予想通り酒を買う金が無くなったようで、母はいないのか、金をよこせと言ってくるこの男に、
母さんはお前の為にこの時間も働いているんだと言えば、殴られ吹き飛ばされる。
俺の足の怪我すらも気付いていない、いや、目には入っているが何も感じてはいないのだろう。
血縁者すらこの町ではこれが普通なのではないだろうか。
まったく無縁の、損得勘定はおろか、種族すら違うあの猫は俺の為に・・・。

部屋を物色し、金を見つければ満足して出ていく男。
俺はその背中を睨みながら体を起こし、あいつのいる部屋に戻る。


『ミュー』


すると、扉の中から俺を呼ぶようなあいつの鳴き声が聞こえた。
よかった、あの父親にはばれていない。
俺の部屋から物音が聞こえていたら、大人しく出て行かなかっただろう。
いや、聞こえていたとしてもまさか自分の家に猫が入っているとは思うまい。
なにをそこまで臆病になっているのだ。


『ミュウウウウウウウウ!!』

少年「っ!何をしている」

『ニュ!?』


小さなもの音と悲鳴のような鳴き声に意識が戻り、急いで部屋の中に入る。
ベットから落ちたのか、蹲っている猫を急いで抱きかかえる。
足で着地したのかさっきよりも布に血がじんわりと滲んでいる。


少年「大人しくしていろと言っただろう!まさか理解していないのか!?」

『ミュウゥ』


純粋に猫に人間の言葉が通じるのは少しだけで、全てを理解できていないのではないのかと思った。
が、反省しているのか、下がる耳と潤む瞳に怒りが収まる。
この猫は俺が心配でついてこようとしたのではないだろうか、と。
会って間もない猫が、同じく会って間のない人間の為に動くわけがないと思いつつも、その考えが頭をよぎる。

そしてじっと俺の顔、殴られた部分をじっと見つめている猫を抱えたままベッドに座る。
そうだな、理解力もあるようだし、まずはこの猫の置かれている状況を説明しておいてやろう。


少年「これか・・・。そうだな、早めに説明しておくか。この家には俺以外にも人間がいる。
忌々しいが父親が帰ってきたようだ。金を持ってすぐにまた出て行ったがな。」

『?』

少年「あとは母さんがいる。遅くまで仕事をしているから、あまり会えないけど。
今度母さんには紹介してやる。だが、父には見つかるなよ。何をされるかわかったものじゃあない」


なにやらこの猫は考えているようだが、どうやら理解はしたようだ。
丸い瞳が不安げに揺れる。悪いが、手当てはするが身の保証まではしてやれんからな。
が、その瞳が不安で揺れたのは自分の為でなく俺の為だと頬の感触でわかった。

こいつはまた自分の足の怪我を差し置いて、俺の為に動く。
足をつくだけでも激痛だろうに、あろうことか俺のほほを舐めるために前足をかけて伸びてきたのだ。
そして恥ずかしくなったのか目線をそらして大人しく膝の上で丸くなる。

不思議と痛みが引いたような気がして、暖取りがわりにと猫を抱えたまま横になる。


少年「くすぐったいな、誰かに身を案じられるのも。母さん以外で初めてだ」

『ミュウ』

少年「そろそろ寝よう。お前の足も、治るまで俺が面倒を見てやる」

『ミュウゥ』


おやすみと言われた気がして、今日はゆっくり眠れそうな気がした。
そうだ、こいつに名前を聞こう。無いのならば付けてやらなければ。




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