先生が授業途中で出張に出たもんだから、HRもないし早く解放されてしまった。
生憎クラスメートに部活同じ人いないし暇なのでパパッと着替えてコートにネットを張る。
「…ちわーす」
せかせか動いていると、入口の方から覇気のない声がしたので振り向いた。
「…あれ、珍しい」
選手1番乗りは、なんと1年の国見だった。
「……入ってきた途端酷くないですか?」
「いつも国見遅刻気味じゃないの」
「そうでしたっけ?あ、それ危なっかしいので貸してください」
「あー、ごめんありがとう」
倉庫から引っ張り出してきたポールは危なっかしいからと取り上げられてしまった。
「及川さん目当てじゃない貴重なマネージャーに怪我されたら困るんで」
「…心配してくれてるのかよくわからないね」
心配してるのかは謎だけど、及川目当てじゃないマネージャーは確かに貴重かもしれない。
私からしたら、及川の何がいいのかさっぱりわからないのだけど。
「…終わりましたよ」
「あれっ、もう?!」
「みょうじさんと違って運動してる男ですから、それなりに力はありますよ」
パッと見ひょろひょろっとしてて、あんまり筋肉とか無さそうなイメージだったんだけどな。
それに、今日は国見がよく喋る。すごく変な感じ。
「…今、すげー失礼な事考えてますよね?」
「…いや、失礼では無いよ。うん」
「そうですか、ならいいんですけど」
気まずくなってジャージのポッケに手を入れると、小さな箱に当たった。
「…国見」
「何ですか?」
「これあげる、塩入ってるけど」
何時だったか、及川と岩泉が言ってた。国見はキャラメル好きだってこと。
今朝、コンビニで買ったまま食べてなかったそれは、塩が入ってるけどキャラメルには変わりないだろう。多分。
「…いいんですか?」
「今日のお礼とかそこら辺ってことで」
「ありがとうございます」
国見は早速パッケージを開けて、1粒キャラメルを取り出して食べ始める。
いつも死んでる表情筋が活動している国見は、身長は180を軽く超える大男だけど、とても可愛らしい。
こうしてみれば、可愛い顔してて年相応って感じ。
「…そんなにじっと見るとか、先輩も食べたいんですか?」
「国見が美味しそうに食べてて可愛いなって思っただけだから」
「……なまえさん」
「うん。うん?」
突然の名前呼びに驚いていると、口に柔らかいものが当たった。
それが国見の唇だったことがわかるまでに数秒を要した。
「……く、にみ」
「好きですよ、なまえさん」
その瞬間、体育館のドアが開いて及川たちがやってきた。
「部活後、返事を聞かせてくださいね」
私の周りには、国見が残して言ったキャラメルの甘い香りが立ち込めていた。
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