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的場 悠基→まとば ゆうき
市村 陽音→いちむら はるね
王道的な話なので、先の展開が読めます。それでも、書きたかったので仕方が無い。
僕と春陽は双子だった。二卵性の、双子。
小さい時は、本当にそっくりだった。
けど、成長するにつれて、春陽の方が頭も良くなって運動も出来て、明るい春陽と根暗な僕。次第に僕は要らない子になった。
中学最後の年、僕らは二次性の検査を受けた。
結果は、僕がβ性で、春陽がΩ性だった。それを知った両親は落胆して、僕を責めた。
何で、僕がβなんだって。
お前がΩでせめて春陽がβなら良かったのに!!
と。そんな事を言われても、僕にはどうしようもない。
コレばっかりは、生まれた時から決まってるものなんだろう?
流石に、両親や落ち込んだ春陽に言ったりはしなかったけど。
それでも、春陽は健気に振舞って、高校でも元気を取り戻していた。
Ω性を隠す事無く、元気に。隠していても、何れ来る発情期の休みでバレるならと自己紹介の時に自分からバラしていた。
昔は、Ω性を差別化していたみたいだが、今は抑制剤も抑制器もある。Ω性が原因で何らかの差別を受けることも少なくなった。それでも、Ω性であれば、発情期に出歩いて犯されても、子供が出来ても文句は言えない。発情期に出歩いて、αを誘ったΩが悪いとされるからだ。結局、差別はだんだんと少なくなってきてはいるが、現実がコレだ。
そんな中、打ち明けられる春陽は本当に凄いと思った。
まぁ、全部噂を耳にしただけの話だけど。
僕には友達なんていない。
こんな根暗と友達に成ろう何て酔狂な高校生はいないだろう。
見た目だけで言えば、切るのが面倒になって、ボサボサの頭に黒縁めがね。どこのオタク?ってスタイル。
そんな僕にも、友達と呼べる存在が出来た。αだったけど、気さくでこんな僕にも話しかけてくれて、本当に、本当に楽しかった。けれど、彼もまたαだから、春陽に惹かれた。
αがΩに惹かれるのは仕方のない事だと解かってた。解かってたけど、僕は彼に、僕に声をかけてくれた彼に恋をしていたから、勝手に裏切られたような気持ちになって、悲しくなった。
結局、僕には傍に居ることさえ耐えられなくて、僕は友人の手を離した。
一人が、とても楽だった。
それから、たくさん、たくさん勉強して、家から遠い大学を受験してギリギリ合格した。
もう、これ以上、傍に居ることも耐えられなかったから、それを期に家を出た。
両親は、大学の学費と生活費は出してあげるからと、もろ手を挙げて喜んだ。
本当に、僕は要らない子だったんだと、思った。
大学での、生活は概ね順風満帆だった。
知り合いもいない、僕と春陽を知ってる人も、比べる人もいないここが本当のスタート地点だと思った。
「・・・っ!?」
ある日、ドクッ、と心臓が跳ねた。
目の前には、美形。それも、トップクラス、モデルかと思うほどの。
彼は、聞かずとも解かるαらしいαだった。だからその周りには、たくさんの人が集まる。強い、αだから・・・。
遠くから、一目見ただけだった。
それだけで、全身が警告を鳴らす。
近づいてはダメだと、これ以上はダメだと。
だから、人目も憚らず走って逃げた。大学から出ても、何で走ってるか忘れても、足は止まらず、震える手で開いた扉の向こう、自分の部屋の玄関に座り込んで、ようやく息を吐く。
ただ、あの感覚だけが忘れられなかった。
息を整えて、玄関を這って部屋に入ると、冷蔵庫の中のミネラルウォーターを出して喉を潤す。冷たさも相まって、冷静な思考が戻ってくる。
大体、今まで会わなかったんだ。たぶん、学部が違うのだろう。なら、これからも会う事は無いだろう。
すれ違う事はあるかもしれないが、平常心だって言い聞かせた。
僕なんかが、βの僕なんかがαの最高峰と言ってもいい位の彼の目に入るはずが無い。
