つまり、じじいの一目惚れから始まるストーリー


じじ・・・三日月(23〜25くらいを想像)→名家、三条家の跡継ぎ。超マイペース。
たぬ・・・同田貫(高1)→両親は事故で他界。親戚をたらい回しになった末、両親の遺産で一人暮らし。



とりあえず、何か少女マンガ的な・・・?


【じじたぬ】つまり、じじいの一目惚れから始まるストーリー【女体化】


人ごみの中でも目を引く程の、超絶な美形。
綺麗だな、なんて思いつつ目を合わせないように、その脇を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。
腕を辿り、見上げれば、掴んでいたのはその美形で・・・。

「突然だが、俺は三条宗近と言う。お主、名は?」
「・・・はぁ?」

訳がわからなかった。
この状況も、まして声を何故掛けられているかさえ。
理解が、出来なかった。

「だから、名を何と申す?」
「ど、同田貫、正国だが・・・?」

何、名前教えてんだって話だ。この時の俺は、美形の顔が近くにあって、訳も無く緊張してたんだと思う。

「そうか、ではたぬよ」
「たぬ・・・?」

たぬ、とは俺の事か?
無意識に拳を握り締めた俺は、悪くないと思う。

「付き合ってくれ」
「どこまで?」

冷静に考えろ。こんな美形が俺と恋愛をしたいなんて、思うわけが無い。
不恰好で男勝り。こんなモテ要素も無い俺がこの人とどうにかなるなんて考えられるわけが無い。

「はっはっはっ、決まっておろう。最後までだ」
「最後・・・?」
「たぬは鈍いな。俺は主が好きだと言っている」

こんな綺麗な顔が近くで好きだと、真顔で言う。俺じゃなくたってドキドキ位するだろう。

「なっ・・・!?ばっ、馬鹿じゃねぇの!?何で、アンタみたいな綺麗な人が俺みたいな不細工を・・・」
「不細工?たぬは可愛いぞ」

そう言って、美形・・・、たしか三条さんが頭を撫でて笑うから本気度がわからない。

「かわ・・・っ!?アンタ、目がおかしいんじゃねぇの?」
「何を言う。視力は2,0だ」

そう言う問題じゃない、と俺は脱力した。
むしろ、頭の方の問題だろう。この俺を可愛いなんて・・・。

「それにの、たぬには一目惚れと言うものをしたのだよ」

目と目を合わせ、本気のように言う三条さん。
その瞳に、引き込まれそうになり、慌てて突き飛ばして逃げた。











「はぁ・・・」

本日、何度目かのため息。
昨日、あんな事があってから、あの人・・・三条さんが頭から離れない。

「どうした、ため息なんか吐いて。お前らしくも無い」

そう言って、声を掛けてくる堀川 切国。

「お前は幸せそうで良いよなぁ・・・」
「ばっ、い、きなり何の話だ!?」
「ほら、入り口。お前の大切な彼氏様が呼んでんぞ」

教室の入り口、上の窓の桟に手を置き、中を覗いてきた浅黒い褐色の肌の持ち主。
伊達 広光だ。このトウラブ学園で知らぬものはいない、とまで言われた不良。
それが、美形だから余計に噂になる。そんな彼の男を射止めたのは、どういう訳かコイツ、堀川切国だった。
どこで、伊達と出会ったかは知らないが、今じゃ公認カップルだ。
何せ、休み時間ごとに伊達は切国に会いに来る。
今もギリギリ見えるんだが、廊下の窓側に背を預けた伊達の足の間に入って、そのブレザーを頭からすっぽりと被った切国。
目立つこと、と言うより自分の容姿が嫌いな切国は、その格好が凄く落ち着くらしい。
しかも、話す時はわざわざあの伊達が、身を屈めて切国に近づくもんだから、近い近い。
どれだけ、伊達が切国を溺愛しているのか、一目でわかるだろう。

