

「これの面倒は任せていいよ。こいつの介護は慣れてるから」

そう伝えれば心優しい彼女は頭を下げたあと背中を向けた。

遠ざかるその背中を見つめて、息を吐く。


心地よさそうに瞼を閉じたその寝顔にデコピンを一発。んん、と唸り声が上がり眉間にシワがよった。…が、起きる気配はない。

ここんとこ仕事詰まってるって言ってたしな。
疲れも溜まってるんだろうけど。

静かに寝息を立てる彼女を見下ろす。


コイツとは何かと作品が重なることが多い分、一緒に過ごした時間も長い。あぁ、歳が近いこともあるのだろう。共に過ごした時間の多さに比例して、コイツが俺の前で見せる姿の数も、多くなっていって。

「なにが寒い、だよ。寒がりでもねぇクセに」

基本、パーソナルスペースが広いコイツがやたらと他人にくっつきたがるときは、ただ一つ。

「ばーか」

前髪を払い、そのつるりとした額をそっと撫でる。

弱い所は鎧兜で覆い隠したがる。かっこつけて強がるのが標準装備なこのポンコツの悪い癖。












「…ん、あれ?…じゅん?」

「ん、おはよ。お前爆睡だったな」

「んー、ちょーっと色々ね、忙しくて」

「ふーん。今日これで仕事終わり?」

「ん?そーだけど」

「飲みでも行くか」

「…ありがと、潤」

小さく呟かれたその言葉に、隣にある小さな頭を撫でた。

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