そう、思えば何故だか気持ちがスッと楽になった。
ただ、忘れてはいけないのは、本能の警告。βの僕が本能なんておこがましい話かもしれないけど。
「・・・何で?」
少し落ち着いてから、課題を済ませて、バイトに向かった。
近くのコンビニで、人気は無いが需要はある場所で、僕みたいな人間でも雇って貰えた。
その、僕の前には、今日大学で見たαの彼・・・。
「タバコ、欲しいんだけど」
「あっ、はい。何番ですか?」
「19番、二つ」
そう言われて、19番の赤と白のパッケージボックスを二つ手に取った。
「こちらですね?」
その問いに彼が頷くのを見てから、僕は二つのバーコードを読み取って、値段を告げ、年齢確認をさせてもらって代金をいただいた。小さな袋に、ボックスを入れるとお待たせしましたと差し出した。
「どーも」
そう言って、彼は笑って出て行った。
バクバク、と心臓の音が鳴り響いていたのを、彼に気取られなかったのか、それが心配だったが何でもないように出て行ったので、きっとちゃんと普通のお客さんと同様に接客できたのだろう。
でも、正直暫くは会いたくはないと思った。
そう言った感想って言うのは、願えば願うほど叶わないわけで・・・。
「あっ、あのコンビニの・・・」
僕は、彼を見るなり再びダッシュで逃げ出した。
彼の傍の人垣が、阻んでくれて彼が追いかけてくることは無かった。
僕なんかを追いかけてくるなんて、あるわけも無いんだけど。
その日から、彼と僕の大学内追いかけっこが始まった。
バイト先は知られているので、あくまで客として接するけれど、大学は完全にプライベートだ。
逃げて何が悪い?
そんな、彼は痺れを切らしたのか、バイト中の僕に話しかけて来た。
「なぁ、何でお前、学校で逃げるわけ?」
「二点で、920円になります」
「おい、無視かよ?」
「千円御預かりします」
「何とか言えって」
「80円と領収書のお返しです」
あくまで、貴方とは店員と客で、係わり合いになりたくないのです、と言う態度を崩さない。
あーもう、と言った彼は、気分を悪くしたのかそのまま出て行ってしまった。
僕としては、もう来て欲しくない。僕の精神的問題で。
「よー、終わったのか?」
お先に失礼します、と出た先に、先ほどのコンビニの袋を持ってタバコを吸いながら待っている彼。
僕は目を見開いて驚いた。アレから、既に2時間は過ぎているだろう。
なのに、彼はここで待っていたのか?
僕は驚きすぎて、咄嗟に動くことが出来なかった。
そんな僕に、彼はタバコを携帯灰皿に捨てながら近づいてきた。
「アンタさ、何で無視すんの?」
「・・・貴方と係わり合いになりたくないので」
「俺、アンタになんかした?」
「いえ、特には・・・」
彼が、悪いって訳ではない。けれど、どうしても態度は変えられない。
その傍を、すり抜けようとすれば腕を掴まれた。
「逃げんなって。何もしないから」
その言葉で、考えた後、ココで強行しても先の未来は変わらないだろうことは解かり切っていたので、体から力を抜いた。
逃げる意思が無くなれば、自然に掴まれた腕は離される。その事にホッとしながら、遠慮がちに彼を見た。
「・・・貴方こそ、何で僕なんかに構うんですか?」
何のメリットも無いだろうに、何でこの人は僕に何度も話しかけてくるのか、不思議だった。
僕は、ただのβだ。
「んー、何でだろうな?お前、気になるんだよなぁ」
そう言われても、困る。僕は、なるべくなら傍にさえ居たくは無いのに。
「まぁ、細かいことは気にすんな。送ってく。帰ろうぜ?」
そう言って、彼は僕の腕を取って歩き出す。
「ちょ、離してください!」
「あー?いいだろ、別に」
減るもんじゃなしに、と言う彼に僕は信じられないと被りを振った。
「アンタ、バカですか?普通、男二人が手を繋いで歩くなんておかしいでしょ?」
「えっ、何で?別に普通じゃねぇ?俺はαだし、お前」
Ωだろ?