「・・・幸せそうで何よりってか?」
「何だ、たぬき。僻んでんのか?」

机にうつぶせていた頭に、ポンッと置かれた手。
異様に腹が立って、バチッと音を立てて振り払う。

「うっせ、僻んでねぇよ、ほっとけ!」
「そうかー?」

そう言う結城 御手杵にいつもは何だかんだと返すところだが、今はそんな気力も無く。
俺は、はぁ、とため息を吐いた。
そんな風に、くだらないやり取りをしている間さえ、あの綺麗な顔がちらちらと頭の中をうろつく。
ましてや・・・、可愛いなんて言われたのは生まれて初めてだ。余計に頭から離れない。

「どうした、本気で。お前変だぞ?」

その言葉に、うるせぇーと手を振ってあっち行けといえば、しぶしぶ席に戻って行った。

そんな平日、事は放課後に起こるのはもう当たり前なんだろう・・・。

「な、ななっなぁああああ!?あああああ、あんんた!?」

校門のところで、何やら人だかりが出来ているかと思えば、その中心で頭一つ飛び出ていたのは、昨日の三条さんで・・・。
俺の叫びに、ニコニコと周りと話していた三条さんが気がつき、近づいてきた。

「おぉ、たぬや。待っておったぞ。さて、行くとしよう」
「誰がたぬだ!大体、行くって何だ!?どこに!?待ってたって、何でアンタココ・・・」
「はっはっはっ、まぁ細かいことは気にするな。行き先は着いてからのお楽しみだな」
「いや、気にしろよ!ちったぁ、俺の話を聞け!楽しくも何ともねぇよ!離せ、おい、聞いてんのか?おいコラじじい!!」

ずるずると、止めてある高そうな車に引きづられる中、はっはっはっ、と愉快そうに笑う三条さんをぶん殴りたくなった。こんな綺麗な顔殴るなんて出来ないから、背中に蹴りいれるぐらいはしたけど。ん?スカートが捲れるだぁ?スパッツはいてるっつうの。

ブンブンと手を振り回しても何をしても、解かれることの無い束縛に疲れてしまった俺は、気がついたら車の助手席に座らされてたわけだ。
コレって、傍から見れば誘拐に見えるんじゃねぇかなぁ。まぁ、三条さん気にしてなさそうだけどな。

いや、ホントこの人少しは話聞いてくんねぇかなぁ?











で、俺は何故か三条さんの本邸にいる。

「こりゃ、どういう状況か説明しろじじい」
「たぬや、じじいとは俺の事か?」
「アンタ以外に誰がいんだよ!?」

三条さん、と呼ぶのは気恥ずかしい。し、名前なんてもっと呼べねぇ。
なら、ムカつくしイライラを沈めるという意味も込めて、じじいと勝手に呼んだ。
耄碌し始めてるんじゃねぇかって思えるくらい、忘れっぽい。こんな奴、じじいで十分だろ。
見た目だけは、若いのにな。

「そうかそうか」

にっこにこ、と嬉しそうに笑う三条さん。じじいって言われて喜ぶなんてなんかおかしいぜ、この人・・・。
そうしている間に、目の前の席が埋まる。
ふと、顔を上げればどこと無く、三条さんに似てる二人。

「父上、母上。コレが、たぬです」
「誰がたぬだ!同田貫正国だって何度言えば解かる!?」

二人の前だというのに、俺は三条さんの胸倉を掴み上げた。
いい加減、人の名前くらい覚えろ。

「そうか、その方がお前の選んだ子かな?」
「はい、父上」

締め上げられてるにも関わらず、ニコニコしながら答える三条さん。
普通に会話しだした三条さんの父親も凄くマイペースだな、おい。

「ならば、大切にしなさい」
「言われずとも」

それだけ言って、父親のほうは笑いながら去ってしまった。
残された母親は、ぽかんとした顔のままこちらを見ていた。
母親は常識人みたいだ。何で父親に似たんだ、三条さん。

「えっと、えぇっと・・・」
「母上、コレは気にしなくて良いのです。たぬの、照れ隠しですから」
「誰が照れたよ!?何時どこで!?」

はっはっはっ、と笑う三条さん。ホント、この人何なの!?

