出してもらったご飯を平らげてお茶をごくごくと飲み干した。破面から受けた怪我はすっかり治り霊力も日常生活で困らないほどには回復した。そんな私はまだ浦原商店でお世話になっている。目の前に座ってにこにこ笑っている喜助さんに手を合わせてごちそうさまでしたと伝えた。

「戻らなくていいんすか?」
「………」

破面と戦う前に言われた言葉が胸に刺さってしまって中々とれずにいた。「戦いで千綾に守られたことはない」真子が私を戦いに出すまいと放った言葉だとわかっているが、それこそが本音だともとれる。いや、私にはそう聞こえてしまったのだ。あの時は何も思わないようにして、ただ感情のままに体が動いた。破面と刀を交えて、真子に助けられ、結果私は守られる立場になってしまった。真子の言う通りだった。

「帰れなくなっちゃいました」

困ったように笑うと喜助さんは何も聞かず、ただ帽子を深く被り直した。

「千綾さんはどうしてここで治療を受けていたか覚えてますか?」
「…いえ」

そういえば、あの時真子がいたのだから私はハッチの回帰能力で治してもらったら別にここに来なくてもいいはずだ。

「どうも黒崎さんの怪我を優先しなきゃいけなかったみたいで千綾さんはこっちで治療を受けてたんすよ」
「…そうなんですか」

たしかにあの戦場で負った一護の怪我は私よりも大きかった。彼を優先するのは当たり前だ。だが、しかし、数百年前から一緒だった私よりも数ヶ月前から知り合った一護を優先したんだ、とまるで小さな子供みたいな嫉妬をしてしまった。私も四番隊の出なので怪我が大きい人から先に治療を施すのは当たり前のことだと重々承知なのに。ぐるぐると考えてしまう思考を止めて何もかも忘れたくなった。

「連れてきたのは平子さんでした」
「そうですか」
「千綾さんを抱えてすごく焦ってましたよ」

扇子で口元を隠しながら彼は言葉を続ける。

「久しぶりにあんな平子さんを見ました」

私の心の中にいた小さな子供がいつの間にか消えていった。その代わり嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちになった。まだ何か言いたそうな喜助さんに私はもういいですと目で訴えかけた。

「…地下にいる死神たちに気づかれる前にお暇します」
「あれ、もう帰っちゃうんすか」
「そう仕向けたのは誰ですか」
「ええっ、僕っすか?」

小さな笑みが零れた。帰ったらお叱りを受ける確率が高いけど、今日は甘んじて受けよう。

「帰る前にこれを」
「なんですか?」
「お薬です」

紙袋の中を見ると錠剤がいくつか入っていた。見たことのない薬だ。今の私は元通りとはいかないが普通に過ごしていたら霊圧が戻ると思うのだが。疑問に思いながら喜助さんを見た。

「一定時間霊圧を上げる薬です。それを飲めば今の霊圧の三倍近くは上がりますが、時間が切れれば今の三倍下がります」
「…時間はどれくらいですか?」
「長くて五分、早くて三分です」

小さな錠剤を取り出してよく見る。こんなにも小さな薬にそんな効力持たせることが出来るなんて流石科学者だ。

「今後の戦闘で、もし何かあった時の為です」
「一錠だけですか?」
「千綾さん。その薬はあなたが思っている以上に副作用があるんっすよ。時間が切れれば必ず倒れます。それを、一気に二錠も飲めば死に至ります」

ごくりと唾液を呑み込んだ。喜助さんの脅しのような言葉に私は何も言えなくなる。そんな危険な薬を私に渡した彼は結構迷ったのだろう。しかし、今回の破面に負けた私を見て「何かあった時の為」私が破面に殺される時のことを思ってくれたのだろう。

「ありがとうございます。喜助さん」
「千綾さん。それはあなた自身を守るために使ってください。約束です」
「わかりました」

すっと小指を出される。おどけたように笑った彼に私も笑って小指を絡めた。

「あと、平子さんにもこの薬のことはご内密にお願いします。そんな危ない薬を千綾さんに渡したってバレたらまた怒られちゃいますから」
「私も。受け取ったってバレたら怒られちゃいます」

そして喜助さんとの穏やかな時間が惜しくも感じたが、私は浦原商店を出た。

一定時間霊圧が上がる薬。何かあった時の為。自分の為に使う。約束。

喜助さんは私を死なせまいと渡してくれた。けど、私も彼もわかっているのだ。この薬の使い道を。指切りした小指を見る。みんなのために使うことが、私のためだ。約束は、守ります。

薬をしまって私は歩き出した。