昔々、ある国の王族に、一人の可愛らしい王子が生まれた。
それはそれは、美しい王子だという噂が広がって。

王子の誕生を祝うため、隣国も含めた貴族農家種族問わず、大勢の人間や生き物が、そのお祝いの為に城に集まった。

その中の一人の魔法使いは、王子を見るなり一目で気に入り、王に自分の嫁にしたいと申し出た。

王は大変怒り、一人の魔法使いを王子に近づけさせない為に、その魔法使いを追い出した。

魔法使いは更にこれに怒り、王国全土に戦争を挑み、王子は魔法使いから身を守るため、地下牢に18年間閉じ込められた。

その長い長い戦いで王と魔法使いのは二人の体と配下を互いに消滅させ、
その力は城ごと時間を止めてしまった。

その力は100年は続くだろうと、国の者は恐れ、逃げ出した。

それを聞きつけた敵国が、この国に襲撃を始め、国は完全に滅んでしまった。

ただ、時が止まった城は、エメラルドに光る緑の茨が包み込み、兵士の侵略を許さなかった。

何年も時が止まり続けている城の中に、ただ一人残っていると言われている美麗の王子を救うために城に入る勇者や賢者でさえ。

茨に触れたものは皆、生きて戻って来るものはいなかった。

この城で、王子が18の年齢のまま、王子は一人眠り続けている。

ただ一人、茨の精を除いては。


花京院「ほんと、他人噂だけで入ってこようとする奴の気がしれないな。
美的感覚なんて人それぞれだし、王子と言っている以上いくら傾国の美貌とは言え同じ男が来るなんて。
自身の力試しや力の誇示に使いたいだけなのかもしれないけど、少なくとも珍しいもの見たさなんて輩もいないわけではない。
そんな己の欲に忠実な可哀想な人が、眠っている貴方をもし目の前にしたらどうなる?
きっと、想像できない美しさに、どんな人間だって我慢できずに、あの魔法使いのように我がものにしようとするだろうし、王のようにこの城に閉じ込めて自分以外をその瞳に映らないようにしようとするだろう」


青年が、時が止まったまま朽ち果てず、ずっと綺麗なままの王子の髪をそっと撫でる。
目を覚ますことなく目無理続けている彼を、いつか来た男が眠り姫と言っていたのを思い出す。


花京院「たしかに、君は王子と言うより姫の方が似合うかもしれないね」


今日もまた誰かが城に侵入した。
茨に触れ、その身を引きちぎられ、谷底に落ちて郁ことを青年は地下牢の中で感じ取る。
それでも青年は口元に笑みを浮かべ、王子の髪を撫でる手を止める事はなかった。

青年は、王子と一緒にこの城に閉じ込められた。

自分は王と魔法使いのどちらの魔法から生まれたのかわからない、ただただ王子を守るために生まれた存在。

100年間、時が止まったままの城に、何者も入れないように、己の魂はこの城の呪いと共にあった。

姫を助ける王子が現れるように、魔王を倒す勇者が現れるように、必ず来るその時までの存在。


花京院「(望む事は許されない・・・か)」


青年は知っていた。

自身はきっと、物語では語られる事のない存在だということを。

挿絵を彩る、緑の射し色でしかないと言うことを。

それでも青年は満足していた。


花京院「この城から出ようとか、他の人と話がしたいとか。
そんなことより、今こうして君の髪を撫でられるだけで幸せだから」


ただの踏み台の自身が、この物語の主役の傍にいられたことに。

このあるじが寝ている間だけ、自分が存在していることに。

知っていて満足していた。


一つの望みを除いては。

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