「そ、そうなの?・・・まぁ、でも。宗近さんが選んだんだもの、私が意を唱えることは無いわ」

そう言って、父親を追っていくように母親は出て行った。

「ありがとうございます、母上」

そう言って、見送る三条さん。

「なんだったんだ、一体・・・」
「たぬや、コレで俺の両親とは公認の仲だな」

いやぁ、めでたい、と言う三条さんに目が点になった。
誰と誰が公認の仲、だって?

「・・・俺とアンタ、関係は?」
「恋人に決まっておろう」
「俺、アンタに付き合うなんて一言も言ってねぇよな?」
「聞いてはおらんな」

なら、と言葉を募ろうとしたその唇に三条さんの人差し指が、ぷにっと当てられる。

「だがな、たぬや。同田貫正国や。この俺が、お前が欲しいと言ったのだ」

スウッと冷たく冷えたように感じるその眼差しに、ゾクリと背筋に冷や汗が伝った。

「この、三条宗近に手に入れられぬものなど、有りはせんよ」

ひっ、と喉が引きつる。喉がからからになって、勝手に声がかすれていく。
息を吸う音さえも大きく聞こえ、少し、あと少ししたら倒れるんじゃないかってギリギリの緊迫感が漂った。

「だからな、たぬ。お前は、俺に見つかった時点で」

俺のモノなのだよ

そう、三条さんはニッコリと笑った。

力が入らず、くてっ、と三条さんに倒れこめば、よしよしと言ったふうに頭を撫でられた。

「そう言えばたぬや。今、一人暮らしであろう?俺の部屋に越してくるが良い。その方が、より一層お互いが知れよう?」

そうだ、それがいい、と言った風な三条さんに慌てて体を引き起こす。

「アンタ、何言って・・・」
「全て、俺に任せろ。悪いようにはせぬよ」

そう言うと、三条さんは立ち上がった。・・・俺を抱えて。
何故か、むちゃくちゃな事ばかりなのに、全て任せてしまおうとしている俺は、どこかおかしい。

「さて、そうと決まれば俺の部屋へ行こうか」

そう、言って車で着いたのは有数の高層マンション。
最上階のボタンを押すと、緩やかにエレベーターは上がっていく。
チンッ、と音が鳴り最上階でエレベーターの扉が開いた。

「よっ、宗近」
「国永か。もう、済んだのか?」
「おう、ばっちりだぜ。お前のとこの、空いてるところに全部詰め込んでおいた」

そう言うと、国永と呼ばれた彼は手を振ってエレベーターで降りて行った。

「いらっしゃい、我が家へ」

そう、最上階に一つしかない扉を開けると、そこはまさしくVIPな世界。
こっちだという三条さんに連れられていくと、そこは一つの部屋の前。
開けてみろ、と言われノブに手をかけて、開く・・・。

「なっ!!?」

目の前に広がるのは、1Lの自分の部屋と寸分たがわぬ、今朝出てきたままの部屋の姿だった。

「流石に、冷蔵庫や洗濯機なんかは無理だったが、少しでもお主が寛ぎやすいように整えさせた」

いや、むしろあの部屋を再現させたなら散らかした、と言ったほうが正しいようだが。

「・・・って、俺の部屋は!?」
「心配するな、ちゃんと解約の手続きは済ませた」

そう言う問題じゃない・・・。

こうして、俺は三条さんと一つ屋根のした、強制的に暮らすことになった。










会社のお偉いさん方が集まったパーティだとかで出かけることの多い宗近・・・名前呼びは強制された・・・とは、少しすれ違った生活を送るものの、概ね順風満帆と言った形だ。
家賃、光熱費は要らないと言った宗近に、俺はそれなら家事をと、請け負った。
まぁ、何と言うか・・・家政婦が今まで来て家の事をしていたみたいだが、この人本当に私生活ダメ人間だな、と感じさせる位のだめっぷりだった。洗濯機の使い方も解からない、掃除機も使えない、果ては脱いだら脱ぎっぱなしが主。
何度怒鳴りつけたか、もう数え切れない。最近では、スーツくらいは、キチンとハンガーにかけるようになった。えらい進歩だ。そんな、ある日・・・。

