ティラミスと缶コーヒー
たとえば、コンビニで売ってる300円以上する新作のチョコレート菓子。とろとろ卵の極上プリン。ホイップクリームがふんだんに乗ったパフェ。そのどれもが甘くて、口に含めばとろりと絡まり喉へと落ちる。至高のひととき。
「ほんと甘い物は特にうまそうに食うよな、お前」
隣の椅子に座った森田さんの声に頬を膨らませたままの顔を向けて反応する。視線が合った瞬間笑い始めた森田さんに首をかしげながら口の中のを飲み込んだ。そうして手の中にあるカップにまたもスプーンを突き立てる。
「このティラミスほんと美味しいですもん」
掬い上げたティラミスをまた口に含む。ココアパウダーのほろ苦さとマスカルポーネチーズの程よい甘さが絶妙なバランス。目を細めて味わうと頭の上に掌が落ちてきた。
「そんなに美味そうに食うからついついあげたくなるんだよな」
収録の合間。休憩の時間に空腹を紛らわそうと鞄の中を漁っていたら不意にこの森田さんがコンビニの袋を差し出して。くれる、っていうから中をのぞいたら。なんとまあ。最近美味しくなったと有名なコンビニスイーツが中にあるではありませんか。しかもティラミス。いや、甘いものなら何でも好きだけど。その中でも群を抜いてチョコレート系が好きだからこのチョイスはとてもとても嬉しい。お腹空いてたこともあってついこの場でいただいてしまったけど、そんな私にこれをくれた本人である森田さん本人は笑顔を浮かべて隣に座った。
「ふは、ごちそうさまでした」
完食。カップとスプーンをもともと入っていた袋の中に戻して手を合わせる。お腹も心も満たされました、と伝えると柔らかな笑みのままそうか、と返された。
「そういえば最近いろんな人が色んなものくれるんですよ」
袋の口を縛りながらふと思い出したまま口に乗せる。
「つい昨日、現場が一緒だった鈴村さんにチョコもらって。梶くんはなんか顔合わせる度に飴とかチョコとかくれて」
お陰でカバンの中のお菓子もわたしの心も潤いますけど、と茶化して言えば少しだけ目を細めた森田さんがはぁ、とひとつ息を吐く。
「お前誰彼構わず餌付けされてんじゃねぇよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てられた言葉。ついでにデコピンをひとつ食らう。不意打ちだったせいでちょっとびっくりした。…地味に痛い…。額を左の手で押さえれば大げさだな、と笑われる。
「お前の場合、餌付けしに来た相手全員に尻尾ふるよな」
「何ですか、その節操無しみたいな言い方」
「いや、みたいじゃなくてそのまんまだろ」
軽快な笑い声が響く。酷い言い方だと声を荒らげて頬を膨らませて見せれば可愛くないと一蹴にされた。解せぬ。
「じゃあお腹を空かせた子猫を今だけ拾ってください」
さっき入れ逃したぶんの甘さも含めてドロドロのそれを言葉にまぶして声に乗せてついでに小さく首を傾ける。あと一押し、と口を開ける。息を吸った。
「藍、」
声を出すより先に、私の名前を誰かが呼ぶ。いや、誰か、なんてぼかす必要もないか。
「じゅーん?なにー?」
今いいところだったんだけど、と続けながら彼のいる方を振り向く。と、上から何かが放物線を描いて飛んでくる。
「わ、ととっ」
指先にぶつかったそれを何とか捕まえる。
黒いパッケージの、缶。見慣れたロゴを確認して顔をあげれば、投げて寄越した犯人は今まさにブースから出て行こうとしていた。
「んもう、ずるいんだよ」
手の中で缶をくるりと回した。ひんやり、冷たさが手のひらに馴染む。
「森田さん、ご馳走様でした!」
椅子から立ち上がり振り返ってお礼を言う。
「おかげで収録頑張れそうです」
軽く頭を下げて、カバンを抱える。さぁ、もう1人のズルイ男にもお礼を伝えに行こうかな。
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