いい図書館を見つけた。
建物自体は古く、都内の図書館よりはるかに小さい。
中には管理者と思われる老人一人しかおらず、読書用の机はひとつ4、5人しか座れないだろう。
整理が行き届いていないのかバラバラに置かれた本。

だが…

その本たちはいったいどこから手に入れたのか。
とても拝めない珍しい本ばかりだった。(中には何処にでもありそうな絵本や図鑑もあるが…)
話して見れば老人も気さくな方で、彼に頼めば何が何処にあるのかがわかる。
…本人は少々ボケてはいるが。

それに、ここには誰もこない。

俺以外はだれも…





誰もこないと思っていた。



それは数日ぶりに本を探しにここへ寄ったとき。
どうやら何年もほったらかしにされていたため一番奥のたなにあると言われ自分で探すことになった。

珍しく人がこっちに向かって来ていると感じた。
蜘蛛を狙ったハンターだろうか…

バンッ
『じっちゃん!洒落た煎餅持ってきたよ!!』

いきなり乱暴に扉を開けた人物はわけのわからない言葉を発した。
「おぉっ、また作って来てくれたのか」

どうやら二人は知り合いらしく仲良さげに話し出した。
奥にいるため死角になり姿は見えないものの中性的なその声は幼さを残していた。

「(子供か…)」

ガサガサと袋を開ける音が聞こえてくると甘い匂いがこちらにまで漂ってきた。

「(なるほど、クッキーが洒落た煎餅か)」

確かにあのじいさんならそう言ってもおかしくない。
あの子供は何度かここに来ているのだろう。

『今日はだれか来た?』

「いんや、誰も来とらんよ」

「(おい、さっき本の場所を聞いたばかりだろ)」

ここでは館内飲食会話禁止などということは無いらしい。
というか借りる時も期限も無ければカードもない。本当図書館と言えるのか謎だが、金を取らないなら本屋とも言えない。

「(じいさん本の
ことは覚えてるしな)」

クッキーをかじる音と話し声が聞こえる。

俺は本を見つけそのまま二人の話を聞いていた。

「そう言えば何しにきたんじゃ?また調べものかい?」

『ん?(ゴックン)前のは終わったから。今度はまた別のしらべものぉ〜ι』

学校の宿題だろうか。あまり乗り気ではない声だ…

『虫どこ?』

「前のと同じ棚だよ」

虫…。どうやら二人には話が成立しているらしい。

場所がわかり歩く音と本を開く音。あそこはたしか…比較的そろっている図鑑置き場…。

『うげっ|||』

乗り気でないのは虫が嫌いだから…。それでもパラパラとめくる音。


・・・今は春だ。しかも五月下旬。春休みの宿題にしても遅すぎるし、夏休みにしては早すぎる。またということは何度かここの図鑑で調べたのだろう。
授業にしてはいくらなんでもおかしい。そんなに幼くはないはずだ。(おそらく13か15だろう)
研究するにしてもまだ幼いし、なにより好きでもないのに自ら調べないだろ。
ならなぜ?

「あの人はなかなか難しいからの。今度はなんじゃっ?」

『…じっちゃん人事だからってワクワクすんなよ』

「人事じゃろ」

『( ̄〜 ̄)ξ』

頼まれた?普通ならあ
り得るが…あの人と言うことはおそらくこの子供より年上…。研究者なら今更図鑑など見ないだろう。
なによりこんな人気のない図書館に子供一人で…。
珍しい図鑑でもあるのか

『ん〜。またくるよ。』

そう言って子供は出ていった。目当ての物がみつからなかったのだろう。

「じいさん、これ借りてくよ」

俺は手にとったまま開かなかった本を片手に奥から出てきた。

「あいよ」

てっきり俺の存在を忘れていたと思ったのだが。言葉に動揺はみられなかった。

「(ボケジジイ…)」


その時は声だけの人物に何故これまで惹かれていたのか気付かなかった…




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