「身内だけの、簡単な食事会がある。たぬや、一緒においで」
「はぁ?何で?」
「俺の恋人を紹介しろと煩くてな」

俺は、アンタの恋人になったつもりはこれっぽっちも無い。そういいたかったが、あの目で何を言われるかわからなかった俺は、とりあえずその言葉を飲み込んだ。

「・・・俺は、マナーなんてしらねぇぞ」
「身内の寄り合い、無礼講だ」
「綺麗な服とかも持ってねぇ」
「着ていく服は俺が用意しよう」
「化粧なんかしねぇからな」
「それでいい。たぬはそのままで十分、可愛い」

そう、言われて、やっぱり可愛いなんて言われなれてない俺は、顔を赤くして、ならいい、と小さく呟いた。
・・・俺の言葉一つで、笑顔を咲かせる宗近に、俺も相当絆されている。

が、そんな気分もその寄り合いに出れば、鬱々としたものに変わる。

「・・・宗近殿は、自らの容姿故に醜美に疎くなったのか」

何て言葉があちこちから聞こえてきて、飯どころじゃない。
何か、隣の宗近もイライラとしているのが感じ取れる。

「・・・あれなら、まだ家の娘の方が・・・」

あんたの娘が如何程かはしらねぇけど、宗近が欲しいと思えば、俺よりも先に婚約が決まってただろうよ。

「あんな小娘に・・・あの先方の御子では・・・」

小娘で悪かったな。まだ、高校生だ。当たり前だろう。

「・・・会席マナーさえ知らないあの様子では・・・」

会席マナー?一般女子に何を求めているんだか。

はぁ、とため息を吐きかけたとき、ダンッと宗近は机を叩いた。

「あい解かった。たぬや、行くぞ」
「は?行くってどこに?」
「帰るに決まってるだろう。俺は、三条家を捨てる」

その台詞に、周りはギョッとし、俺は唖然とした。

「アンタ、何でそうぶっ飛んだ?」
「俺が、たぬを選んだのだ。それが気に食わないと、周りは言う。俺は周りの言うことは聞くつもりが無い。ならば、家を出てしまえば、煩いことも言われずに済む。俺は正直、三条の家にこれっぽっちも未練など無い」

きっぱりといっそ清々しいまでに言い放つと、宗近はそのまま俺の手を引いて会場を後にした。
周りは、何だかんだと言って引きとめようとしたが、宗近は一切耳を貸さず、俺を引き連れたまま車に乗り込む。

「母上と父上には報告せねばな」

と、アクセルを踏み、車を走らせた。

いつもは優しい穏やかな運転だったのに、この日に限っては苛立ちが残っていたのか、荒々しい運転だった・・・。
この後、ご両親に報告した宗近は、母親の旧姓、三日月を名乗ることになり、三条宗近改め、三日月宗近となった。








あの日、宗近が三条家を出た日から、数日が過ぎた。

「・・・遅いな?」

いつもなら、遅くなるにしてもメールか電話で知らせが来る頃。
携帯を覗いて見ても、メールの通知もラインも何も来てはいない。
電話も、なる気配は無いし、留守番電話の通知もない。
一抹の不安が頭を過ぎったが、大丈夫。こんな日もある。
と、俺は思い、ベッドに横になると目を瞑って眠りが来るのを待った。
暫くすれば、騒がしく玄関が開く音が聞こえる。
帰ってきたのだと安心して、玄関の方へカーディガンを羽織って行く。

「宗近さ・・・っ!?」

玄関に顔を出せば、宗近と・・・知らない女。

「たぬや〜」

今帰ったぞ〜と、呂律の回っていない声で、俺の方へ倒れこんでくる宗近。
いつもの宗近の安心するような匂いじゃなくて、大量にする酒の匂い。
それに、俺は顔をしかめる。

「じゃ、じゃあ私は行くわね?彼女さん?三日月社長を、よ、よろしく!」

そう言って、青いんだか赤いんだかわからない顔色をした女は出て行った。
パッと見だが、綺麗な人だったと思う。そう、この綺麗な顔をした宗近と並んで遜色無いような美女。

