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そんな時、葦名君からのメールで、テレビを見るようにと言われた。
何かの話題作りなのかな?と思って、僕はテレビをつけてその番組を見た。
それは普段テレビを見ない僕には見たことの無い番組だったけれど。
オープニングが終わり、今日のゲスト、そうして現れたのが葦名君だった。

「あ、あああ、あしな、葦名君!?」

テレビを指させば、隣で見ていた母もあら、まぁ、と驚いているようだった。
そうしている間にも、番組は進んでいく。
どうやら、葦名君はモデルの仕事をしていて、今日がテレビ初主演?なんだって。
知らなかった。
葦名君は、服を売るのが仕事だからあんまり顔出しとかしてないって。そりゃ、ショーの時とかは仕方ないけどって。
すごいなぁって思った。

『で、葦名君は恋人とかいるの?』
『えっと、恋人はいないです』

司会者の質問にどきりとはねた僕は、その言葉に、ほっと胸をなで下ろした。
そんな様子を、母はニコニコとして見ていたけど。

『うそでしょ!だって、周りが放って置かないんじゃないの?』
『気になってる人は居ますけど、恋人はほんと今は居ないんで。その人には今日、テレビ出るからって伝えましたが』
『うわ、まさかの遠回しな告白?ちょっと待って、その人ってどんな人なの?気になる』

僕は、葦名君の言葉に首を傾げた。司会者の言葉にも思考が追いついていかない。
母は、あらあらと笑っているが、ちょっと待ってほしい。

『どんな・・・、一度会っただけなんですけど、アレっすね。運命ってやつ』
『あぁ、そう言えば葦名君は、バースタイプアルファだもんね。というか、そうじゃなくて!外見とか、性格とか、個性とかいろいろあるじゃない!』
『あぁ、えっと・・・話し方に特徴あるけど、優しいやつで・・・って何かこれ、すっげぇハズいんですけど』

テレビの中からは、笑い声が届くが僕は全く追いつけない。
運命?バース?アルファ?
僕は、頭がから回ってしまい、首を横に振って考え事を追い出そうとするけど、失敗する。

「あ、あ、あし、あしな、あしなくん、の、の、うん、うんめい、うんめい?」
「そうねぇ、運命かもねぇ」

母は、とても穏やかなものだ。そうして、番組が終わって僕は慌てて部屋に戻ると、携帯を取り出してポチポチとメールを打ち始めた。

≪テレビ見ました。あしな君、映っててびっくりした。あしな君、運命?って出会ったの?おめでとう≫

そう、打っていて僕は少し、悲しいような気持ちになった。
運命って言うのは、運命の番って奴で、もしかしたら僕はもう、葦名君に会えないかもしれないから。
どうして、こんなにも会いたいと思うんだろう?僕は、首をかしげつつ、メールをもう一度確認してから送信ボタンを押した。

〈分かってたけど、お前鈍いな笑〉

それだけが返信として返ってきて、僕は首を傾げた。
なぜ、鈍いと言われたのか分からない。何で僕が鈍いんだろうか?
僕が?をいっぱい飛ばしていると、1階から、チャイムのなる音が聞こえてきた。
僕が体を跳ねさせると同時に、玄関の開く音、そして母の応対する声が微かに聞こえてくる。
僕は慌てて、体をベッドの中に隠して、あまり音を立てないように頑張る。
昔から、人前に出ることが好きではない僕は、こうして隠れるのが癖になってしまっていた。
部屋の中なら大丈夫とも思えるけど、どうしてもこうしてしまう。
そんな中、ノックの音がして、それから彼の、声がした。

「幸助?俺だ、開けてくれないか?」

その声に、僕は布団をかぶったまま、恐る恐る近づいて、ドアのカギを開けてノブを倒した。
そんな僕の狭くなった視界に映るのは、色とりどりの花束。

「っっ!!?」
「遅くなって悪かったな。学校、抜け出せるの今日しかなくてよ」

かぶっていた布団を落とされ、同じ高さにある頭を撫でられる。
これは、夢?それとも現実なのかな?
僕の視線が花束から動かない事を心配してか、葦名君が声をかけて来る。

「花、気に入らなかったか?お前、俺にくれたから好きだと思ったんだが」

その言葉に、慌てて僕は首を横に振ってありがとう、と伝えた。
良かった、と安心したように笑う彼に僕も頬が緩んだ。

「あと、これ土産な」

と手渡されたのは、子供用のおもちゃみたいな箱。
箱と葦名君を交互に見てると、開けてみろよって言われた。
立ち話も何だし、僕の部屋に招いて、座ってもらってから中を見てみると、砂鉄を使ったお絵かき用の大きめのボードだった。

「それなら、書いて消せるし、話すの苦手でも書いて分かるだろ?お前、メールの方が生き生きしてるもんな」

そう、笑った彼に、僕は慌ててペンをとると、ありがとう、と書いて彼に見せた。
どういたしまして、と笑う彼に僕は何だか心がポカポカした気になった。
そんな僕を、いきなり葦名君は抱きしめてきて、僕はぴゃ、だか何だか変な悲鳴を上げてしまった。

「・・・やっぱり、いい匂いだなお前」
〔いい、匂い?〕
「あぁ、バニラみたいな甘いけどくどく無い、いい感じの匂い」

再び、ぎゅうっと抱きしめられて、僕はドキドキと心臓が高鳴る。
ふわり、と彼の匂いも漂ってきて、その香りに酔ってしまいそうになる。

「・・・卒業して、仕事も軌道に乗って来たら、迎えに来るから。それまで、待っててくれるか?」

いきなり、どうしたんだろう?首を傾げた僕に、葦名君が笑う気配がする。

「やっぱり、鈍いな」
〔鈍いって、何が?〕
「・・・卒業して、次に会いに来るときは、ここを噛む権利を俺にくれって言ってんだけど」

と、言って触られた僕のうなじ。そうして、やっと意味が呑み込めてきた。

「えっ、えっ、あっ、えっ?」
「出会ったばかりで、ろくに顔も合わせてないで何言ってんだって自覚はある。けど、お前と離れたくない。お前だけが、俺の運命だ」

その言葉で、僕はやっとテレビで言っていた葦名君の言葉を思い出し、顔を赤く染めた。

〔僕が、あしな君の運命?〕
「そう、お前だけだ」

真剣なまなざしが、僕を貫く。
僕は、それがうれしくて仕方ない。

〔僕は、何も出来ないよ?〕
「別に、お前に何か求めてるわけじゃない」

ただ、側にいてほしい。

そう言った、彼に僕は一度だけ頷いた。

〔僕で、良ければ〕

葦名君がそう、望むのなら。

僕も離れたくはないから。そう、笑った僕を葦名君は力いっぱい抱きしめてくれた。
キスはまだ先。これから、ゆっくり、そう葦名君は少し赤くなったほほのまま、笑っていた。




そうして、僕たちは卒業してからも連絡を取りあい、僕はあのコンビニで、葦名君はモデルから転換して俳優を目指し頑張った。
仕事が軌道に乗ってきたころ、僕と彼は籍を入れた。僕の苗字は、”音無”から”葦名”へと変わった。


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