そんな彼にサカズキ大将は、ふん。と鼻を鳴らす。
「本当の事を言って何が悪い。お前もお前だ、クザン。何が“だらけきった正義”じゃ。センゴクが許してもわしは許さんぞ」
「あんたに許して貰う言われは無いさ。元帥はあんたじゃなくセンゴクさんだからなァ……あんまりナマ言ってんじゃないよ」
ピリピリとした雰囲気に私はただ息を飲むことしか出来ずにいた。大将同士。そんな彼らを一介の大佐如きが止める事など不可能だ。助けられたはずが事態が悪化している気がする。
さて、どうしたものか。と思案すればパキッと聞こえた音に顔を上げた。
「っ!クザン大将!!」
パキパキとクザン大将の肩が氷始め驚愕する。ここで能力を使用するのは不味いだろう…。慌ててそれを止めるように目の前の“正義”に手をのばす。ぎゅっと掴めば手がひんやりとした。
「……まだまだ青臭いのぉ」
こちらからサカズキ大将の顔は伺えない。それでも声色は敵意を含んでいた。もう一度ぎゅっとクザン大将の羽織を掴むと同時に、カツと靴音が聞こえる。それはサカズキ大将のもので。
すれ違いざまちらりと視線を向けられたが、何を言うでもなく男は前を向く。あれほど敵意を向けてきた癖に、まるで私など居ないかのような態度。私などいつでも殺せる。そう言われているような気がした。
ゆったりとした動作で歩く男の姿が見えなくなって初めて私は息を着き、握り締めたままだった手を離せば目に映る“正義”の二文字。ああ、息苦しい……。原因は消えたはずなのに、今度はその文字が私を追い詰める。見つめていたのは多分数秒。靡いた“正義”は私の前から消え、代わりに困ったような顔をしたクザン大将が振り返る。
「大丈夫か?」
首をさすりながらダルそうな雰囲気とは裏腹に、声色は私を心配しているようだった。そんな男を安心させるように薄らと笑みを浮かべる。
「クザン大将、能力はやり過ぎです。でも…助かりました。ありがとうございます」
「サカズキの事は極力避けなさいって言ったでしょーよ。久しぶりに本部に来て早々、なんで鉢合わせちゃってるかなー」
「はは、すみません。不可抗力です」
私とて会わずに済むのなら会いたくは無い。笑みを浮かべた私にクザン大将は一瞬きょとん、としてわざとらしく溜息を吐き出す。
「ま、セツちゃんに言ったところで無意味か」
「え?」
「楽しんでるでしょーよ……サカズキの事。あいつが嫌う事を進んでやってる。……殺されるかもしれねェってのに」
「……………そんな事」
「無い。って言いきれんのか?」
「……………」
黙り込んだ私にクザン大将は、ほらな。と口にする。
「ただのバカか、それともドMか…おれからすれば後者のが嬉しい所だが……セツちゃんは違うな。昔から薄々感じては居たが…久しぶりに会ってみれば悪化てんじゃないの」
じっと私を見下ろすクザン大将の探るような視線。私の奥底を覗き込もうとする男の目を見つめる。
「それをなんて言うか知ってるか?……
希死念慮。死にたがり、自殺願望者つーんだよ」
クザン大将の眉間に皺が深く刻まれるのを見て、私はただ薄らとした笑みを浮かべた。
prev next