ズキッ・・・

胸が痛んだ。
誰が見ても解かる。俺と宗近が釣り合ってなんかいないことに。
付き合ってはいない。付き合ってる、恋人同士だと言っているのは宗近だけだ。そう、言い聞かせても、この胸の痛みは消えてくれない。

「たぬ〜」
「・・・何だよ?つか、アンタ酒臭ぇ」
「はっはっはっ、よきかなよきかな」
「意味わからねぇ・・・」

そんな胸の痛みを無視して、俺は宗近を部屋へ運んだ。
ドサッ、とベッドへ下ろせばニコニコと笑っている宗近の顔が嫌でも目に入る。
苦しそうだから、ネクタイを外してやり、少し考えてからベルトを緩めた。これで、スーツだけど寝る分には問題ないだろう。
そうして、立ち上がろうとした俺の腕を引っ張る宗近。反動で、俺もベッドの上に転がる形になり、俺は宗近の腕の中に閉じ込められた。

「たぬも、一緒に寝るぞ」
「はぁ?ちょ、冗談だろ?」

ドキドキと胸の鼓動は収まらない。ニッコリと、偽り無く笑っている宗近の笑顔をこんなに近くで見ることになるなんて思っても見なかった。

「俺は、うそは、いわん・・・」

ぞ、と消えるような小さな声で言うと、すうすう、寝息が聞こえてきた。
眠りに落ちても、落ちない腕力にため息を吐いて、力を抜いた。
明日の朝、どうなっても知らねぇ。と思いながら。それでも、少し頬が緩むのを止めることは出来なかった。

[newpage]
宗近が、三条から三日月に変わって、何かと多忙になったのか、夜連絡が来ないことが増えた。
それに伴って、俺の睡眠時間も減った。どうしても、眠れない。
不安で、不安で仕方が無い。

「今日も、連絡なし、か」

携帯を、握り締めて自嘲気味に笑う。
今日で、三日目だ。宗近から連絡が無いのも、宗近と会っていないのも。
何か、あったのか。不安が、大きくなる。連絡を取ろうにも、何で俺がって、変な意地が邪魔して電話をかける事すら出来ない。
けれど携帯を手放すことも出来ず、そのままベッドに横になった。

「宗近さん・・・」

呟いて、掛け布団を握り締めてギュウッと目を閉じて眠れるようにと願う。

が、そんな願いもむなしく、俺は一睡も出来ないまま朝日を拝む事になった。
ため息を吐いて、起き上がりベッドから抜け出す。
結局やっぱり、宗近は帰っていないようで、昨日の夜に用意したご飯がそのまま残っていた。
ため息を吐いて、それを朝ご飯にしようとも思ったが、半分も食べないうちに、食欲も無くなり、結局捨てた。
涙が出そうになったが、ハッとして時計を見て急ぐ。もう、家を出る時間ぎりぎりだ。着替えて、身だしなみを整えて、誰もいない空間に、いってきます、と返っても来ない挨拶を告げて飛び出した。

「おい、たぬき。大丈夫か?」
「・・・あっ?何だって?」

何度か授業中に眠りそうになったが、その度に何故か意識が引き戻されてため息を何度ついたか知れない。
そんな俺を心配してか、肩を叩かれて声を掛けてきた切国。

「・・・本当に大丈夫か?顔色が悪い。保健室に行かなくいて良いのか?」
「大丈夫だって、コレくらいどうって事ねぇよ」

そう、笑えば余計に心配そうな顔をされたが、それ以上は何も言っては来なかった。
その事に感謝しながら、俺はその後の授業を滞りなく受けて放課後、一人家路に着いた。
バイトは前していたが、今は宗近に止めさせられたから、することが無い。
二人分の、無駄になるかもしれない食材を買って、家に帰る。
玄関を開けて、ため息を吐く。今日もまだ、宗近は帰ってきていない。
携帯の電源を入れてみるも、連絡の一つもない。
フラフラとキッチンにたどり着くと、椅子に座って、カバンと食材の入った袋を床に置いた。落とした、と言ったほうが正しいのかもしれないが。
冷蔵庫の中に入れないと傷んでしまうものもあったが、どうにも力が入らなかった。
キッチンテーブルにうつ伏せて、長い、長いため息を吐く。

