目の前でふわりと四番隊、卯ノ花隊長が微笑む。お茶を優雅に飲むその姿だけで、不思議とこの世の中に虚とか争い事がないように思えた。隣に座るように促されおずおずと隣に座る。彼女は強い人だ。回道の技術はもちろん、戦闘だって強いことを知っている。
「また、言い争ったみたいですね」
「…卯ノ花隊長」
そういえばこの前また十一番隊の虚討伐について行った時にお荷物だとか邪魔だと罵倒され、負けじと口を開いたことを思い出した。
「わたし、戦う力も磨いた方がいいのでしょうか」
「千綾は、何のために力を使うのですか?」
「何のため…、」
「まさか、十一番隊の隊員を言い負かせるためでは、ありませんよね」
私は何も言えなくなり俯いた。何のために、なんて。四番隊の為に、なんて自惚れもいいところだ。
「大切な人の為に力を使いなさい。千綾」
長い長い夢を見ていた、気がする。
「わたし……」
浦原隊長の顔が見えた。私が目を覚ましたことに安堵しているのがわかった。
「体調どうですか?」
頭を優しく撫でてくれる大きな手。戦いで負った傷を洗い流してくれるみたいだ。
「平子さんに連絡しますね」
そう言い消えそうになった彼の袖を掴んだ。
「ひらこたいちょうには、まだ…」
頭がぼんやりしている。真子のことを平子隊長と呼んだのはもうどれくらい前のことだろうか。なんでそう呼んだのだろう。あ、そういえば、さっきまで卯ノ花隊長の夢を見ていたから死神時代のことを思い出してしまっていたのか。
ゆっくりゆっくり意識を現世に戻す。
「千綾さん」
「わたし…」
負けたんですね、と口にしたら悔しい気持ちと悲しい気持ちとで様々な思いが混ざりあって涙が出た。殺されると思った。いや、死ぬことなんて怖くない。怖くないのに、生きていることに涙が止まらなかった。
私の前に平子隊長が現れた時、心のどこかで安心してしまった。言う事を聞かなかった私を彼は酷く怒るだろうな。
「千綾さん。今は怪我を治すことを優先させましょう。ね?」
涙を拭いて喜助さんは私に優しく微笑んでくれた。今だけは何も考えたくなくて頭を撫でてくれる喜助さんの手だけを感じながらゆっくり目を閉じた。