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「って事があったんだよ」
「へぇ?発情したオメガに襲われたか。俺なら、お持ち帰りしちゃうかも」
「ちょ、マジで怖かったんだからな!!」
ぞわぞわと真崎は震えた。
あの、切羽詰まったような眼でも、獰猛で、はぁはぁとした息遣いとか・・・。
「うわっ、マジもん?そんなにやばかったんだ?」
「・・・お前も、同じ苦しみを味わえばいいのに」
普通、オメガのフェロモンに誘惑されることはあっても、基本的にはオメガに強い種であるアルファがオメガに押し倒されるなんてあるわけがない。
どういうわけか、真崎はその人のよさそうな雰囲気からか、度々襲われる事がある。
今回は特にひどかったようで、未だに真っ青でもうやだ、と呟いている。
「それで、その後どうなった訳?」
「警察呼んで、救急車でオメガは運ばれてった。俺は、被害者なのに相手の親族来たら責められるし、何なの?俺、何もしてない。手も出してない。俺がなにしたって言うんだ!!」
「・・・お前の精神強いなぁ」
「そりゃ、抑制剤も飲んでるし・・・俺はね、ベータの女の子と普通の結婚をして普通の幸せを手に入れたいの!」
みゅきーっ!!とジタバタ暴れる真崎。
あー、はいはい、と真崎の頭を撫でる結城。
「で?今度の土曜、合コン行く?」
「行かない!!」
結城は、真面目そうな見た目の真崎とは正反対の友達だ。
幼馴染と言うのもある。が、一緒に居て気楽だし同じアルファだからか、安心できる。
オメガが怖いのは、仕方がない。
何故か、群がってくるのだから。本当に希少種なのか?と言いたくなるくらい。
結城には、オメガのパートナーが居る。番だ。合コンは、メンバー集めを頼まれたらしい。何でも、その子と知り合って仲を取り持ってもらったらしい友達に、合コンのセッティングを頼まれたそうだ。
どちらにしろ、そう言った結城の友達とはあまり合わない性質の真崎は、合コンの話を断り続けている。
肉食系女子やオメガが端的に言えば、苦手なのだ真崎は。
「俺、もう次の授業あるから行くな」
そう言って、真崎は結城から逃れると、はぁ、とため息を吐いて教室を目指す。
幾つかの授業の内、この授業だけは誰ともかぶってなくて、毎回一人で授業を受けていた。
「隣、空いてるか?」
他の人は、大抵友達と来ているから、隣に誰かが座ったことは無かった。
だから、掛けられた声にとっさに反応することが出来ず、もう一度彼は聞いてきて、空いてます。とだけ答えられた。そうか、なら失礼する。と言って座った彼は、とてもイケメンで格好よかった。真崎は自分とは正反対だと感じる。
「あれっ、蜜葉もこの授業だったの?」
出入り口に近いこの席で、後ろから入って来た子が声を上げた。
少し派手目の女の子が後ろに居て驚く。
「あぁ、お前らも?」
「そうそう、この授業必修でさぁ」
「そうかよ、まっ、頑張れば?」
「ひどっ!あっ、じゃあこっち来て教えてよ」
「断る。テメェで頑張んな」
蜜葉のケチ、と言って女の子は去っていく。
それについて、ようやく静かになった場所にホッと安堵した。
そして、真崎は彼に隣に座ることを許したことを後悔した。
再びため息を吐いた真崎は、眼鏡をかけなおすと、自分には関係ないと目を閉じた。
「なぁ、ここの意味わかるか?」
授業が終わり、ノートとかを片付けていると、隣の彼から問われた。
とっさに辺りを見回して、自分を指す。
「・・・俺に聞いてるの?」
「お前以外に誰が居るんだ」
呆れた顔を隠そうともしない彼に、カラ笑いしか返せなかった。
と言うか、初対面の真崎に聞いてくる彼がすごいと思った。
「そこは・・・」
と、問われた所を説明しようとしてみるも、次の授業を受ける生徒が続々と入ってくる状況にあー、と真崎は頭を掻いた。
「この後、暇?」
「あぁ、この後の授業はもうない」
「じゃあ、ラウンジに行こうか。そこで教えてあげる」
サンキュ、と言った彼は真崎の後に付いてくる。
「俺、日積 蜜葉。お前は?」
「真崎。真崎 信忠」
「古風な名前だな」
「名前負けしてるけどね」
そう話しているうちに、ラウンジに付いた。
ノートを広げて、先ほどの授業の復讐を兼ねながら説明していく。
「・・・で、こうなるから結果がこれ」
「あぁ、なるほど。そういう意味だったのか。ありがとう、助かった」
二カッと笑って礼を述べてくる蜜葉に真崎は、いえいえと返す。
「俺でよければ、これぐらいはいつでも言って。俺だって分からないことはあるけどね」
そう言うと、真崎は席を立った。きっと、もう話すことは無いだろうと思いながら。
「はぁ!?あの、日積と話したの!?」
次の日、昨日の出来事を結城に言えば、とても驚かれてこっちがびっくりする。
「そんなに、有名な奴なのか?」
「有名って・・・あぁ、もう!!いや、でもこれはノブにとっても・・・いや、いや、いや、後が怖い・・・でもなぁ・・・」
「一体、何だっていうんだ?」
ブツブツと目の前で訳の分からない事を呟いている結城に真崎は首をかしげる。
「いや、うん!俺は何も知らなかった!そうしよう!」
「何がだよ?」
いきなり結論を出した結城に、呆れた声で真崎は言った。
全く、何が何だかわからない。
「もう、話すこともないだろうし、何でお前が慌ててる訳?」
「いや、うん。良いんだ、気にすんな!なっ!?」
結城の何時にない勢いに負けて、真崎はとりあえず、おっ、おう、と頷いた。
その直後、どんっと背中に衝撃が走った。
「よぉ、昨日ぶり。昨日は助かったわ」
と、背後から聞こえてきた声に、無性に叫びだしたくなった真崎。
まさか、昨日の今日で話しかけられるとは思ってもみなかった。
それに、今日はあの授業の無い日だから、余計に。
「これ、礼な」
と渡されたのは白い紙袋。
中には、3つほどのドーナツ。
んじゃ、とあわただしく去っていく日積。その姿を、何とか無事に見送ってため息を吐く。
あんなに派手な登場をしなくてもよいではないか。
「本当に日積と話してらぁ」
「何で俺が嘘つかなきゃいけないんだ!だいたい、嘘をついて何の得があるんだ俺に!!」
憤慨する真崎だったが、やはり日積の事が気になった。
「で?日積って何なの?」
「・・・とある企業の御曹司、の婚約者」
と、結城はげっそりとしながら言った。
「あいつ自身も、金持ちの出でさ。なんか、大学卒業したらすぐに結婚だって」
その時、結城の話を聞いて、真崎は良くある話だなぁ、とか可哀想だなぁとか他人事のように考えていた。
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