「いつまで・・・」

その続きは、言葉にすらならなかった。
もう一度、ため息を吐くと、俺は体に力を入れなおし、行動しだした。
ただ、何となく夕飯は食べれる気がしなくて、買って来た食材はただ冷蔵庫の中にしまうだけにとどめた。
風呂に入り、ベッドにもぐる。無理に目を瞑ってみても、睡魔は一向にやってくる気配はない。眠い、そうは思うが、眠れない。

連絡を待って、そうしてまた、俺は朝日と対面する。

ため息を吐いて、立ち上がりフラフラとリビングに出る。今日は土曜日で学校は休みだ。
そのままソファーにぐったりと体を沈めると、テレビを何の気なしにつける。
が、どれも同じようなニュースばかりで面白みも何も無い。
飽き飽きして、テレビを消すと、とりあえずしなければならない事を頭の中でリストを作り一つ一つこなしていこうと思う。
携帯は、手放せなくてずっとポケットの中に入れたままだ。
着信を告げる音も、バイブレーションも無い。寂しいものだと笑った。
ふと、掃除のために入った宗近の私室で、ふわり、とかすかな香りが鼻に付いた。

「むねちか・・・」

フラフラと、誘われるように宗近のベッドに近づく。
その、シーツの中に包まればまるで宗近に抱きしめられている時のようだった。
そこで、安堵の息を吐いて、そして自嘲気味な笑が零れた。

「俺は、何時からこんなに弱っちい存在になっちまったんだ?」

宗近がいない、それがこんなに不安になることなんて、誰が解かる?

「早く、帰って来いよ・・・」

膝を抱えて、一筋、涙が零れた。











SID:なし

「・・・あら?同田貫は今日休み?」

誰も見てない?と、担任の次郎がクラスに問うも、見ていないという返事しか返ってこない。
HRの出席確認を終えた次郎は、何かあったのかと思いながら教室を出た。
その後を、御手杵と切国が追って、待ったを掛ける。

「先生。俺、たぬき今日は見てないが、先週、具合が悪そうにしているのを見た」
「俺も、見てて顔色悪いなって思ってたんだよ」
「それに、土曜に連絡入れても、返って来なかったんだ」

心配だってありあり顔に書いてある二人に、大丈夫だよ、先生が連絡してみるから、と笑って頭を撫でると、しっかり授業を受けな、と教室へ送り出した。
さて、と次郎はその足で職員室に向かうと、連絡網の中から同田貫の名前を引っ張り出す。
同田貫の家庭は、少し複雑で、今は彼女自身の携帯が連絡手段だ。
その携帯に連絡を入れてみるも、“お掛けになった電話は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため〜”のアナウンスが流れて繋がらない。
コレは、まずい事になったと焦る次郎。
住所を確認して、とりあえず向かってみようと同田貫の個人情報を見ると、それは前に記憶していた住所とは異なっていた。
そう言えば、と1、2ヶ月前に住所変更の届けが出されていたな、と思い出す。

「にしても・・・」

その部屋の契約主の名前に、目が止まった。
三条宗近。あの、有名な三条グループの若様だ。
何でまた、同田貫と・・・、と次郎は思うが、それよりも同田貫と連絡が付かないなら彼につけるしか無いだろうと、連絡手段を思案する。
三条家の人間が住むくらいだ、セキュリティは万全だろうし、先生だと言って入れてもらえるかどうかは解からない。
なら、彼に連絡を取れれば一番いいのだが・・・。

「あっ、そう言えば・・・」

この同田貫の書類を持ってきたのは、三条の弁護士だという男だった。真っ白で、女も嫉妬しそうな透明感のある男。その男を見たとき、養護教諭の一期が酷く驚いたような顔をしていたのを思い出した。
一期に聞けば、彼に連絡が取れるかもしれない。
そう、思い立って保健室に向かう。

