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パチっとテレビをつければ、流れ出す朝の番組。番組は進み、今日のゲストである彼の撮ったVTRが始まりだす。
『えぇっと、皆さんおはようございます、葦名雄大です。本日は、俺の家の紹介と言う事で、まぁ案内したいと思います』
そう言って、カメラはリビングの方へと進んでいく。
『マンションなので、そんなに広くはないですが、リビングです』
ところどころ、撮影者のうぁ、とかぎゃっ、とか言う音声が入るのはご愛敬。
『いつも、ここでご飯食べたり雑誌見たりしてますね』
リビングのソファーを抜けて、大きい窓からベランダに出る彼。
『このマンションを買うと決めた時、このベランダの広さが決め手になったんですよ』
と、そこにはガーデニングがきれいにしてあり、色とりどりの花や家庭菜園などが広がっていた。
『俺の妻が、花とか好きなので。妻の好きなことが目いっぱいできる場所がほしいと思って』
と、その言葉でいったんVTRが切れる。
『すごいベランダっていうより、もう庭だよねあれ』
『妻は、妻の実家に居た頃から花とかああ言った家庭菜園をしていて、それをしている時すごく生き生きとしているんですよ。だから、絶対庭の広い家か、ベランダの広いマンションを買うって決めてました』
『流石、愛妻家だよね。付き合う前から、テレビで惚気てたって聞いたけど本当?』
『いや、もう誰から聞いたんですか!それって、たぶん俺が初めてテレビ出演した時のですよね?』
その当時の映像がこちら、と流れ出すVTR。
終わって、スタジオにカメラが戻れば、彼は座っているソファーの上で真っ赤になった顔をひたすら両手で隠していた。
『もぅ、恥ずかしいです』
『それでも、奥さん大好きなんでしょ?もう、鴛鴦夫婦だって評判なんだから』
『いや、はい。もう、妻は大好きですよチクショー!!』
そう叫ぶように言う彼に、スタジオ内に笑いが起きる。
『では、続きのVTRどうぞ!』
そうして、前の続きから流れ出す映像。
『えっと、ここが俺の仕事部屋です』
少し狭い部屋で、本棚が片側の壁いっぱいに広がっている。
机の上にはデスクトップのパソコンがあり、もう片側にはクローゼットがあった。
入り口近くには、等身大の姿見が布をかけられた形でおいてあった。
『朝は、顔洗って飯食ったら、ここに来て一日のコーディネートを決めてから出かけます』
おもむろに開けたクローゼットの中は、服がびっしりとかかっていた。
『モデル時代にもらったものとか、着回しを決めてとかしてるんですけど、いつの間にか増えるんですよね。売ったりもするんですが、増えていく一方で、妻によく怒られます』
と、苦笑しながらそれを閉めた。
次いで、開いたのは何とも白い明るい部屋。
『ここは、妻の部屋です。まぁ、妻はあまり使ってないので将来子供部屋になりそうなんですが』
そう言ったとたん、カメラが一瞬ブレた。
そんな様子を、彼はクスクスと笑う。
そうして、次の部屋へ。
『ここは、客間です。よく、妻の兄弟が遊びに来るのでよく、使ってますね』
和室になっているそこは、机が一つと箪笥が一つ置かれているシンプルな作りになっていた。
『ここがキッチンですね。キッチンに俺はあまり立ち入る事が無いので、よく分かんないです。妻の聖域です』
再びブレた画面に苦笑する声。
そこで、再び画面はスタジオに返った。
『キッチンに入らないって、手伝ったりしないの?』
『ガーデニングとかは手伝ったりするんですが、料理だけは俺が作るより妻が作る方が美味しいので』
『へー?そう言えば、あのクローゼット大きいね。特注?』
『あっ、はい。元から付いていたのを外して、採寸してもらって作ってもらいました。妻は、初めて見たとき唖然としてましたが、その顔も可愛かったです』
『はいはい、惚気は要らないから。そう言えば、奥さんの部屋あまりに簡素じゃない?』
『あぁ、部屋の意味無いですからね。妻の物は、キッチンとベランダ、あと寝室にしかありません』
俺みたいに、収集とかしないので。
と彼は苦笑した。
『では、その寝室を見せてもらいましょうか!』
と言う言葉で、再びVTRに切り替わる。
『では、最後にここが、俺たちの寝室です』
開けられた部屋は、クイーンサイズともとれるベッドが占領していて、クローゼットが壁に備え付けてあり、小さな本棚がおいてあった。
サイドテーブルには、お洒落な照明が、何とも雰囲気をだしていた。
が、何よりも目を引くのは・・・。
『これ、妻が今気に入ってるキャラクターで』
と、苦笑する彼。指を指したぬいぐるみは大きな黄色い塊。
布団をかぶったそれをベッドの中から出した彼。
黄色の下には、白い楕円形のものが付いている。
『やさぐれたまごのぬいぐるみです。去年のクリスマスプレゼント、何がいいって聞いたらこれって言うので、買ってしまいました』
あの時の妻の顔が忘れられない、と喜んでいいのか微妙な顔をした彼。
そんな彼にカメラが近づき、初めて奥さんの一部、手が映る。
そして、彼の肩を何度か叩く。
奥さんは照れているのだろう、彼は叩かれているのに楽しそうだ。
『以上、葦名雄大宅の紹介VTRでした!』
バイバイ、とやさぐれたまごの手を掴んで振りながら、VTRはぶちっと切れた。
『はい、ありがとうございました!いや、素敵なお宅でしたね』
『ありがとうございます』
『そして、最後まで奥さん出てこなかったと言うね。寝室の姿見にもちゃんと布してあったし』
『妻が、予防線としてあの日は家に在る鏡と言う鏡に全部布かけてありました』
風呂場とか、洗面台とかと笑う彼。
『用意周到だね』
『あまり、人前に出るのは好きじゃないんですよ妻は。昔、苛めにもあっていたみたいで、あまり人と関わることも好きではなくて、だから、引きこもってるし人と会うのも嫌がります。見られるのも論外だって怒られました』
クスクスと笑う彼。
すると、いきなり画面が真っ暗になった。
「お前ね、これ先週の生放送だろ。起こせよ、俺を」
声をたどって、後ろを振り向けば、雄大がパジャマのまま、リモコンを持ってあくびをしていた。
〔おはよう、雄大。それ、返して〕
と、テレビのリモコンに手を伸ばすが、高校を卒業してから数年、背の伸びた雄大が取り上げたリモコンに手が届かない。
「おはよう。テレビの中の俺じゃなく、本物が今日は休みで一日中いるんだから構え」
そう言って、少し拗ねたような雄大に、笑って僕、葦名幸助は背伸びをして顔を近づけた。
END
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