そう言われて、意味が解からなかった。僕は、強くその手を振り払うと叫ぶように言う。
「違う!僕は、βだ!」
そう、βだ。βで有りたいのだ。
「嘘?マジで?」
こんな匂いしてんのに?
そう言う彼は、少し離れた僕に近づくと、首筋に顔を埋めてきた。
「なんっ」
「んー、こんないい匂いなのにな。・・・お前、暫定βか?」
ビクッ、と体を震わせた僕に、彼はビンゴっと笑った。
暫定β。それは、αやΩの因子を持っていながらも何らかの理由で2次性が覚醒せず、βと何ら変わりないαやΩを差す。
暫定βの発するフェロモンは、一般のβと変わりが無い。発情期も無ければ、それに引き寄せられることも無い。
ただし、後天的にαやΩに変わる可能性がある、特殊なβとも言える。
それが、どう言ったタイミングかは解明されて居らず、唐突に変わってしまう。
普通に暮らしていたはずなのに、次の日からいきなりα、Ωです、何て言われたって誰もが受け入れられるものではない。
Ωなら特に絶望は激しいと聞く。
「まぁ、なら仕方が無いか。ほら、帰ろうぜ?」
何が仕方が無いのか、解からない。けれど、それ以上、突っ込まれた話をされなくて助かったと思う。
その日、僕は大人しく彼に聞かれるがまま、自分の家の道を教えて、ただひたすら進んだ。
「また、学校でな?」
「・・・あの」
そう言って、帰ろうとする彼を引き止めた僕。思いのほか、小さな呟きのような声でも彼はちゃんと立ち止まってくれた。
「何?」
「僕は、学校で貴方と関わりたくないです。むしろ、貴方と関わりたくないです」
アレだけの、取り巻きに囲まれた彼の傍に僕なんかが行けば不興を買うことは明らかだ。
何が起こるか、わからない。
「何で?それ、さっきも言ってたよな?」
そう、少し冷たい目で見つめられ、僕は言うべきか、と思案する。けど、言って少しでも状況が変わるなら、と口に出すことに決めて、息を飲んで口を開く。
「僕は貴方が恐いです。貴方の周りに集まる人も恐いです」
「恐いって・・・、この顔とか変えようが無いんだけど?」
そうじゃない、そう言う意味じゃない、と首を横に振る。
じゃあ何?と、彼は僕の顔を覗き込んでくる。
「貴方のフェロモンはきっと、周りのΩの因子を酷く刺激する。僕は、βで有りたい。だから、恐い」
僕の中で眠ってる、Ωの因子まできっと、彼のフェロモンを感じ続けたら目覚めてしまう。
それだけは、絶対に嫌だった。
「それに、貴方はαだ・・・。僕は、もう二度とαの友達は作らないって決めてるんだ」
αの友達を恋焦がれ、それで居て自分の中のΩ因子を否定するなんて矛盾していることはわかっている。
解かってるけど、それでも僕にはどうしても受け入れられなかった。
「だから、ごめんなさい」
そうして、頭を下げた僕に対して、彼はあー、と何とも言えないような声を出した。
「解かった。学校ではお前に話しかけたりしねぇよ。けど、お前がバイトしてる時、いつもじゃないなら、会いに行っても良いだろ?」
彼の、何とも困ったような、それで居て不安そうな顔に、僕は気が付いたら頷いていた。
「僕には、お客様を拒む権利はありませんから」
その言葉に、良かったと彼は笑って言った。
「今更だけど、俺は的場 悠基。お前は?」
「・・・市村、陽音です」
そこから、僕と彼、的場君との人付き合いが始まった。
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