「・・・って言うわけでさぁ、あの時の男に連絡取れない〜?」
「取れることには、取れますが・・・」

酷く嫌そうな顔をした一期は、ため息を吐くと生徒のためです、と携帯を取り出して連絡をしだした。









SID:三日月

「おい、宗近!!大変だぞ」

バンッ、と扉を乱暴に開けて入ってきた鶴丸を、俺は不機嫌を隠そうともせずににらみつけた。

「この状況が既に大変だ。俺は何時になったら家に帰れるのだ?三条グループから外れた途端、縁談や商談の嵐。誰だ、会社の運営が厳しくなると言った奴。出て来い、叩き切ってやる」
「そんな場合じゃねぇって!お前の大切なたぬきくんが・・・」

俺は、それを聞くとバンッと机を叩いて立ち上がる。その際、書類の山が崩れたが、そんな事を気にしている余裕なんて無い。

「たぬ?たぬに何かあったのか!?」
「連絡が付かないらしい。俺の知り合いが、あの学校に居るんだが、連絡が来てお前に連絡が取れないかって言ってきた」

その言葉に、書類の山を避けて、電話を発掘すると、既に覚えた、たぬの11ケタの番号を押す。
が、無機質なアナウンスが流れて、繋がらない。
それに、焦りを覚える。
たぬは、家の固定電話を取ろうとはしない。自分がとるより、留守電に入れて俺が聞いたほうがいいと思っているから。
おれも、それでいいと思っていた。が、今はその事を酷く後悔した。
一応、今から帰ると、案の定繋がった留守電に入れるが、たぶん聞いては居まい。
久しぶりに開いたプライベート用の携帯で、メールを入れるが、電源が入っていない可能性があるたぬの携帯では見れないだろう。

「・・・鶴や。俺は帰る。そう、言っておけ」

誰に、とも言わずに俺は急ぎ足で社長室を出ると、地下の駐車場に向かう。
無事で居てくれ、と思う。
多少、乱暴になる運転で、急ぎかえってきた久しぶりの我が家。
玄関を開けると、そろえてあるたぬのローファーが見つかる。
シューズボックスを覗けば、たぬの靴は全てそこに入っていたため、外に行った形跡は無い。
ならば、とたぬの部屋の扉をノックしてあける。
が、そこに人影なんて物は無く、嫌な予感がしてトイレ、洗面所、風呂場と次々開けていく。が、見当たらない。
まさか、と思いつつゆっくり、ゆっくり、自分の私室を開けば、暗がりの中、ベッドの上にこんもりとしたシーツの山。

「たぬ・・・?」

思ったよりも小さな声だったが、聞こえたのか、ぴくっとその影が動く。

「むねちか・・・?」
「たぬっ!」

良かった、とそう思いながらシーツごと抱きしめる。
知らず、知らず、安堵の息が漏れた。片膝が何か痛いと思えば、そこには画面の暗いままのたぬの携帯が置いてあった。

「むねちか・・・、おれ、いらない?」
「何を言っている?」
「だって、むねちか、かえってこない」

ボロボロと泣き出した、たぬを俺は、すまなかった、と強く、強く抱きしめた。

「俺が、たぬを要らなくなるはずが無いだろう。愛しておるよ、たぬ」

可愛い、俺のたぬや。そう言えば、不器用にゆっくりとたぬは、俺を抱きしめ返してくれた。

「ひとりは、こわい・・・こわいよ、むねちか・・・」
「そうだな、俺が悪かった。寂しい思いをさせてすまなんだなぁ」

そうして、ポンポンッ、とあやす様に俺はたぬを慰め続けた。
落ち着いた頃、たぬは、泣きつかれたのか、眠れて居なかったのか、すうすうと寝息を立てて眠ってしまった。
遠慮がちにつかまれたままの、ジャケットに苦笑しながら携帯を取り出して、鶴へと連絡を入れた。
たぬが、無事だということ、俺は暫く会社を休むということ。
それだけ、伝えると完全に携帯の電源を落とした。固定電話の元栓も抜いて置けば良かったと、たぬの隣に身を横たえながら思う。

が、今はこの温もりだけ抱きしめて眠りに付こうと思う。



- 139 -


[*前] | [次#]
ページ:

戻る
main