童話 眠れる森の姫
聞こえない耳におはようと挨拶をして、開かない瞳に陽の光を浴びせる。
汚れない体を綺麗に拭きとり、反応を示さない手を握る。
絡まない髪を綺麗に梳かし、開かない口と会話をする。
そんなある日、王子が目を開けた。
花京院「っ!?・・・っ・・・・・・」
王子の目が僕を見た。王子の目と僕の目があった。
それこそ時が止まったかのように、僕の心臓だけが激しく動いていた。
花京院「(まさか、もう迎えが?いや、茨に侵入者の気配はない。
それに呪いが解かれた時に僕は用済みだ、存在意義のないものはこの世に形が残らない。
ならばなぜ?いや、目覚めたのではなくただ目が開いただけなのかもしれないっ)」
『・・・・・・おは・・・よ?』
花京院「Σっ・・・!!!」
開いた口に驚いて、聞こえた声に歓喜して、起き上がった体に恐怖して、僕は逃げるように地下の部屋から走り出した。
いや、逃げ出した。怖かった。嬉しくて、幸せで、怖かった。
花京院「(ずっと夢見てた、君の声が聞けるなんて。君の瞳に僕が映るなんて。
君の手が僕の手を握って、君が僕にっ・・・///)」
有り得ないから、だから僕は、何なんだいったい、よく解らない、望んでいたのになって欲しくなかった。
だって君は眠っていれば僕の腕の中で触れさせてくれたし、僕の話を聞いてくれてっ。
お、起きてしまったらきっと君は外の世界に興味を持って、僕の元を離れて。
そのまえに僕を拒絶して、罵るかもしれないし憤怒するかもしれないし悲しむかもしれない。
『あ!いたっ!!』
花京院「っ!!!」
なんにせよ僕らは関わっちゃいけない。
物語の主役が、語られるべきではない存在と触れ合ってはいけない。
君にはきっともっとふさわしい人物がいる。
君を閉じ込めた王様でも、この国を襲った魔法使いでも、助けに入った勇者でもない、君にふさわしい王子様。
僕はただその時まで繋ぎとめるただのひとコマで脇役で。
花京院「(なのになんで君は追ってくるんだっ!)」
『ま、待って、待ってってば!ねえ!!』
城の中は僕の方が知っているけど、追ってきて怪我でもしたら大変だから、ふかふかのじゅうたんが敷いてあるところしか走れない。
だからか、君はいつまでも僕を追って・・・
『ふぇっ・・・待ってって、言ってるのにっ・・・』
花京院「なっ(泣いてるっ!?)」
ゆっくりとスピードが落ちる足音と、震える声に後ろを振り向くと、開いたばかりの君の瞳からは大きな粒が流れ出ていた。
僕は急いで駆け寄ってその涙をゴシゴシとぬぐい取る君の腕をつかむ。
花京院「そんなにこすったら赤くなるッ。あぁ、もうこんなに、はやく冷やさないと」
『ふぅっうえっ・・・君がっ・・・逃げるからっだろっ』
花京院「それはっ・・・そのっ」
『目が覚めた時、手を握っててくれたからっ、嬉しかったのにっ。
何処かにいちゃったと思ったら、僕からっぐすっ』
花京院「ご・・・ごめん、起きるとは、思わなくて」
『・・・起きない方がよかった?』
花京院「そんなことはない!!」
『そっか・・・なら、よかった』
初めて王子の笑顔を見た。
想像していたものよりも、ずっと綺麗だった。