分厚い雲が太陽を覆い隠し、どこか不穏な空気が宮廷に漂っていた。なにか不吉な予感がするが私はあまりこの特殊な眼、千里眼(ダビデに指摘され気付いた)を使わないためこの嫌な雰囲気の原因が分からなかった。なんとなく分かりたくないとも言う。
常に私の部屋には誰かが訪れに来てくれるのだが…寂しいことに今は誰もおらず、ただ空が暗いな〜なんて呆けながら空を伺っていたら荒々しい足音と共に現れたのは色白美人で、この子はダビデの家臣、ウリヤの妻であるバト・シェバであった。
ダビデがロックオンしたようで言い寄られていた気がする。あ〜バトもか!何かあったらおいで匿って上げるから…って常日頃から気にかけていた。だって絶対ダビデやらかしそうだなぁっと、
「あぁ…!なまえ様…!お助け下さい、」
「うーん何かあったの?バト」
私は白々しく首を傾げ目を瞬かせた。自分では分かってるんだけど、分かってるんだけどね??脳内が拒否したがってるんだよ
「私、私は夫が居りながらも…ダビデ様と…!」
ダビデという単語でやっぱり全てを察してしまった私は顔を覆った。やっぱりやらかしやがったかぁ〜〜!っと。ダビデは人妻好きなの??ばかなの???という言葉は飲み込み目頭を軽く揉んで頭の片隅ではこれからの事を考える。とりあえずダビデ、テメーは説教だ、と意気込んだ。
ボロボロと大きな瞳から涙を流すバトの涙を指で掬って上げては頭を撫でてあげたり抱きついて背中撫でてあげたりとなんとか泣き止ませ、なんとか落ち着いたバトに話を聞くと普通に悪いのはダビデでした。ハイ解散解散〜!っと脳内での私が解散していくのを感じながら嘆息する。
まぁ要するになんだ、ダビデが人妻であるバトとワンナイトラブを決め込んだらしいのだ。それでもし子供が出来たら〜なんて危惧もしているバトには申し訳無い為言わなかったがバトの腹の底にある何かは既に気配を潜め始めていた。何となく勘づいてしまったというのもあるが何れ確実に妊娠する、それはもう抗いようの無い事実だった。
◇ ◇ ◇
所変わって私は優雅に椅子に座りダビデには床に座らせた。立場が違うだろふざけんな、だって?うるさいプライベートの上下関係はこっちが上だよばーーか!!何年友兼姉(もどき)やってると思ってるんだ
「で、何か言い訳することは」
「事実だからねぇ…、うん。否定はしない」
「まぁねぇ。それで否定してたら両手両足折ってたよ」
ほけほけと笑うと苦笑いを浮かべていたダビデの顔が引き攣る。こちとら治癒の魔術使えるから何度でも戻してやるよ。ははっ、1回きりとは言ってないけどな!と心の中でにっかりと笑っていた。
「差し出がましいことは理解しているけどなまえは民から好かれているからねぇ。このことをボクは民に知られたくはない、何かボクに助言を頼めないかな」
「はい?」
「宮廷魔術師としての助言をして欲しい」
「今回は無理というか嫌だ。ダビデはよくも、そんなのうのうと…勿論拒否ります〜。さすがの私も呆れたって言うのもあるんだけれどね?本音を言うと何か本能的な理由でそれをやってはいけない気がするのさ」
「まぁ期待はしてなかったけどねぇ。あっ待って違うんだそういうことじゃない、拳を下ろしてくれないかな…?それにしても本能的な、かい?なまえにしては随分と珍しい理由だね」
それにしてもという言葉でそんな言葉で片付ける気か貴様ァ!とは思ったがバトにそこまでする気はないので首を縦に振って肯定した。何か漠然と…、こう例えば大きな河一つだけあるとして突然その河を人の手によって町にその水を引こうと大きな河を掘り広げ繁栄したとする。
だけど突然大きな雨風が来た時に河の流れを変えた影響で以前は耐えきれたけれど氾濫し水没するように町全てが呑み込まれるような、そういう漠然としたイメージが頭に湧いた。
そう、私が動くことで何かが変わるような気がしたのだ。絶対的に変えたら弊害を起こすと言ってもいいだろう
だからこそ脳裏で私がそれを絶対に助けてはならないと諌めるのだ。
正直バトがどうなろうと私はいいのだ。世話をしていたから多少の手助けはするけども可哀想だなぁっと同情はするだけ。だがダビデのこととなると別である。友に…ダビデに被害が及ぶのが嫌だ。だからこそ私はダビデに怒る。心配してるからこそこうやって真正面から話しているのだ。何かがあってからでは遅いだろうし、この時代の神は何をするか分からないからね。
「なまえ?どうかした」
「んー、何も無いよ。ダビデ」
「うーん…詳しくは聞かないけれど、何かあったらちゃんと言うこと。いいね?」
まぁさすがのダビデも人妻であるバトを孕ませたことになにか思うことがあるのだろう、いつもより大人しかった。それに私の真意は元々見抜いてるらしく反省もしてい…たらいいなぁ…。
さてこの友に被害が及ばないようにするにはどうしたものかと悩むが行動に移すとなると拒絶反応を起こすかのようにずきりと頭が痛む。
ダビデに何かあったら…っと考えるがそれこそ千里眼を使えば解決することだ。これからの事を見て阻止すればいいだけだし。
そもそも何故私はここまでこの眼を使うことに嫌悪感を抱いているのか、過去や未来で何か忌み嫌うことがあるから?それとも全て分かってしまうと面白くないから?
多分前者にしろ後者にしろ、どちらも当てはまるのだろうなぁ…と額を抑える
◇ ◇ ◇
バトの夫、ウリヤが戦場で死んだと聞いたのはここ最近の出来事。どうやらダビデがバトを孕ませたことをウリヤに隠しそのままバトを娶ろうとウリヤを戦死させたようだった。
晴れてバトは未亡人となったわけだが、ダビデと顔を合わせるも何事も無かった様な澄まし顔。バトは罪悪感と良心を痛めたらしく私の膝の上でさめざめと泣いていた。なんなんだろうね?この泥沼。
乙女達の相談役が多いとは言え、お世話してきた乙女がいつも泣き付いてばかりだと顔も歪んでしまう。哀れみの情を持っているけれども私に出来ることはないんだよねぇと眉尻を下げた。
「バト、明日は婚儀があるんだからそんなに泣いてはだめ。綺麗な顔が台無しだよ」
「なまえ様、いつも申し訳ございません…。ありがとうございました…」
「良いんだよ。私に出来ることはこのぐらいだから」
「まさか…!なまえ様に助けられた者は沢山いらっしゃいますとも」
「そう?それなら嬉しいよ」
足元に縋り付くように座ったバトの頭を撫でると泣き腫らした目を細め擦り寄ってくる。うーん、美人にここまで懐かれると目に毒って言うか?嬉しいことには変わりないけど?理由も理由だしかなり複雑である